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2014年12月29日

第579回「誰も悪くない」

「先日、芸人のふかわりょうさんが泊まりにきたんですけど、とても感じの良い方で、ファンになっちゃいました」

 仮に、そんな内容だったら僕は、そのツイートにどんな感情を抱くのだろうか。腹を立てるのか、喜ぶのか。もし腹を立てるとすれば、「人のプライベートを晒すとは、プロ意識はないのか!」ということになるでしょう。「プライバシーの侵害」。しかし、内容がポジティブなので、あまりすっきりはしないものの、寛容さのほうが上回って大目に見てしまうかもしれません。一方、以下のような内容だったらどうでしょう。

「先日、芸人だかなんだかわからないけど、ふかわってのいうのが泊まりにきて、態度がでかくてワロタ!もう二度と来るな!」

 このような内容になってしまうと、寛容さは怒りに押しつぶされ、「プライバシーの侵害」を大目に見ることができなくなってしまいます。下手したら、人間不信にまで陥ってしまうかもしれません。 ツイッターの影響力がどれほどのものなのかわかりませんが、それが人々の「つぶやき」である以上、「先日、ふかわのライブ行ったらすごくおもしろかった!」というものもあれば、「ライブつまらなかった」というつぶやきと、両側面を受け入れなくてはなりません。自分に都合のいいものだけというわけにはいかないのです。

 ただ今回のように、プライベートでの宿泊、仕事ではないことを「ツイート」されるのはどうでしょう。 有名人にとって、いくら「ライブ」と「プライベート」は別と思っていても、みんながみんなそんな都合よく区別してくれるわけではありません。つまり、「ライブをしていようが、泊まりに来ていようが、芸能人は芸能人だ」と認識している人がほとんどかもしれません。芸能人の理屈でいえば境界線は明確なのですが、一般の方からすれば、その境界線はあってないようなもの。「ライブつまらなかった」と「泊まりにきて態度でかかった」に、大きな差はないのです。もちろん、倫理やモラル的な観点は除いていますが。 では仮に、上記の内容を日記に書き留めていたらどうでしょう。ポジティブな内容であれ、ネガティヴなそれであれ、日記なので、原則として誰にみられるものでもないから誰に咎められることでもないのでしょう。もっといえば、人々がどのように思おうと、感じようと、それらを否定することはできません。「いま、お前、俺のこと横柄な態度だと思っただろう!」と胸倉を掴んではいけないのです。

  しかし、日記を書き留めることや思うことと、ツイートすることはまったく次元が違うのに、相変わらずそのことに気付かず、「日記感覚」でツイートする者が後を絶ちません。いや、むしろ、そういう人たちがほとんどなのでしょう。たまたま内容的に問題ないだけで、一般の人々は、不特定多数の人々に発信している意識は強くない。だから、一般の人々のツイートに対して目くじらを立てる行為は、盗み読んだ日記の内容に腹を立てるようなもの。わざわざみんなの日記の内容をチェックしているようなもの。つまり、見るほうが悪いのです。というか、見るほうが悪い、と思ったほうが効率がいいのです。自分でチェックしなくても、だれかが「こんなこと書いてあったよ」とわざわざ伝えに来るマスコーニもいますが。

 では、どうして、「日記」ではなく、「ツイート」なのでしょう。それを支えているのは「共有願望」と「承認欲求」、そして単純に「だれかに言いたい」という気持ち。いわば、「給湯室での上司に対する悪口」なのです。上司の前ではいい顔してお茶をだすけれど、給湯室ではみんなで悪口を言う。それだけならまだしも、雑巾の搾り汁をいれたりする。それと同じ。だから、みんなのツイートを監視することは、すべての給湯室に盗聴器や防犯カメラを設置するようなものです。

 ネットの中は、人々の意識が顕在化する世界。人々の意識なんて気にしていたら、まず頭がおかしくなるでしょう。そのうえネットは、表現力や想像力、責任感のない人々にまで発信力を与えてしまいました。だから、だれも悪くないのです。与えてしまった時代、社会が悪いのです。 旅館の人に裏切られようが、レストランの店員さんにツイートされようが、それらすべて有名税と片付けられるかどうかは本人次第。裁判して勝てばいいというものでもないでしょう。わきあがった怒りを、なにに使用するか。ヴェルサイユ宮殿のように、たとえその時代の人々を苦しめたとしても、負の遺産は、すべて新たな時代に使用するべきでしょう。いまのところ、答えは、それしかないと思います。

2014年12月29日 15:57

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