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2012年08月05日

第498回「わからないままでいい」




  いまとなっては若者に限らず老若男女に、そして世界中で利用されているソーシャルネットワーキングサービス。テレビやラジオとは違った性質を持つSNSは、ときに小さなコミュニティーの情報交換の場となり、ときに社会情勢を覆す土壌となるまで発展を遂げました。僕自身、欠かせないものかわからないまま、発信と受信、両方の目的で利用しています。





 ライフスタイルは時代によって変わり、いまが昔より優れているかどうかを見極めることはできませんが、違いを認識することは可能です。SNSがなかった昔といまとでは、人々の生活にどのような違いがあるのでしょうか。





 いまを象徴するもののひとつとなった「SNS」。果たしてこれが人々にどのような影響を与えているのか。幸せにしているのか、不幸にしているのか。もちろんそれは時と場合によるもので、良いとか悪いとか判断すること自体ナンセンスかもしれません。しかし、確実に昔と変わった部分があります。人々の生活における大きな変化。それは、「気にする量」です。それが格段に増加しました。気にしなくてはならないことが増え、特に、「人がなにをしているのか」を気にして生活するようになりました。もっというと、「人がなにを気にしているのか」を気にしながら生活するようになりました。自分が人に、どう思われているのか。





一緒に遊んだ友人たち。彼らと共有した時間を、彼らはどう思っているのか。果たして良い印象だったのだろうか。気にしなくてもいいのに、気にするようになったのは、彼らの感情がSNS上にあげられてしまうからです。





それがたとえいいものであれ、悪いものであれ、人の意識を気にしながら生きるなんて、疲れるにきまっています。気づかぬうちに抱え込みすぎて、心が重たくなって、息苦しくなる。これでは人間は破綻してしまいます。余裕がなくなり、ちょっとしたことで感情が不安定になり、社会全体にまで広がります。





気にしなければいいじゃないか。もちろんそうです。でも、「裸になれと命令することはなくても目の前に裸になっている女性がいたら見ないようにすることは困難」なように、確認することができる状態なのに気にしないようにすることは、とても難しいのです。存在してしまったらそこから意識的に目を背けることをしなければならない。目を背けるだけでも、忘れようとするだけでも、エネルギーを必要とします。気にすることも、目を背けることも、どちらも疲れるのです。こんなことなら、存在していないほうが楽に生きられる、自由に生きられる。人々は、知らず知らずのうちに、情報に押しつぶされているのです。





 もちろん、昔の人々もなにかを気にしながら生活していたでしょう。しかしそれは数にすれば極めて少ないもの。つながりを美徳とする現代は、それが希薄となっている証かもしれません。しかし、つながりが過剰になると、単なる束縛となるだけ。だから、たとえばパソコンを持たない、ケータイもスマホも持たない、これも生活スタイルのひとつでしょう。もしかしたらこれが最先端の生き方かもしれません。もちろん、これによるデメリットはあります。不便だと感じることもあるでしょうが、自分を見失うことはありません。SNSに振り回されて、周囲の意識に翻弄される、そんな人生は決していいとは言えません。人が何を考えているかなんて気にしなくていいのです。わからないままで、いいのです。





10年後が見えるメガネが発明されました。見たところでなにも変わらないとします。果たしてそれは人類になにを与えてくれるのでしょう。もしかしたら一部分だけを見たいと思うかもしれません。しかし、一部分だけを見ようとすると、ほかの見たくない部分まで目に入ってしまう。それがSNSの世界。このメガネを持ってしまった人は果たして、幸福になれるのでしょうか。





疲れた、という言葉をつぶやく人が多いようです。しかし、ほとんどの人たちは気づいていないのです。その疲れの原因を。仕事の量もあるでしょう。しかしそれ以上に、気にする量が増えてしまったことが、人々を疲弊させているのです。SNSは、個人の発信力を上昇させました。責任感や表現力などが伴ってないのに発信力だけ身につけてしまった人の言葉があふれる世界。一億円を手にした子供たち。価値があるもの、価値のないもの。この世界で、見極めることはとても難しいでしょう。でも、心を軽くさせる方法は、とても簡単なのです。


2012年08月05日 14:05

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