« 第440回「言葉だけでは届かないから」 | TOP | 第442回「それでも僕たちは生きてゆく」 »

2011年03月27日

第441回「シリーズ人生に必要な力その49選ぶ力」

 それは情報が流通するメディアを使いこなす能力。メディアの特性や利用方法を理解し、適切な手段で自分の考えを他者に伝達し、あるいはメディアを流れる情報を取捨選択して活用する能力。従来は電話や手紙などのパーソナルメディアと、新聞やテレビ・ラジオをはじめとするマスメディアといった伝統的なメディアの利用方法を知っていれば事足りたが、現在では、急激な技術の進歩により、パソコンや携帯電話などの新しい形態のメディアが台頭し、それらの利用にまつわるトラブルや混乱も頻発している。このため、各メディアの本質を理解し、適切に利用する能力の重要性は日に日に高まっている。

 メディアリテラシーという言葉を調べると上記のような言葉が並びます。なんだかとても堅苦しいですが、たしかに情報が錯綜するなかでどれを選択すべきかというのはこれまでも、そして今後も重要であることは間違いないでしょう。最近ではツイッターの瞬発力も目を見張るものがありましたが、それに反して信憑性はあまり高いものではありません。結果、テレビにすら疑いをかけるようになったいま、与えられた情報の上を様々な憶測が飛び交い、僕たちはどの情報を信用していいのかわからなくなってしまいました。

 こうなった要因の多くはインターネットの存在でしょう。それは冒頭でいうところのパーソナルメディアとマスメディアの橋渡しを良くも悪くも実現してしまいました。たとえば、休み時間に人が集まっていると思ったら、カバンの中にいれておいたはずの恋焦がれる人への手紙が後ろの黒板に貼り出されていた。きっとなにかの拍子で見つけた誰かのいたずら。それでもまだクラスの中だけか、広がっても学年だけにとどまることでしょう。それがいまでは、ひとたびネットの流通に乗せてしまえば、誰かに思いを寄せるその熱い言葉は一瞬にして全国に流出してしまう。これがいまの情報の流れ方。パーソナルとマスの境界線がなくなってしまったのです。こんな一個人の言葉がマスメディアにのってしまうわけだから、発言するほうも大変だし、受け止めるほうも大変。個人の発信力が増したことは同時に個人の受ける負担も増えたということなのです。

 じゃぁいったいどうやって取捨選択するのか。メディアリテラシーという言葉は知っていても、結局滝のように流れ落ちる情報になすすべもなく、ただ言葉のシャワーを浴びるだけ。具体的な手段が見つかりません。こんな時代に求められるのが、情報の交通整理をする人。メディアコンダクター(通称メディコン)、もしくはメディアコーディネーターというべきでしょうか。呼び名はやがて決まるでしょう。いまなにが起きているかを正確に伝えてくれる人。いまどうするべきかを判断できる人。そういった役割を担う人が今後台頭してくるのです。

 たとえば、一線を退いたものの相変わらず存在感のある池上彰氏。彼のいう言葉にはものすごい説得力があり、多大な安心感もセットで付いてきます。本来であればこれからの時代こそ発信していくべきなのでしょうが、いろいろな人がテレビなどで発信している中でなぜ彼だけが突出して信頼できのかというと、もちろん、彼の語り口、それはきっと彼のこれまでの生き方を表しているのですが、言葉選びから間の取り方、それも昨日今日で培えるものではなく生まれたときからの環境からはじまっているもの、つまり彼のこれまでの人生がいまの話し方に集約されているからです。しかし、もうひとつ重要な要素があります。それは彼がどの立場でもない、ということ。政治家でもタレントでもなく、人として発言している。ジャーナリストという肩書きこそありますが、いま彼がおこなっているのはその枠組みを越えたています。たとえば、もし彼が突如、都知事選に立候補するといったらどうでしょう。途端にあのやさしい表情のなかにたくらみや計算が見え隠れしてしまいます。彼は、あの立場だから、人として語りかけてくるから、言葉が皆の胸にすっとはいってくるのです。

 そうして、僕たちは彼の目を通して世界を知ることができるようになりました。もちろん自分の目で確かめることが一番でしょう。でもそれはほぼ不可能であり、それを求めることはある種の自分勝手。自分の欲望を満たすだけで、そんな行動を皆がとったら余計に混乱を招きます。僕たちは誰かの目を通してじゃないと世界を知ることは出来ないのです。だからこそ、決めないといけないのです。誰の目で、誰の価値観で、誰の尺度で世界を見るかを僕たちは、これから決めるのです。

 いま大切なことはなんなのか、いま世の中でなにが起きているのか。それらを教えてくれる人。昔だったらそれが宗教だったのかもしれません。神様とか仏様とか。池上氏は、本人は嫌がるでしょうが、現代の救世主かもしれません。これからはそういった役割の人たちが台頭してくるのです。だから今後、テレビに出る人たちの顔ぶれはさらに変わるでしょう。なぜならあの瞬間、僕たちのものの考え方は大きく変わったからです。いままでの尺度ではなくなったのです。

 かつて、原発反対をテレビでは言うことは困難でした。それはテレビ局にとって強大なスポンサーだったからです。もちろん、今後、そのことを掲げる必要はありません。過程がどうであろうと、これまでお世話になっていまさら闇雲に反対するのは筋違いといえるでしょう。しかし、国民は気付いてしまいました。知らないところで進んでいたことにもう皆気付いてしまったのです。節電とオール電化を両方進めることのできる世の不条理、矛盾したシステムに気付いてしまったのです。

 僕たちが求めるのは政治家たちの言葉ではありません。彼らの言葉をうまく整頓してくれる人、世の中に蔓延する情報・言葉の交通整理してくれる、世界のバスガイドさんのような人。そしてどんなに情報があふれようが時代が変わろうが、大切なことを教えてくれる人。人としての哲学を持った人がこれから台頭するのです。僕たちはこれから誰の目で世界を見ることになるのでしょう。もう、新しい時代ははじまっているのです。



2011年03月27日 00:16

コメント

メディコンとして言っている事が判り易いは絶対的な強みですよね!特に一般人目線がわかっているコメントが入っていると引き寄せられますね!でも自分自身が判断力を磨いていくことが日々大切になるような気がします。3/21の雨の中のロケ兄の活動、頭が下がります、ご苦労様です!

投稿者: 下町の根強いふかわファン | 2011年03月27日 07:24

本当にその通りだと思いますね。

情報が多いだけのみならず、その情報自体の信憑性が不明瞭で、本当に真実かどうかが見極められずにいます。

池上彰さんは本当にこの今の混乱した現状において一縷の望みと言えます。もちろん、震災というトピックが無くとも、経済・世界情勢・政治など、どんな事についても詳細に丁寧に教えてくれる学識のある人間性も素晴らしい方なのですが、ことにこの混乱した昨今、ロケ兄の言う通り、良い情報・悪い情報を分別して視聴者に伝えてくれる「メディコン」が必要なんでしょうね。

友人宅にはテレビがありません。PCがあれば情報が入ると。(もちろんUSTREAMで映像としてのニュースとかも見ているらしいですが)そういう人が増えてくると、本当に正しい情報の提供が重要となって来るのでしょう。

被災地のでデマ情報も氾濫しているとか。外国人窃盗団が横行しているだとか、雨に当たると被爆するだとか…。本当に悲しい誤った情報ばかりです。

今後、池上さんのような「第二の彰」が台頭してくるのでしょうか。「それ、僕(私)やります」と言ってなれるものではないですから。中々難しいですよね。国民の信頼を得るには時間も掛りますし、人間性も問われます。

しかし、そういう「メディコン」の人に頼らず、まずは誤情報を鵜呑みにする前に自分で熟考し、精査する事。「皆が赤信号渡ったからじゃあ自分も」ではなく、本当に真実とは何かをとりあえずは自分で解決しようとする事。そうする事でデマの拡散は少しは抑えられるのではと思います。それがダメならもう「現:彰」しかいないですよね。でも今回の場合はスピードも重要。瞬時に対応しなければならない時だってあります。そういう時こそ、落ち着いて、マスメディアの方は私たち国民に情報を与えて欲しいと思います。

水は危険だ、いや大丈夫だ、いやいや、やっぱり飲んじゃダメ…もういい加減にして欲しいです。それはお上が混乱している証拠。それをメディアは一言一句そのまま横流ししているだけなのです。誰か、この情報の錯綜を鎮静化してくれる救世主が現れる事を切に願います!

投稿者: ラブ伊豆オール | 2011年03月27日 13:49

池上さんの「白熱教室」は、よかったですね。ブレない語りでしたものね。

どこか変! がやっとここにきて、あきらかになったような気もします。

情報コンシェルジュに 風通しよくしてもらわないと、地球規模で心配なことが山積みです。オール電化の疑問にみんなが 気付けばいいんですよね。

まずは、メディア情報を選ぶこと。メディアに煽られないようにしようと 思います。

「ロケショー」お疲れ様でした。すがすがしい朝を、迎えることができました。「永遠と一日」を 毎日、抱きしめています。4月からも ずっと楽しみにしています〜!

投稿者: アトリエのピンクッション | 2011年03月27日 14:49

ふかわさん、はじめまして!

情報の真偽を確かめて、選択するべき、と分かってはいても個人の範疇では限界がありますよね。

だからこそ池上さんを筆頭に、情報を上手に集めて私たちに伝えてくれる方が必要なんですね。

でも結局受け取る側は、伝達者を好きか嫌いかで相手の情報を信じるか否かを決めてしまう部分もあるし。

一人一人がもっと頭を使わなければいけない時代になっていくのでしょうか。

投稿者: もげ | 2011年03月28日 02:43

世の中は裏がありすぎて犠牲になるのはいつも真面目な人ばかり。そうならないためにももっといろんなことに疑問をもつべきだと思います。

ふかわさん!これからも真実を伝える人でいてください。応援しています。

投稿者: ずんずん | 2011年03月28日 22:28

ふかわさん こんばんわ

選ぶ力。

今日 職場で「水道水は全然気にせず飲んでいる」「野菜は気をつけて買っている」など そんな話題になりました。みんな意見はバラバラでした。

わたし自身も、毎日というより数時間で変わってしまう情報に正直どう対応していいのか分からなくなります。
一度「危険」と聞いてしまうと周囲が「大丈夫だよ、気にしすぎだよ」と言っても、なかなかすんなりと受け入れられない自分がいます。
でもそんな時は 正しい情報がほしい!というより、他の人と自分は考えが違うのだから、わたしはわたしの中のものさしで一度計ってから判断しようと心がけています。あとでそれが間違えていたとしても自分で計ったのだから後悔はしないと..そう考えるだけで少し気が落ち着きます。

でももっと大事なのは、情報の交通整理をしてくれる人もそうですが、ふかわさんの言うように 哲学を持ってあらゆる人をスムーズに、ひとつの場所に滞らせることなく「前進」させてくれる人が現れてくれる時代になっていくことをわたしも願います。政治家や貴族の中からではなく、ごくごく普通の民衆の中からそんな人が生まれたら、わたしの気も自分で落ち着かせるよりもっと落ち着くのだろうと思います。

投稿者: フィンランドの雨 | 2011年03月29日 00:07

長い時間かけて当たり前に歪み続けてきたことにストップがかかる。
この平成という時代に居合わせた意味を考えたりします。

誰かの感じ方を自分に同期できるかどうかは、これまでもこれからも感覚でしかないけれど。

ここにくる理由はそれさえ越えて…というか、長い時間かけて発信され続けてきたものが、スコンとはまった瞬間があったからでした。

信頼できるメディコンを見つけるためには情報を受け取る側としても柔軟でありたい、と思います。

いつかその人をも助けることができるように。

コンダクターさんの肉体的精神的負担はきっと大きいはずですから…。

今週来週は、桜も全力ですね。
あの悠然とした容赦ない美しさにややひるみますが、一年かけて発せられるメッセージに、耳を澄ませてみたいと思います。

投稿者: ひょう | 2011年04月01日 06:52

難しい言葉を連発して、相手に物事を説明できない人は、本人が理解していないことが多いように思います。

池上さんのように、物事をしっかりと理解して噛み砕いて、小学生でもわかるようにわかりやすい例に例えて説明できる人は、本当に信頼できますよね。

テレビやネットニュースの情報、さらにはチェーンメールで謎の内容が送られてきたりと不安が増幅していましたが、我が家では尊敬すべき父の「大丈夫!」の一言ですべてが解決しています笑。今回の地震で、とても身近な場所にわたしのメディコンを見つけました。

投稿者: チオリーヌ | 2011年04月05日 00:18

コメントしてください

名前・メールアドレス・コメントの入力は必須です。




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)