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2012年11月18日

第510回「colors of iceland〜アイスランド一人旅2012〜」


第九話 なかには黒いマシュマロもいるんです 


「載ってるかな…」





フーサヴィークに戻り、ホテルにチェックインした僕は、まずパソコンを開きました。ずっと頭から離れなかったもの。





「死んでしまう?」





調べてみると、羊は体が重たい割に肢が細いので、一度倒れてしまうと起き上がることが困難なばかりでなく、そのまま体内のガスがたまり、窒息死してしまうそうなのです。なので、そうならないように見張るのも羊飼いの役割で、僕は、一頭の羊を助けられたこと、羊飼いとしての役目を担えたことに嬉しくなりました。それにしても、あのときの感触がまだ両腕に残っています。





翌朝、フーサヴィークの空は灰色がかった雲に覆われています。いつもならレイキャヴィクに戻らなければならないのだけれど、今回は一日多いので、その必要もありません。





「今日、いけるところまでいって、一泊しよう」





僕はさらに時計回りに進むことにしました。距離を考えるとホプンあたりがよさそうです。まずは東端の街、エイイルススタジルを目指しました。





「同じ道は通れないか…」





昨日通った道はリングロードに戻りやすいのですが、やはり二の舞になるわけにはいきません。そして選んだもうひとつの道は、標高が低いからか雪に埋もれる心配はなさそうです。時折雲の切れ間から光が差し込んでくる朝のドライブ。雪の塊がマシュマロに見えてキョロキョロしてしまいます。そしてリングロードに着く頃、旅人の頭のなかには、ひとつの想いが芽生えていました。





「もういちど、飲みたい…」





それは、あの朝飲んだ、真っ白な牛乳。あの甘くてコクのある、きっと搾りたてのミルクの味。いま逃したら、もう次いつ飲めるのかわかりません。しかし、牛乳だけ飲ませてくれるだろうか。





「遅かったか…」





テラスの席に案内されると、朝食の時間を終える頃らしく、すっかり片付けられています。そして、なかば諦めた状態で辺りを見回すと、真っ白なものが目に飛び込んできました。





「いた!!」





大きなピッチャーにはいった牛乳が厨房の中でたたずんでいます。僕はすぐに片づけをしている女性に伝えると、好きなだけ飲んでという感じでテーブルに台の上に置いてくれました。





「うん、最高だ…」





透明なグラスに注がれたまっしろな牛乳は宝石のように輝いています。





甘い牛乳を飲み、苦いコーヒー飲み、これは7回目の旅もあるかもしれません。





「ありがとう!」





牛たちにお礼を言うと、再び東へと向かいました。





エイイルススタジルで昼食をとり、島のふちをなぞるように、くねくねとした入り江の道を走ります。東端の海沿いの道は、ほかの海沿いの道とはまた違った印象を受けるのですが、とくに今日は霧に覆われているので、とても幻想的。水面と空の境界線がわからないような光景。神秘的な光景に幾度となく遭遇します。それでもときおり小さな村が現れては、コーヒーで休憩をしていました。





「あんなところにも…」





いったいどこから来たのでしょう。ここから見ていると波にさらわれてしまいそうな場所で羊たちが草を食んでいます。





「おーい!」





レンズの着脱も慣れてきました。そんな風にマシュマロを集めながら走っていたから、ホプンに着く頃にはすっかりあたりも暗くなっています。マシュマロたちはどこかに帰るのでしょうか。暗くなると姿を消してしまいます。





「ここにしよう…」





窓側の席に座った僕の前には、頭でイメージしたものと同じ状態のエビが並んでいました。地元の人たちで賑わう港のレストラン。橙色の灯りが海に揺れていました。



2012年11月18日 00:23

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