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2016年02月14日
第646回「解約できない男」
「それでは、一度お越しになってもらえますか」
その言葉に聞き覚えがあったのは、過去に同じことをしていたから。だから、電話をしながらも、たしか電話ではだめだったような気はしていたのです。
「そろそろジムいかないと…」
思えば半年近く、通っていませんでした。自転車を漕いでジムに向かい、プールで泳いでお風呂にはいってと、爽快感を味わっていた夏。やがて気温が下がってくると、足が遠のき、自転車に乗るのも億劫になり、あの頃のように通わなくなってしまうのです。それでも、月謝を払っているわけですから行かなきゃとは思いつつ、結局冬眠状態。それでも、引き落とされてゆく月会費に、フラストレーションも溜まります。過去に同様の経験をしていることも、解約のブレーキになっていました。
その時は数年たってからだったけれど、水泳に関心が向いてきたこともあり、あたたかくなって再入会したのです。だから、いま解約しても、夏になれば、「あぁ解約しなければよかった」、なんてことになりそうです。冬だけ解約して夏限定会員になるというのもひとつの方法なのかもしれませんが、どうもそれは僕の美学に反します。また、「プールは、行こうとおもえば、別の場所にもあるじゃないか」と囁く解約派もいます。会員になるのではなく、その都度利用料を払う施設。そんな、解約派と継続派の拮抗状態が続き、ずるずると、時間だけが経っていたのです。
「あの、解約したいんですけど…」
そんな僕が、ついに電話をしたのは、今年にはいってからのこと。男として、けじめをつけなければいけない。
「それでは、何日までにお越しいただけますか?」
薄々感じてはいましたが、やはり電話で解約の手続きは不可でした。ネットで入会はできても、解約は顔を合わせないといけないシステム。ただ、締め日の都合で、今日解約しても明日解約しても同じ状況。実際、猶予期間は2週間ほどありました。
「そうだよな、電話じゃだめなんだよな…」
別に悪いことをしているわけではないのだけど、どうもキャンセルするというのは気持ちのいいものではありません。しかも、面と向かってなんて。気が重たくなりました。電話の向こうの残念そうな声。電話でさえ気が重いのに、直接伝えることができるだろうか。いざいったところで説得されてしまいそうです。もはや、解約しにいくくらいなら、プールにいった方が楽なのではないか。それこそ、フィットネスクラブ側の思う壺かもしれません。おそらく、同じ状況の幽霊会員は腐るほどいるのでしょう。直接行かないと解約できないという人間の心理を突いた作戦。
「あしたいかないと…」
締めの日が迫ってきました。明日を逃すと、また無駄に会費が引き落とされてしまいます。
「あしたでいいか…」
やはり、締めの日、当日を迎えました。今日こそは行こう。解約しよう。もしかしたらカウンターも混んでいるかもしれないけれど、「あなたもですか?」みたいな表情を向けられるかもしれないけれど、今日はっきり伝えよう。仕事の帰りに寄ろう。
「しんどいなぁ…」
体調がよくなかったこともあり、帰りに寄るつもりが、一旦家に帰ることにしました。
2016年02月14日 17:26
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