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2010年12月05日
第429回「虹と灰色のそら〜アイスランド一人旅2010〜」
第十一話「いつもの朝」
暗闇を棒でかき回すように、光の線がくるくると回転しています。昼間には見ることのできなかったもの、それは灯台でした。なにもない真っ暗な世界を、まるで生き物のように見回しています。
「この印はなんだろう…」
コーヒーカップで押さえられた地図の上にたくさんの星が散らばっていました。特に沿岸部などに多く見られる星のマークこそ、灯台を示すもの。もしそれが灯台っぽいマークだったらあまり気にならなかったかもしれませんが、なにもないところにぽつんと記される星の形に、想像力を掻き立てられずにはいられません。その星のひとつがいま暗闇を照らしています。
灯台というとどれも同じようですが、アイスランドのそれは個性的で、写真におさめたくなるほどかわいらしいものばかり。日本の一般的な灯台のように白くて円柱状のものではなく、角砂糖のような、四角いオレンジ色の建物。それが自然の景色にとても映えて、一目見ればあっという間に心の中にはいっています。かつて訪れたソイザネースの灯台はいまだに脳裏に焼きついているほど。アイスランドの人々はきっと、島の夜を守る灯台に強い愛着を持っているのでしょう。真っ黒な夜空に浮かんで光を放っている姿はたしかに星のよう。一体、この星はどんなカタチをしているのでしょうか。
光の棒がこの暗闇をずっとかき混ぜてくれるわけではありません。星が遠ざかれば再び真っ黒な世界。あとどれくらい走ればいいのでしょうか。ヘッドライトの前を横切る鳥たち。ぼーっとしていたら暗闇にさらわれて別の世界へ連れて行かれそうです。
「やがて朝が訪れる」
アイスランドでここまで真夜中に運転したことははじめて。しかも、町の明かりのない真っ暗な道は、運転する者を不安にさせます。いつまで暗闇が続くのか。ただ朝を信じるしかありません。それでも朝は訪れる、どんなに暗い夜にも必ず朝はやってくる、そう信じてハンドルを握っていると、次第に暗闇が薄まってきました。ゆっくりと空が浮かび上がり、目の前に青みがかった世界が広がっています。まだ赤も黄色も存在しない世界。刻一刻と夜が融けていく。それは夏と冬の間の秋のような、美しい時間。そして青色がさらに薄まっていくと、周囲は霞んだもやのなかに白くて丸いものがぽこぽこと浮かびはじめました。
「いつだって、朝は僕たちを裏切らない」
こんなにも朝を信じたことはあったでしょうか。たとえ灰色の雲が空を厚く覆っていても、朝は世界を明るくしてくれる。世界に色がつけられていくいつもの朝。いつもの朝であり、新しい朝。この世でもっとも新しい朝のはじまり。この朝の訪れをどのように感じているのでしょう、まるで夜通しそうしていたかのように羊たちは体を揺らしながら草を食んでいます。そして昨日訪れたコパスケールに着いたときにはもう町はすっかり朝の空気。朝もやに包まれた教会は昨日とはどこか違った印象で、見ているだけで神聖な気持ちになります。
「さぁ、ここからだ」
朝からたくさんの力をもらった僕は、見知らぬ世界を突き進みました。起伏に富んだ海岸線。絶壁が延びていたかと思えば海面と同じ高さの道が続きます。まさか人生でこの道を走ることになるなんて。車を降りて深呼吸すれば、生まれたばかりの朝の空気が体を膨らませます。海辺の牧草地帯の上には羊たちが寝そべって朝のひと時をのんびり過ごしているよう。激動の世界はいったいどこにあるのでしょう。穏やかさと静けさと、砂利道を歩く音。ここにはやさしいものしかありません。白い雲に包まれたやわらかな朝は、絵葉書にしたらこの風も届けてくれるでしょうか。白い建物を衝動的に飛び出してたどり着いた海辺の朝。生きていれば、こんなにも素晴らしい朝に出会えるのです。世界はすべて気持ち次第。羊たちの声が空に飛んでいきました。
2010年12月05日 00:14
コメント
アイスランドの人は灯台をただ機能すればいいものと考えないのですね。何事にも遊び心というか、ちょっとしたアレンジをする事で見方や雰囲気が変わるんだという事を考えさせられました。
漆黒の黒からグレー、そして鮮やかな色づきがされた世界が開けてくる光景は、その時間の経過を眺めている事によって新たな力が漲って来る感じがするんでしょうね。
明けない夜はない、どんなに暗くて冷たい闇もやがては柔らかな暖かい陽射しと共に新しい今日が訪れる。今回のロケ兄のお話は、今後どうしようもなく辛くて悲しい時に思い出して、きっと自分を励ましてくれる事でしょう。テキストにコピペして永久保存版にします!
投稿者: ラブ伊豆オール | 2010年12月05日 13:04
「角砂糖のような、四角いオレンジ色の建物」、おしゃれな灯台も牧草地帯と羊さんの存在でより自然に リンク。きれいな絵葉書の世界を発信していますね。 想像力さえ持ち合わせていれば、旅はすばらしいごほうびを与えてくれるんですね。
朝は大好き! どんな世界にも朝は必ず・・・。今朝も「ROCKETMAN SHOW!」のあと、朝を迎えました。
絵を描く人についての語りには、感動! インプット能力、記憶力がすべてのような気もします。それから、改めて「ログオフ」について考えています。 「小説はひとりで読むもの」という言葉も奥が深いですね〜!
来年の「フニオチコンテスト」、今から楽しみです。「12月25日はワクワク、ドキドキ!」 会場選びはいつもご苦労されているんですね。お疲れさまです。 お体、大切に〜。
投稿者: アトリエのピンクッション | 2010年12月05日 15:32
世界はすべて気持ち次第!
これからそれを辛い時思いだしてがんばります。今回の週間ふかわはメモしておきたいコトバがいっぱいですね。
新しい手帳を買ったので、1P目にしっかり大きく書いておきたいと思います。
投稿者: チオリーヌ | 2010年12月05日 20:31
まさか人生でこの道を走ることになるなんて。
生きていて、こんなふうに感じる瞬間は本当に素敵なことだと思います。
何事も必然である。ということを信じていたいですね。
この神々しいまでの、いつもと同じはずの朝に、わたしも会ってみたいと思いました。
投稿者: ひょう | 2010年12月10日 12:12