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2014年03月16日
第564回「わがまま王子の憂鬱」
むかしむかし、あるところに、とってもわがままな王子がいました。人のいうことをきかず、なんでも自分の思い通りにしないと気が済まない、とてもわがままな王子。そんな王子が、どうしてもやりたいことがありました。
「そんなことしてはいけません!この国に時計はひとつしかないんです!」
「なぜ時計は思い通りにならない?」
「なにを言ってるんですか、時計とはそういうものです!王子のいうとおりに動かしたら、大変なことになってしまいます!」
窓から時計台を眺めながら、王子はため息をもらしました。どうしてあの時計は思い通りにならないのだろう。どうしたらあの時計の針を動かすことができるのだろう。この世のものはなんでもいうことをきくのに。
「運動会?!」
執事は目を丸くしました。
「そうだ、運動会だ。この国のみんなで運動会をするんだ!」
王子のわがままがはじまりました。さすがに執事もこんなわがままははじめてでした。
「運動はからだにいいことだ。競うことで団結力も生まれる。悪いことではないだろう?」
そうして国をあげての運動会へと、準備がはじまりました。
「運動会?」
町のみんなは大きな張り紙に釘付けです。
「全員参加らしいぞ!」
「賞品もあるみたいだぞ!」
「俺、綱引きなら自信あるぞ!」
そして、運動会の日がやってまいりました。今日ばかりは、町の者はみな仕事をせず、運動会に参加します。王子は朝からそわそわしていました。それは、運動会があるからではありません。
「よし、いこう!」
運動会がはじまると、王子はだれもいない丘へ向かいました。
「高いなぁ…」
空にまっすぐのびる時計台を見上げています。運動会で町のみんなが気を取られている間に、時計を動かしてしまおうという魂胆でした。時計台の扉をあけ、らせん状にのびる階段をあがっていきます。
「ふー、こんなに高いとは…」
頂上にでると、素晴らしい景色が広がっていました。そこから、運動会の様子も見えました。
「いまなら、だれも、気付くまい…」
王子は手を伸ばすと、大きな針をゆっくり動かしました。
「すべて、僕の思い通りだ…」
時計の針が不自然に動いたことは、だれも、気づきませんでした。
「王子!どこへ行かれてたんですか?!」
王子の顔は埃だらけで黒ずんでいます。それでも王子はやりたいことができて満足げでした。王子にとって世界は、自分のものでした。
「次は、あの国旗だ…」
王子は、これまで代々受け継がれてきた国のマークさえも変えたくなりました。
「次の運動会はいつにしようか」
王子は、変えたいものがあると、運動会を開きました。この国の大切なことはすべて、運動会の間に変えられてしまいました。王子の思い通りにならないものは、もう、なにもありませんでした。
2014年03月16日 13:15