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2012年11月03日

第508回「colors of iceland〜アイスランド一人旅2012〜」

第七話 天空の羊飼い


フーサヴィークの上には透き通った青色が広がっていました。途中、生きた心地がしなかった分、余計に気持ちが高揚しているのか、ホエールウォッチングの街と紹介しながらも、船酔いが怖くていままで行かなかった僕の心が、乗ってみようかとほんの少し動くほど。それにしても、さっきまでの銀世界はどこにいったのでしょう。雪が見当たりません。あるとすれば遠くに見える山々の頂。この街もこれまで何度も訪れましたが、アークレイリと同様、お気に入りの場所のひとつ。今日はこの街に泊まることにしていました。





アイスランドの旗が空を泳いでいます。給油を終えた車は、さらに北東へと進んでいきます。今日は、目的があったのです。





「おぼえているかな…」





それは昨年おとずれた場所。突発的に走りたくなって、体が動かなくなって、いろいろとお世話になった人。羊飼いの気分を味わせてくれた場所。あの場所にもう一度訪れよう。あそこにいるたくさんのマシュマロたちをこのカメラに収めよう。あらためてお礼も言いたいし。空へと飛び立つように坂を上っていくと、一気に大海原が見渡せるようになりました。道路の両脇には牧草地帯が広がっています。とくに海側の緑は、空に浮かぶ牧草地帯のようで、マシュマロたちも一層ふんわりして見えます。





「いるかな…」





海沿いの道路に車が停まっています。見知らぬ人が歩いていくのを、たくさんの羊たちが、草を食むのをやめ、眺めています。





「こんにちは」





英語が通じないので、うまく説明できるだろうか。扉が開きました。





「一年前に、ここから車で送ってもらいまして…」





見ただけではわからなかったけれど、ジェスチャーを交えて説明すると、すぐに笑顔になりました。場所が場所だけに、家を訪ねてくる人もあまり多くはないでしょう。





「あのときは、犬がいましたが…」





すると中からふさふさの真っ黒な犬が勢いよく飛び出してきました。覚えてくれているのでしょうか。飛んでいきそうなくらい尻尾を振っています。





「ピラー、覚えているかい?」





そしてピラーのあとを追うように、羊たちの群れに向かって走っていきました。昨年は多少遠慮しながらでしたが、今回はかなり踏み込んで、この天空の羊飼いを満喫できそうです。





「ありがとうございました!」





1時間は羊たちと戯れていたでしょう。たくさんのマシュマロたちをカメラにおさめるられました。今日の目的はこれで果たせたのですが、まだ戻るには少し時間もあるし、この気持ちのいい空と海と、牧草地帯の輝きは、戻る気分にさせません。さらに海岸線を進み、チョルネース半島をぐるっと一周することにしました。





「あの色も撮らなくちゃ…」





僕は、colors
of iceland
に欠かせない場所を思い出しました。





「こんなところに家があるのか…」





それは、現実とは思えないような、海辺の家。絵本のなかを見ているような感覚。しかしそのときは、カメラを持っていなかったのです。写真にこそしていないものの、頭の中で鮮明に残っているのは、カメラを持っていなかったからこそかもしれません。





「あの家を撮ろう。あのなんとも言えない色を、持って帰ろう」





あのとき目にした幻想的な風景を目指して、車は、海に近づいては離れる道を走っていきました。





 





 



2012年11月03日 17:59

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