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2013年12月04日
第552回「そういうものなんだ」
それでこの時期になると、毎年、だれが出場するだのしないだの、観るだの観ないだのと、大みそかにまつわる一連のやりとりが展開するのがこの島の習わし。今年にいたっては、「内定」という言葉も飛び交うほどで、それほど注目すべき行事なのかはわからないけれど、いざ決定してみれば、「歌合戦」というよりも事務所の「権力合戦」じゃないかと思えるほど、見事に腑に落ちないラインナップに仕上がっている。しかし、これはいまにはじまったことではなく、いつのころからか、もはや腑に落ちたためしがない。
なぜ腑に落ちないかといえば、イメージ的に、公平性が求められているから。放送局の特性もあるけれど、それ以上にこのステージは、「ふさわしい人」がでるべき、と思われている。しかし、「ふさわしい」の尺度ほど曖昧なものはなく、国民みんなが納得するラインナップなんてもはや不可能に近い。なのに、みんなが納得するステージがどこかにあると信じてやまない人がいる。そういう人々が目くじらをたてる。
たしかに、聞いたことのない名前やまったく馴染みのない歌もあるかもしれない。きっと、事務所の力だろうなと、あまりに露骨な枠もたしかに存在する。
でも、それこそが、人間くさくていい、と思う。公共放送だろうがなんだろうが、人間が運営する会社。やはり、そういうもの、なのである。出場を夢見て、この日のためにがんばってきたところで、世界はそういうもの。この世になにを期待しているのか。期待が裏切られて腹を立てるくらいなら、最初から期待なんてしなければいい。期待通りにならないのが、世の中。腑に落ちる世界のほうが、よほど不気味なのだ。
理想を掲げることも、期待することも構わない。しかし、それが裏切られたからといって、いちいち意気消沈したり、腹を立てていたら、人生もたない。そういうものだと、力を抜いていればいい。
描いた漫画を出版せず、土に埋める人がいる。彼にとって漫画は、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、好きだから書いている。それで十分しあわせなのだ。僕たちは世界になにを求めているのか。夢も希望も、期待も理想も、捨てる必要はないけれど、それらを世の中に、他者に押し付けるのは、迷惑千万。自分で切り拓いた道。常に、そういうものだと、受け入れてみればいい。容易なことではないけれど、理想を追い求めるよりも、ずっと、簡単だ。とりあえず、まずは深呼吸から。
2013年12月04日 19:08