« 第562回「よってたかる島」 | TOP | 第564回「わがまま王子の憂鬱」 »
2014年03月09日
第563回「銃声の鳴る城で」
むかしむかし、あるところに、ひとりの王様がいました。かれはとても臆病で、いつも、だれかが自分の悪口をいっていないか、心配していました。それでもし、王様の悪口をいっていたり、ちょっとでも王様の意に反することをいっていたら、すぐに城へ呼び出し、銃で撃ち殺していました。
「王様、連れてまいりました…」
王様の信頼する家来の一人、マスコーニが町から戻ってきました。
「そうかそうか、今日は何人だ?」
「今日は、7人でございます」
「どんな、悪口をいっていた?」
「ひとりは王様の顔に対して、ひとりは王様の政策にたいして…」
マスコーニは得意げに答えました。
「それは許さん!」
王様は銃を構えると、壁の前に並べられた人々を、順番に撃ち殺しました。
「また、だれか、殺されたか…」
今日も、銃の音がきこえていました。町の人々は、その音を聞くたびに嫌な思いになり、王様に対する不信感は募りましたが、決して、口にはしませんでした。口にすればすぐに城に連れていかれるからです。
「ひとりは王様の服装に対しして、ひとりは王様の好き嫌いに対して、ひとりは…」
マスコーニは、来る日も来る日も、王様の悪口をいっている者を探しに町へ繰り出しては、男たちを城へ連れてきました。ときには、女が混ざっていることもありました。
「私は悪口はいっていません!どうか殺さないでください!」
「悪口なんていっていません!いままで王様のために働いてきました!」
なかには、連れてこられて言い訳する者や、暴れる者もいました。それでも、王様は許してあげませんでした。なぜなら、一度、許して町へ返した者が、再び王様の悪口を言っていたからです。
「ったく、どうして皆、悪口をいうのか…」
何度撃ち殺しても、城に連れてこられる者は後をたちません。みんな死にたくてわざと悪口を言っているのかと思ってしまうほどです。
「ちょっと待ってください!私は悪口なんて言っていません!」
「いや、言った!あれは間違いなく悪口だ!」
「どうしてですか!ぜんぜんそんな気はないんです!誤解です!」
連れてこられたのは、城に住む家来のひとりでした。王様は、マスコーニのいうことを信じ、連れてこられた男を撃ち殺しました。それからというもの、城のなかでさえも悪口を言っている者がいれば、いつもの部屋で撃ち殺すようになりました。
「どうしてみんな、悪口を言うのか…」
王様は、言いました。誰も殺さない日がないのはどうしてだろう。自分がいけないのだろうか。王様は、なんだか眠れなくなりました。
「王様がいけないのではありません。悪口をいう奴らがいけないのです!」
マスコーニは言いました。
「安心してください。私の、王様に対する忠誠心は永遠です。みんなが裏切ろうと、私だけは、死んだって王様を裏切りません!王様に忠誠を誓う者だけでこの国を守りましょう!」
そして、朝が訪れました。
「やめてください!!」
その日も、たくさんの町人、そして家来たちが連れてこられました。
「この男は、別の国の王様のほうが素晴らしいと言っていました。この男は、前の王様のほうがよかったと。そしてこの男は…」
壁の前にずらっと並べられ、マスコーニがひとりひとりの言動を紹介すると、王様はいつものように銃を構えました。
「パーン!!」
銃声が、町に響きわたると、ちょうどお昼の鐘が鳴り始めました。町の者も、銃声をあまり気にならなくなっていました。それから一時間たったでしょうか。
「おい、どうしたんだい?!」
町の人々が目を丸くしています。というのも、城に連れていかれた男たちが皆、町に戻ってきたのです。
「どうしたんだい?逃げ出したのかい?」
「いや、とんでもない!帰っていいって言われたのさ」
「言われたって、だれに?」
「そりゃ、王様さ!」
「王様?!」
迎えた町人たちは、口を大きく開けました。
「でも、お昼頃、銃声がきこえたぞ?」
すると、一人の男が答えました。
「あれは、マスコーニを撃ったんだ…」
「え?マスコーニを?」
「あぁ、そうだ。間違えて撃ったのかどうかよくわからないが、マスコーニを撃ったあと、もう帰ってよしって言われたんだ…」
町人たちには、なぜ王様がマスコーニを撃ったのかわかりませんでした。それからというもの、城から銃声が聞こえる日はありませんでした。
2014年03月09日 09:43