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2010年03月21日
第399回「シリーズ人生に必要な力その30妥協力」
妥協という言葉にはどこか諦めのニュアンスが込められているのであまりいい意味で用いられません。たしかに妥協を許さないというと貫徹した力強い印象を与えるし、妥協するというとどこか弱腰な感があります。理想を言えば妥協のない生活を送りたいものですが、なかなかそうもいきません。もし妥協せずに生きようとすれば必ず誰かと衝突し、誰も妥協しない世の中は間違いなく争いにあふれているでしょう。妥協をすることで人は世界との折り合いをつけるのです。そういう意味で「妥協は社会の潤滑油」であり、誰かの妥協が世の中を円滑に動かしているのです。だから、妥協をしないように努めるのではなく、生きていく上では「上手に妥協すること」が求められます。ではどうしたら上手に妥協できるのでしょう。その力はどうやって身につけることができるのでしょう。もっともスタンダードな妥協の訓練として挙げられるのが、「部屋探し」です。
入学や進学、就職や転勤など、春から新しい生活が始まる人も多いかと思います。この時期はいたるところで引越しの車や、不動産屋の前で間取り図を眺めている人を見かけますが、この部屋探しこそ妥協の力を磨く絶好の場なのです。「部屋探しは妥協の巣窟」と言われるだけあって、それは思い通りにいかないもの。必ずどこか諦めなければならない箇所が出てくるのです。家賃も間取りも理想なのに築年数が古かったり、オートロックもガスコンロもあるけど日当たりが悪かったり。どこかが満たされると必ずどこかが欠けてしまう。特にはじめて一人暮らしをする者にとっては夢の世界。しかし実感するのは理想と現実のギャップ。間取り図では完璧でも実際に足を運んでみるとどうもイメージと違っている。きまってどこかがしっくりこない。あと3万円あればと通帳を見つめても、それじゃ家賃のためにバイトするようなもの。そうなるともうあとはアイツにお願いするしかありません。すべてを丸くおさめる「妥協」の登場です。このさえあれば恐いものなんてありません。
それにしても、なぜ部屋探しに妥協はつきものなのでしょう。答えは簡単です。「理想の部屋なんてありゃしないから」です。この世には存在しないのです、あなたにピッタリのお部屋なんて。だから本来であれば不動産屋は「ピッタリのお部屋が見つかる!」なんて言わずに「あなたにピッタリのお部屋なんて…あるわけにー!!」ときっぱりお客さんに伝えるべきなのです。100点の部屋なんてこの世に存在しない。もし仮に自分で建てたとしてもあなたの理想にはならない。理想と現実は絶対に一致しないのです。必ずどこかで折り合いをつけるときがくる、だからこそ妥協力が必要なのです。
実際、コツはあります。それは、妥協できないことはなんなのかを明確にすることです。たとえば、南向きだとかオートロックだとか2階以上だとか、絶対に妥協できないことを認識するのです。すると自ずと「妥協できること」が明らかとなり、決断しやくなる。妥協できないことを明確にすること、それが妥協への近道なのです。
「妥協」それは、世界と折り合いをつけた証。世間との握手。妥協とは、現実を受け入れること、妥協して人は大きくなるのです。結婚にしてもそう。自分の理想の相手なんて見つかるわけありません。語弊はありますが、どこかで妥協しなくてはならないのです。しかし、部屋と同様に、はじめは気になっていたこともいつのまにか好きになったりするもの。妥協こそ愛なのです。かつて、ある国の王様が自分の城を手に入れた際にこんなことを言いました。
「王様、素晴らしい部屋ができましたね」
すると王様は答えました。
「たしかに、この部屋にはすべてが揃っている。が、ひとつ足りないものがある」
「足りないもの?」
「妥協だ」
「妥協?」
「そうだ、この部屋には妥協という人間の美しい感情が存在しない」
そして彼はクロスの色を自分の好みでない色に張り替えさせたと言われています。妥協のない部屋なんてなんの魅力もない、妥協して得たもののなかにこそ人間の美がある、そう言いたかったのかもしれません。
それは決して諦めることではありません。世界と折り合いをつけること。うまく妥協し、それを楽しめるようになってからが本当の人生なのかもしれません。妥協こそ美であり、生きる知恵。人生には、妥協力が必要なのです。
2010年03月21日 10:26
コメント
あはは!「あるわけにー!!」って不動産屋さんに言われたかったです。
そっか! うまく妥協して楽しめれば
肩の力抜けて穏やかにがんばれます
苦手なコトやヒトや自己嫌悪にも。
投稿者: 咲子 | 2010年03月21日 12:39
妥協力ですか!
僕は来月から高校生なので
ふかわさんの話を参考にして生きていこうと思います!
あっ、余談ですが、
僕の担任の先生はふかわさんに似てます。(笑)
(^O^)
投稿者: なる | 2010年03月21日 12:53
先ほど妥協できないことがありました。
でも妥協してみることにします。その後の気持ちの変化を観察してみたいと思ったので。一体どのようにこの妥協を楽しんでゆくのか。
投稿者: サルキ | 2010年03月21日 14:01
「妥協できないことはなんなのかを明確にすること」……これが本当に至難の業です。
最初の段階で「妥協できないこと」と設定した項目であっても、場合によっては再度の妥協を強いられることもよくあります。特に、自分の考えが浅はかで、「妥協できないこと」とした線引き自体が、相手との話し合いの中で次第にナンセンスなものに思われてきた場合などは・・・本当に困ります。その際は相手に、(自分が)再考する時間を要求してはみますが、それが通らないこともあります(←時間的制約のこともありますが、重要な折衝の場などでは戦略的意味合いから相手がそれを許してくれないこともあるでしょう)。
投稿者: 明けの明星 | 2010年03月21日 17:00
「妥協する」と言うと、ふかわさんの言うように、諦めるというなんだかマイナス的な要素が含まれてるように感じますが、私は「妥協」には大事な要素がたくさん含まれていると思います。妥協には、「認める」「受け止める」「譲る」「思いやる」「包容力」があると思います。
友達とランチをするとき、特にシェアして食べる料理の時なんかは、本当は自分の食べたいものが決まっているのに、あえて「何にする?」とか聞きながら、つまり、折り合いを付けながら注文する料理を決めます。その工程に「認める、受け止める、譲る、思いやる、包容力」があるのです。
だから、心地いい人間関係が何年も続くのです。
妥協は、自分を人間として大きな器にさせてくれるいい
スパイスだと思います。
投稿者: りん&メリー | 2010年03月21日 23:49
確かに妥協という言葉には諦めのニュアンスが多く込められていますね。
もっとプラスのイメージを与えられるような言葉があったらいいですね。
ふかわさんなら思いつきそうです。
投稿者: ずんずん | 2010年03月22日 19:36
こんにちは。
いつもブログ拝見させて貰ってます。
毎回、楽しい話題が多くて更新が楽しみです。
また遊びに来ま〜す!
投稿者: nana | 2010年03月23日 11:41
僕は基本的に流れに逆らわずに生きているので、妥協はお手のもの…ですが、嫁は違うよう。
お嬢様で育てられてきたので、妥協できないようです。
そうやって、大切な機会を失わなければ良いのですが。
投稿者: hicoki | 2010年03月23日 23:20
勝手なイメージで、妥協とはあまりいい言葉ではないと思っていました。「時には妥協も必要」って言葉を聞いたこともありますし、言われた事あるような気もします。自分を認めて自分を許すことはとても難しいこと。
これでいいやって思えるような思考にちょっとづつ慣らしていきたい。
投稿者: オレンジブーツ | 2010年04月09日 12:34