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2012年10月21日

第506回「colors of iceland〜アイスランド一人旅2012〜」


第五話 まっしろな朝


「一年ぶりだ…」





 夜明け前にホテルを出発した僕は、ブーザルダールルでポテト休憩、ブロンデュオスでソフトクリーム休憩、そしてアークレイリの街を通過し、ミーヴァトン・ネイチャーバスと呼ばれる温泉に浸かっていました。もちろん、たくさんのマシュマロたちを集めながら。





ここは、これまでに何度も足を運んでいる場所で、もしかすると地球上でもっとも利用している温泉かもしれません。夕日がゆっくり降りてくると、まるで温泉につかっているように、光が水面できらきらと揺れています。





今回の旅はいつもと違う点がもうひとつありました。それは滞在日数。今回は一日多かったのです。あと一日あったらと、いつも思っていたので、これほど嬉しいことはありません。たかが一日、されど一日。少ない日数なのでこの違いは計り知れません。旅にどのような影響を与えるのかわからないし、決して十分な日数ではないけれど、気持ち的に余裕が生まれました。





「牛がいる!」





今日の泊まる場所は、はじめて訪れるホテル。農場経営らしく、牛舎が隣接し、館内からもガラス越しに、牛たちが並んでいるのが見えます。





「自家発電してるのよ」





館内の照明が時々明るくなったり暗くなったりしているのはそのせいで、そういえば、入り口に大きな機械がぶるぶると音を立てていました。車で2,3分のところに泊まる場所があり、アイスランドらしい清潔でシンプルな部屋に案内されました。





「今夜はもしかすると…」





足元は雪が積もっています。周囲は暗くてなにも見えません。ここは内陸部で標高が高いためか、車もときおり雪の上を通過しました。見上げると、たくさんの星たちが空を覆っています。雲のない夜空。晴れていることと、気温の低いこと、ともに条件を満たしている今日は、もしかすると上映があるかもしれません。





「もう少しなんだけどな…」





あのときの空気を体が覚えているからか、なんとなく気配を感じます。しかし今日も、薄い膜を張っているものの、カラフルな光のカーテンにはなってくれません。現れそうで、現れない。もっと気温が下がらないとだめなのでしょうか。とはいえ、まだあと何日かありますし、それに凄まじいほどの星の数。





「朝だ…」





上映していないか確認のため何度も出たり入ったりしていた旅人を起こしたのは窓から差し込む陽光。外は、目を開けられないほどまぶしいくらいの銀世界が広がっています。一面に広がる真っ白な雪が朝日を反射して空までも照らしているようです。





「おはよう!」





牛たちも朝食をとっています。吐く息も白く、すっかり冬の朝といった感じ。ガラス張りのテラス。本来は真っ黒な溶岩台地が雪に覆われています。真っ白な大地と、まっしろな牛乳。これは、搾りたてでしょうか。





「え…ちょっと、まって…」





グラスをはなれた牛乳がのどを通過したときでした。





「お、おいしすぎる…」





濃厚さとクリアな感じと、ほのかに甘く冷たいミルクが体の中を通っていきます。それは間違いなくこれまで飲んだ牛乳のなかで一番と呼べるものでした。





「おいしいミルクをありがとう」





牛舎に並んだ牛たちもカメラにおさめると車は北に向かいました。ここから一本道。その先には、思いもよらない出来事が待っていました。



2012年10月21日 23:32

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