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2013年04月03日

第525回「これほどうまい肴はない」




 近頃の若いモンはというフレーズはいつの時代もあるもので、世代間における価値観の違いが生じるのはむしろ社会が健全なことを証明しているとはわかっているけれど、だからといって若者たちの生き方に違和感を覚えず、すんなりと理解を示すような寛容な人間になってはおっさん失格。彼らに腹を立て、まったく響かないにもかかわらず警鐘を鳴らし続けてこそ親父たち。最近の若者に対する違和感こそ、最高の酒の肴なのです。そんな私たちにとって、格好のターゲットが現れてくれました。





「さとり世代」





 素晴らしい響き。草食男子だなんだと騒がれる昨今、これほど上質な酒の肴があったでしょうか。耳にしただけで、もうよだれがでてしまいます。





それは、ゆとり世代の次世代の若者たち。欲しがらない若者たち。車も恋人も欲しがらない。プロセスよりも結果を重視する人々。





定義はどうであれ、この「さとり世代」という響き。そもそも、親父たちの多くには、世代コンプレックスがあり、団塊世代やバブル世代にあてはまらなかった者にとって、カテゴライズされているものへの嫉妬心が常に存在します。ましてや「さとり」だなんて、すでに人生を達観したかのようだし、これまでの苦労を否定するような言葉が生まれたのなら、実際はイメージのなかでしか存在しないちゃぶ台返しをしてしまうのです、頭の中で。





「欲しがらない若者たち」





 世界中どこを探してもこんなにおいしい肴を提供しているお店はありません。いつもの焼酎も今日は格別。もう、若者たちに足を向けて寝られません。親父たちは、若者たちにもっと感謝すべきでしょう。





きっと、若者のすべてがそういうわけではないにしても、そういった若者たちを発生させてしまったのは大人たち責任であること、かつては自分たちが肴であったことを棚に上げて、好き勝手に言うのです。あいつらなにもわかっちゃいないと。





「それは逃げだろ?」「本当は、違うんだろ?」





決して面と向かっては言いません。給湯室で女子社員が上司の悪口を言うように、酒を飲みながら若者たちの悪口を言う。陰口をたたく。どこか否定できない部分やうらやましさ、そんな苦味がスパイスとなり、今宵は最高の宴となるのです。





「なにがさとり世代だ、なにが草食男子だ」





きっと、自分の思い通りになる範囲内で生活しているから、自分の思い通りにならないと逆上してしまうんだ。痛みを伴わない人生なんて面白くともなんともない。傷つくことを経験しないまま大人になれば、ひとたび自尊心を傷つけられたとき、きっと感情をコントロールすることができないだろう。





そうやって若者たちに言っているようで実際は、自分に向けていっているのです。





「ほんと、彼らの10年後が見てみたいよ」





 こうやって今日も、親父たちは酒を呑む。「最近の若者は」という居酒屋は、まだまだ繁盛しそうですね。



2013年04月03日 09:56

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