« 第617回「ちくわぶの憂鬱 第3話 再会」 | TOP | 第619回「第5話 葱葱クラブ」 »
2015年06月21日
第618回「ちくわぶの憂鬱 第4話 世界にひとつだけの」
「あなたは!」
そこにいたのは、ネギでした。
「ずっときかせてもらったよ。」
「ずっと?」
「あぁ、ほんと聞いて呆れちゃうよ。いったいなにを悩んでいるのさ」
「卑怯だぞ、盗み聞きするなんて!」
「待ってよ、僕はここでただ昼寝をしていただけさ」
そういって、ネギは高い枝からぴょんと飛び降りてきました。
「ったく、なにをくだらないことを話しているのさ」
「くだらない?」
「あぁ、くだらないさ。そんなこと考えているからいつまでたっても引っ張りだこにならないのさ。」
「別に、引っ張りだこになりたいわけじゃない!」
「へー、そうなんだ。まぁ僕だって、なりたくてなったわけじゃないけどね」
ちくわぶたちは言葉がでませんでした。
「どこにでも顔だして、君みたいな八方美人は大嫌いなんだよ!」
パイナップルが言いました。
「八方美人?まぁどう思われても構わないけど、僕はただ呼ばれているだけだけさ。ラーメン、焼肉、冷奴。お鍋にうどんにお味噌汁。一度だって、出してくださいっててお願いしたことないさ。まぁ、あまりお呼びがかからない人にはわからないかな。特に君みたいに、使い勝手の悪いやつにはね」
ちくわぶは、顔をしかめました。
「ちょっと、君言い過ぎだぞ?」
見かねた大根がいいます。
「たしかに君は引っ張りだこかもしれないけれど、そんな性格だから、ほら、おでんに呼ばれないじゃないか!」
「そうだそうだ!冬の主役、おでんに呼ばれていない!」
「呼ばれたさ!」
ネギは遮るように言いました。
「こっちから断ったのさ。あまりにメンバーが多いし、もうこれ以上仕事をいれたくなかったからね。冬は特に忙しいんだ」
「忙しいとか、引っ張りだことか言ってるけど、君なんて別にいなくても何の問題もないんだぞ!」
パイナップルは言いました。
「果たしてそうかな?ラーメン、焼肉、冷奴、僕がいないとどうだろう?どこか物足りなくないかい?逆にいうと、僕がいればとりあえず成立するってことかな?」
ネギは得意げな表情でした。
「どこから来るんだろう、あの自信…」
「俺、逆に言うとって言う人苦手!」
ちくわぶたちは、太刀打ちできません。
「結局さぁ、自分なんてどうでもいいんだよ」
ネギは、まだ言いたいことがあるようです。
「自分なんて、なくていいのさ。自分にあうかどうかなんて自分で判断することじゃない。ましてや、目立ちたいなんてもってのほか。僕は自分を引き立たせたいって一度も思ったことない。むしろ…」
「むしろ?」
ちくわぶたちの口から漏れました。
「むしろ、無になるのさ」
「無に?!」
「そう、そこらへんの石ころと一緒さ。世界にひとつだけの石ころ。なのに君たちは自分が花だと思っている。だから厄介なのさ。僕はこの世界にやりたいことなんて求めていない。自分自身のあるべき姿も。ただ、波の音を聞きながら、昼寝ができれば、それでいいのさ」
波の音が聞こえていました。
「石ころか…」
ちくわぶとパイナップルと大根は、並んで寝ていました。
「無になるって、どういうことなんだろう…」
大根からいびきがきこえます。パイナップルは寝ているのでしょうか。ちくわぶは、空を眺めていました。
2015年06月21日 21:52
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.happynote.jp/blog_sys/mt-tb.cgi/76