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2013年06月16日

第534回「そうです、私が」




「メルヘンおじさんです」





 これはもう重症かもしれません。気が付くと、メルヘンなものに囲まれているのです。これが多感な時期の女子だったり、男性でももっと中世的で、テッペイ・コイケのような感じの人であればなんの問題もないのですが、これが40に手が届きそうになってしまった、お腹ぽっこりの男だから困ったものです。客観性を欠いてしまったのか、周囲の目が気にならなくなってしまったのか。正直、自分でも、こんな要素があるなんて思ってもいませんでした。「どちらの通帳になさいますか?」と訊かれて、無意識にかわいいキャラクターの方を選択していたのは、そういうことだったのでしょうか。それにしても、こんなタイミングで表面化してくるなんて。それは、とある商店街を歩いていたときでした。





「なんだ、あのキャラクター…」





店先に、だらんと両手をのばした、ゆるーいキャラクターがぶらさがっています。ぬいぐるみと抱き枕の中間といったところでしょうか。用事を済ませ、再びそのお店の前を通過すると、背中に引力を感じました。





「いやいや、あのお店は女の子のお店。僕はマリメッコで充分!」





しかし、体は向きを変え、吸い込まれるように、ぬいぐるみたちの箱のなかにはいっていきます。





「なんだ、このかわいさは!!!」





 店頭に飾られているキャラクターたちがたくさんだらんとしています。それもいろんな柄、サイズで。





「やばい、ほしい…」





それは初恋に似たものでした。鼓動が早くなっています。ほかにお客さんはいません。レジには若い女性。まるで中学生の頃のいやらしい本を購入する瞬間。





「プ、プレゼント用で…」





 そうして助手席に、大きなぬいぐるみが載せられました。おもわずシートベルトをしめてあげたくなります。それからというもの、ティッシュケースやスリッパ、自分で購入したり、いただいたり、家の中で増殖し、いろんなところにぶらさがっています。





 ただ、誤解されたくないのですが、メルヘンおじさんだからといって、メルヘンなものならなんでもいいというわけではありません。キティーちゃんには一切心は動きませんし。





 パーカーはジェラピケ、シャツはマリメッコ、財布はヴィヴィアン、そして部屋はアクセントスタイル。これ以上に不気味な館がどこにあるでしょう。





「ぜんぜん、アリだと思いますよ!」





 ラジオに来ていただいたデザイナーさんの言葉は、僕からブレーキーを奪っていきました。今後僕はどうなってしまうのでしょう。





 



2013年06月16日 11:20

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