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2013年03月03日

第521回「三月の雨」




  キミはいま、なにを考えているのかな。あれだけ毎日会っていたのに、急に相手にされなくなって、淋しがっているのかな。それとも、怒っているのかな。もしかしたらやっと休むことができて、ほっとしているのかもしれないね。





キミと出会ってから流れた月日は、決して短いものではなかったから、お互いにすっかり年をとってしまったけれど、その微笑みは相変わらず僕を魅了しているよ。





いままでどれくらい一緒にでかけただろう。どれくらいの距離を旅しただろう。キミと一緒にどれだけたくさんの音楽を聴いただろう。毎日、一緒に出掛けるのが当たり前だったから。





はじめてキミがやってきた日、僕はうれしくて、そのままキミと海へでかけたね。いつも、仕事に疲れた僕を、その表情で待っていてくれたね。レコーディングのあとはかならずキミの感想を訊いていたね。ここからいろんなものが生まれたね。機嫌を損ねると、キミはうんともすんとも動かなくなることもあったね。角をつけられてしまったこともあったね。





あたりまえに一緒だった日々が、あたりまえじゃなくなる日。





最後に、キミと遠くにでかけようと思っていたけれど、結局それもできなかったのは、キミの体が心配だったのかな。それとも、別れることが怖かったからかな。





キミを手放すときが来るなんて。キミと別れるときがくるなんて。そんなことは一生ないと思っていたのに、気持ちはゆっくり変わっていくのかな。自分でも信じられないよ。心が準備をはじめているよ。





本当はもっとキミと一緒にいるべきだったのかな。キミを手放したら、寂しさがこみあげてくるのかな。できることならキミとずっと一緒にいたいけれど、できることならキーホルダーにしてずっとポケットにいれておきたいけれど。





キミは僕に出会えて幸せだったのかな、わからないけれど、僕はキミに出会えてとても幸せだったよ。僕があたらしいものに心を奪われてはしゃいでいても、キミのことを忘れたりはしないと思う。忘れられないと思う。ときどき、街で、キミに似た人をみたとき、きっと、思い出すんだよ。





本当はお別れしたくないけれど、もう、これ以上キミをこの場所に置いておくこともできないから。さよならのときが来たんだね。さよならをしなくちゃいけないんだね。いまはただ、ありがとうと伝えることしかできないけれど。君に出会えたこと、君といっしょにいた時間は僕にとってかけがえのないもの。本当にいままでありがとう。僕の人生を支えてくれてありがとう。もしも天国で会えたなら、一緒にどこかへ出掛けよう。そのときまで、さようなら。





 





三月の 雨は少し あたたかく 別れのあとを 掻き消すように





 



2013年03月03日 09:55

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