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2011年04月17日

第444回「キミへの手紙」

 キミがこの国に生まれてもうどれくらい経つのかな。それは僕が生まれる前のことだからそのときのことは詳しくは知らないけど、もしかしたら世の中に歓迎されながら産声をあげたのかもしれないし、こっそり誕生していたのかもしれないね。キミのことを産んだ人たちがどういう意図だったのかはわからないけど、その後、キミにたくさんの兄弟ができたことを考えれば、たしかにこの国の成長にキミたちは不可欠だったのかもしれないけれど、キミたちがいなかったらそれはそれで素晴らしい世の中になっていたのかもしれないね。

 いま、こうしてキミに手紙を書いているのには理由があって、実はもうお別れしようと思っているんだ。そう、キミとのお別れ。初めての手紙でこんなこと言うのは失礼だね。でもこれがキミ宛ての最初で最後の手紙。僕が生まれたときキミは当たり前に存在していて、ときどき周囲の反発を受けながらもなんだかんだこの国を支えてきてくれたよね。キミのイメージが良くなかった時期もあったけど、環境問題、温暖化がキミにとって追い風になったのもあって、いつのまにかキミはクリーンなイメージを獲得し、気付いたらこの国に55人もの大家族を形成するようになっていたね。あまりに辺鄙な場所にいるものだから、大半の人たちはそんなことも知らずにキミたちの恩恵を受けて、なんだかいろんなものであふれる「豊かな」世界を目指して走ってきたんだよね。

 キミたちには感謝もしているし、責めるつもりもない。だから、こんなタイミングで、そしてこんなカタチで別れを告げるのは非常に残念だよ。でも、今回の事故が多少のきっかけになっているかもしれないけれど、決してそれだけじゃないんだ。前から思っていたんだ。キミに依存していながら別のことを考えていたのは申し訳ないけれど、ずっと前から気付いていたんだ。悪の存在に。このまま気付かないふりをして生きていくほうが楽なこともわかっている。でも、いま決心しないと、一生、いや永遠に別れることができないって感じたんだ。キミは、キミたちは、もう充分役目を果たしたよ。これからはキミに頼らない時代、新しい時代にしたいんだ。もちろん、いまお別れを告げても実際にキミがこの国から去るには膨大な年数がかかることも知っている。この国の人々が必ずしも皆、それを願っているわけでもないことも知っている。だから、ゆっくり時間をかけて卒業したいんだ。僕たちの未来にキミはいちゃいけない。それはキミのせいじゃない、キミたちを利用している人たちのせい。もしかすると、この手紙を読み終えたとき、キミは少し悲しい気持ちになるかもしれない。でも、現実を知ってほしいんだ。

 彼らは知っているんだ。キミたちがいなくてもこの国は充分機能することを。決して昔の生活に戻るわけではないことも、絶対に安全なキミはこの世に存在しないことも。じゃぁどうしてわざわざコストのかかる危険なキミたちをこんなにも産んだのか知っているかい?それは、儲かるから。キミたちを産めば産むほどおいしい蜜が流れてくるシステムになっているんだよ。だから、キミたちがいなくなって困るのは僕たちでも社会でもない。キミたちを利用している一部の人たちなんだ。キミたちを産むのは環境のためでも人々の暮らしのためでもない。残念だが、彼ら自身のためなんだ。

 言葉は悪いけど、彼らは実に巧妙で頭がいい。だいたい、不思議に思わないかい?こんな事態に陥っているのにだれひとりとしてキミたちの今後について話し合う者がいない。責任の追及とか犯人探し、悪者を決め付けるのに、キミたちを今後どうするのかを議論する者はいないし、そんな機会すら与えない。都合が悪くなったら「想定外」という言葉を盾にしてキミを守ろうとする。揺れの数値を引き上げたのも同様に、キミたちの存在自体を否定する風潮をなくすためなんだ。こんなに国中を巻き込む事態だというのに、このことに国民の意見が反映されないのはおかしいだろう?だれかにとって都合のいい世界が構築されているんだよ。自分たちがお金を儲けるためだけにに、わざわざ危険なものを産み続けてきたんだ。もちろん、お金儲け自体は悪いことではない。そのやり方なんだよ。過疎地を選ぶのは、お金で丸め込めるから。雇用も資金もなき場所をお金で買収するようなもの。それは全体の莫大な収益からすれば微々たる額。本当にクリーンで安全なら、東京に産めばいい。本当に自信があるなら堂々と設置すればいい。でもそうしないのは、危険だからということ以上に、みんなに意識をもたれたら困るからなんだ。彼らは周辺住民のことなんて、これっぽっちも考えていない。もちろん、キミのそばで働いている人たちは安全のために懸命だけど、システムを構築している人たちからしたら、そんなこと知ったこっちゃない。  

 もう気付いてくれたかな。これは、戦争なんだ。いままでのそれのようなわかりやすいものじゃない。僕たちが隷属していることさえわからないくらい巧妙な手口で僕たちから搾取しているんだ。いまでこそ命に別状はない。でも何度もきいただろう?ただちに影響はないって。あれは責任逃れ以外のなにものでもない。重要なのは賠償金とか首相や社長の進退ではない。キミたちを残すべきかどうかなんだ。それなのにその機会を与えないこの風潮にこそ、事の重大さを秘めているんだ。

 キミは悪くない。キミたちを利用して甘い蜜を吸い続けている人たちが悪い。善のフリをしている悪こそ、真の悪。みんな、その内側に取り込まれていることにさえ気付いていない。気付いている人もいる。ずっと外側から叫んでいる人もいた。でもいくら叫んだってみんな聞く耳をもたなかった。節電とオール電化の矛盾にすら気付かなかった。キミがいないとこの国は機能しないなんて幻想にすぎない。コストが低いなんて嘘にすぎない。いつまで安全と想定外という言葉を信用すれば気が済むのか。どこまでこの国の人はお人好しなのか。

 かつて空から君たちの先祖が落ちてきたことがあったけど、見方によってはキミは毎日あれを製造しているようなもの。僕たちは結局、戦争からなにも学んでいない。しかもキミの親戚の家はあれの数万倍の破壊力を持っているのに、国民に伝えようとも、話し合おうともしない。負の側面を一切伝えないで、これのどこが公正といえるのか。恐いのは、空気の汚染じゃない。誰かのために情報をコントロールされた社会なんだ。ウランは少量というが、そのウランを採掘するのにどれだけ生命を犠牲にし、どれだけ大規模な土地を荒らしていることか。でもそういったことが報じられない。キミの良い面しか伝わらない。こんなおかしなことってないだろう?キミの親戚の家がテロでも受けたらもう地球は滅亡。それでも彼らはいうだろう、「想定外」だったって。

 ここまで話してもキミは信じないかもしれないね。最悪ここまでの話が妄想にすぎなかったとしよう。それでも、この地球上で度々起こっている惨事を目撃しているのに、キミの存在にまつわる話が浮上しないことは異常だ。国によってはもう卒業しているというのに。そろそろこの国の人たちを永い眠りから覚まさせないといけない。催眠にかかっていることに気付かせないといけない。僕はこれから残りの人生を不安ではなく、希望を抱きながら生きたい。こんな事態になってしまったいま、果たして莫大な資金を投入して獲得した安全設備を見て、これなら安全だと思えるだろうか。本当の安心は、キミが眠りにつかなければ訪れない。もしどちらかをとめるなら、地震や津波でなく、この世に生まれてしまった悲しき箱であることは、小学校低学年でもわかること。なのに、こうなったいまでもこの国の大半はキミを必要だと思っているよ。まずはみんなの目を覚まさせないと。

 もしかしたら、キミは気付いていたのかな。自らそれを望んでいたのかな。だから、僕たちに気付いてほしくて、叫んでいたのかもしれないね。キミたちが安心して眠る頃、そのときは僕もいないのだろうけど、いつかわかってもらえる日が訪れると思う。悪いのはキミたちじゃなくて、キミたちを利用している人たちだってこと。キミは悪くない。キミにはお疲れ様でしたと、国民に愛された鉄道の最後の日のようにお別れをしたい。そして最後に、ありがとうと言ってお別れしたいんだ。そのために、いま別れを告げなければならないんだ。本当の「豊かさ」のために。未来のために。わかってくれるかな。









  いますぐなくせなんて思いません。ただ、公正じゃない。人々にしっかりと伝えて、その上で国民に判断してもらう必要があるのにその機会を与えない、疑いの余地を与えないことにことの重大性を感じます。いろんな人がいます。なにも知らない人、知りたくない人、知っているけど仕方ないと思う人、できればないほうがいいと思うけど何をしても無駄だと思う人。いろんな人たちがちゃんと向き合える環境にしないのは、ただただ卑怯だと思うのです。

2011年04月17日 12:18

コメント

「キミへの手紙」読ませていただきました。僕は原発の事など詳しい事は分かりませんが、ふかわさんの言ってることは分かりやすかったです。政治家や原発推進派の人達が言ってることより光のある未来が想像出来ます。僕のような無知な人達が騙されないように、これからも僕達を引っ張っていって下さい。
応援してます。

投稿者: ネジマキ | 2011年04月17日 15:06

納得です。想定外という言葉だけが 独り歩きしています。オール電化はおかしいと ずっと思っていました。豊かさって何? これもずっと思っていました。思うけれど、 思うだけで、ずっと流されてしまっていました。もっと 別なものでの 代用について話し合わなければ・・・。

みんなで よく考えることが大切ですね。価値観を変えなくては!ふかわさんのように、噛み砕いて言葉にしてくださる方が 100人いたら この国はきっと違う方向に・・・。やんわりとして 真面目なふかわさんの「白熱教室」を妄想しています。

「ロケショー」お疲れさまでした。昨夜も テンション上がっていましたね。鎌倉の大仏が 津波と関係していたとは知りませんでした。 あと「秘密」と「バランス」のお話は 大事、大事。よーくわかります。もう 人類愛の境地ですから・・・。

今日も 愛ある一日でありますように〜!

投稿者: アトリエのピンクッション | 2011年04月17日 15:16

ずっと思考停止の状態でした。
 
水力、火力、原子力と呪文の様に発電方法の1つとして当たり前に並び、平和的利用の、安全でCO2排出の少ないエネルギー源ということを(疑いが全く無かった訳ではないけれど…)信じて。

放射能の怖さも知っていたけれどそれはただの知識でしかなくて、本当に分かってはいませんでした。。

代替エネルギー、枯渇する化石燃料、電力供給と経済、利権、使用済み核燃料、CO2、繰り返す事故、汚染された土地、長い長い年月。

正直、実際にどのような問題があるのかも、どの情報が正しいのか分かりません。

ただ、今回はっきり分かったのは安全は存在しないこと。犠牲になる人、モノ、ことが沢山出てしまったこと。真剣に考えなければならない時が来たということ。

だから、私も思考停止を解除して真剣に考えるための、偽りのない情報と議論の場が私たちに必要だと思います。

投稿者: lady beetle | 2011年04月18日 00:13

本来は風力や太陽光による発電が実用化された段階で国をあげてドイツように進めるべきなのに、日本は結局こういう事態にならないと変わらない体質のように感じます。ふかわさんが「太田総理」に出ていた頃、金融投資関係の方が「太陽光などに投資しても、まったく反応がなく、石油を買い値段を急激に上げた方が国が動く」といった言葉が思い出されます。

投稿者: 下町の根強いふかわファン | 2011年04月18日 09:25

この腐りきった社会をどーやったら変えれるのでしょうか?私服を肥やす人ばかりで、お金の価値なんか早くなくなってしまえばいい。お金より大事なものに気づいてほしい。戦争は嫌だけど、悪党は滅びるべし。

投稿者: 和歌山オレンジブーツのめぐみちゃん | 2011年04月18日 12:37

いつもいつも関心しながら読んでおります。私の地元は福島なので、こんなにもふかわさんが一生懸命考えてくださってとてもうれしく思います。
私もこの事件に関して、ふかわさんと同じ思いです。早く明るい社会になれるよう、政治家だけでなく国民も一緒に考えなければならない問題だと思いました。

投稿者: mmm | 2011年04月18日 14:48

こんばんわ
今回の週間ふかわや、以前のブログにも書かれていた「キミへの手紙」は、専門家のひとたちのお話より分かりやすくて、お手紙にすることによって、いろいろなことが浮き彫りになって目に見えてきました。

この世に誕生したときから、あの箱たちのほうから逆に「ぼくたちは危険だよ?それでもいい?だいじょうぶ?」って伝えていてくれてたのかも。
でもその声が届かないところに生まされてしまった。このまま見て見ぬふり出来なくて、きっともう「キミたち」のほうから我慢の限界で、ふかわさんの言うように早くきづいてほしくて。それをやっと、こういう形になってしまったけれどわたしたちに伝えたのかもしれません

長いさよならが やっと今はじまったような気がします

投稿者: フィンランドの雨 | 2011年04月19日 23:05

私もこの手紙を読んで、そして被爆を引き受けます
キミがボロボロになるまで鞭をふるったバカバカしい、恐ろしい産業からキミを守って、一緒に死ぬまで汚してしまった土地をなんとかしよう

投稿者: 星珍 | 2011年04月19日 23:22

自分の育った場所にもキミはいたのにもかかわらず、今日までほとんど勉強しようとしなかったことも、キミを意識する環境になかったことも、ここにきてあらためて、驚愕でした。

それを反省して、さんざん働いてきたキミを想ってねぎらったうえで、未来のために手を離して生きていきたい。

そんなことを考えました。

もし自分がキミだったら、自分自身の存在に苦しんでいるとしたら、今回のこの優しい手紙に、きっと安心するかもしれない。

わたしもそういう気持ちで向き合っていきます。

投稿者: ひょう | 2011年04月20日 16:12

ロケットマンさん。こんばんは。
毎週週刊ふかわを拝読しております。
ロケットマンさんの真面目で、優しいコラムには毎回尊敬の念をいだいて見させていただいております。
僕たちをの先頭にたって、引っ張っていってください。
陰ながら応援しております。

投稿者: ブラックピュア | 2011年04月20日 20:36

原発の存在を知りながらもいままで電力恩恵を受けていたわけだから自分も同罪といっちゃ同罪だと思う。化石燃料や原子力に依存しない日本にしたいですね。
小さいころにテレビで小学生の書いた
未来の絵の中に一つだけ原始時代に戻ったような絵があったことを思い出します。マイナスのものを生み出さない
循環できる社会に進んでほしい。

投稿者: なべ | 2011年04月21日 21:19

私も同じことを考えていました。でもふかわさんと同じく、キミと今すぐ別れられるとは思いません。
日本は憲法によってキミの「兵隊さん」を生み出すことはしていないけど、「兵隊さん」はいなくてもキミがいることで日本にはこれだけの技術がある、と威嚇する役割がありますよね。
キミと本当にお別れするには、まずはメリケンくんがキミとお別れしてくれないと、どこの国もキミとの関係をずるずる引きずってしまうと思います。
ただキミの祖先の怖さを知っている日本こそ、キミに頼るわけにはいかない。
でもここまで頼ってきてしまったから、闇雲に別れるわけにもいかないけど、日本ならキミに代わる人材を開発できると信じています。

投稿者: AU | 2011年04月22日 07:42

風力発電や太陽光発電に力を入れてちゃんと実践できている国があるのだから絶対に日本もできると思います。

時間はかかると思うけど、ほんとに豊かで新しい視点で世界から注目される国になれるようできることからやってみようと思います。

心穏やかになれるキャンドルナイトとかのイベントが今後もっと増えていくといいですねえ!

投稿者: チオリーヌ | 2011年04月23日 19:38

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