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2015年06月14日

第617回「ちくわぶの憂鬱 第3話 再会」

 
「お久しぶりです!」
声は聞こえるものの、夕陽の影で顔が見えません。
「忘れちゃいましたか?僕です、僕!」
近づくと、ようやく顔が見えました。
「わぁ、久しぶり!」
立っていたのは、真っ白な大根でした。

「そっかぁ、二人はおでんで一緒だったのかぁ」
パイナップルが言いました。
「一緒とはいっても、大根はおでんの主役!僕なんか陰でひっそりと浮かんでいただけだから」
「主役だなんて、そんな…」
大根は照れくさそうにしました。
「だって、おでんって言ったらやっぱり大根でしょ!おでんに大根は欠かせないもの。僕なんか、食べない人もいるし、地域によっては呼ばれないこともあるくらい。毎年、今年で最後かもしれないって思っていたからね」
「じゃぁ、大根はおでんの四番バッターってわけか」
「おっしゃるとおり!」
「そうですかねぇ…」
大根はまた照れくさそうにして笑いました。

「そうですね、ぶりと一緒にいるときは、なかなか緊張感ありましたね」
太陽は水平線の下に隠れてしまいました。
「そう、ぶり大根!あれは確かに名作!もはや芸術!」
「決して主役ではないんですけど、脇役でもなくて、絶妙な立ち位置がほかの場所とは違いました」
「ブリと大根というふたつの楽器が奏でるハーモニーは本当に美しい!」
「あの空間の演出も、なかなかできることじゃない!」
ちくわぶとパイナップルは、興奮気味に伝えました。
「だいいち、魚と一緒に張り合えるなんてすごいことだよ!」
すると、大根は苦い表情をしました。
「あれ?なにか気に障った?」
「魚と一緒でも、苦手なときもあるんです」
「苦手なとき?」
「はい。ほそ〜く切られて、彼らの土台になるときです。」
「あぁ、なんていうんだっけ?」
「刺身のつま?」
「いったい誰がはじめたのか、別に僕じゃなくてもいいのにって思ってしまいます。同じ魚でもお刺身となるとやっぱり敵いません。自分の実力を痛感しました。」
ちくわぶとパイナップルはなんて声をかけたらいいのかわかりません。
「あそこにいると、僕に気づかない人間や、僕のことを食べ物と思わない人間もいます。それでよく、紫蘇と飲みに行ったものです。今日も食べてもらえなかったねって」
するとパイナップルは言いました。
「でもほら!つまに横たわっているだけで、刺身も美味しそうに見えるんだよ!立派な仕事だよ!刺身たちも感謝しているんだろう?」
「いやぁ、どうですかねぇ…」
少し、沈黙が流れました。
「やっぱり、大根おろしのときも苦手なの?」
「あぁ!あれは別物!っていうか、むしろ僕の魅力が発揮できる場所だと思っています」
大根の目に輝きが戻ってきました。
「確かに。しらすおろしとか明太子おろしなんて最高だもんな〜辛味大根おろしとか、おそばにもよくあう!」
「すりおろされることはすごく怖かったし、もちろん抵抗もありましたけど、いざやってみると結構たのしくて。それに、人間の見る目がぜんぜん違う!」大根おろしこそ、大根の真骨頂だなんていう人間もいました!」
元気を取り戻した大根に、ふたりは安心しました。
「そう考えると、大根ってすごくフレキシブルだね」
「フレキシブル?」
「あぁ、日本語でいうとなんだろう。融通がきくっていうのかな。順応できるっていうか。」
「いやぁ、ほんとすごいよ。豚肉にも、牛すじ、鶏肉、どれとも相性がいい!ホタテとやってるシャキシャキサラダなんてもう感動モノ!和にも洋にも変幻自在!それに、ぶり大根とか、切り干し大根とか、なんだかんだで大根っていう名前がはいってる。僕なんか、どこにもはいったためしないから、そういうの、憧れちゃうなぁ」
すると、どこからともなく笑い声がきこえてきました。
「あはははは!」
3人は周りを見回しましたが、誰もいません。
「あはははは!魅力だとかさぁ、もう可笑しくて可笑しくて、もう笑いこらえるの大変だよ!」
見上げると、木の枝に、ネギが横たわっていました。

2015年06月14日 10:08

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