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2014年12月29日
第586回「ハクビシンの憂鬱 第三話 にわかファンじゃだめなの?」
「1、2、3、4…5、6、7、8…」
ハクビーたちはいつもの草陰にいました。
「どうしたんだよ、いきなりラケット振り回して?」
「いま素振りしてるんだから、話しかけないで!」
ペッピーが汗だくになってラケットを振り回しています。
「また影響されたんだろうね」
「影響?なにに?」
「ニシコリだよ、ニシコリ!」
ジャコーネが、昨今のスポーツ界のできごとをハクビーに説明しました。
「それで、急にテニスを?」
「まぁ、そういうことだろうね。すごい盛り上がりだったから、彼の活躍に影響受けた人たちはほかにもたくさんいると思うよ」
「どうりで最近ラケット持った人間をよく見かけると思った。でも、そういうの、苦手だなぁ。」
「どして?」
「だって、いままで応援しなかったのに、さも前から見守っていましたって感じじゃん。ペッピーだって、この前はサッカーに夢中だったし。人間もサッカー一色じゃなかった?」
「大きな大会があったからね。まぁ、そういう流行りに乗っかる人たちの存在も必要だって」
ハクビーはペッピーの方に目を向けました。
「それにしても、普段は興味を示さない人たちが、どうして急に釘付けになるのかな。テニスのことなんて一切口にしてなかったのに…」
「それはさぁ…」
ジャコーネが得意げに言いました。
「みんな、テニスを観たいんじゃないんだよ」
「テニスじゃない?え?じゃぁなにを観ているの?」
「テニスじゃなくて、日本人が頑張っているところを観たいんだよ」
「日本人が、頑張っているところ?」
ハクビーは目を丸くしました。
「そう。同じ日本人が頑張っている姿に感銘を受けるわけ。だから極端な話、競技なんて、サッカーだろうがテニスだろうが、野球だろうが、なんだっていいの。日本人が頑張っていればいいの!」
「そういうことかぁ…じゃぁ、ペッピーはどうして?」
「彼は…単に影響されちゃっただけでしょ?」
相変わらず、ペッピーは素振りをしています。
「61、62、63、64…あぁ、疲れた!」
「ねぇ、前に練習してたサッカーボールはどこいったの?」
「え?サッカーボール?どっかにあるんじゃない?それより、いまはグランドスラム!」
そう言って、またラケットを振り回しはじめました。
「かなり影響されちゃってるね…」
「そのうちあのラケットもどこかにいっちゃうんだろうなぁ…」
ハクビーたちはペッピーを残して、家に帰りました。
2014年12月29日 18:30