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2010年01月17日

第390回「シリーズ人生に必要な力その22寄り道力」

 学校帰りに友達と小銭を握りしめて立ち寄った駄菓子屋さんやなんとなく歩いた河川敷。それは家に帰りたくないという気持ちの表れだったのかもしれないけれど、ほんのり罪悪感を抱きながらの寄り道は小学生からしてみればちょっとした冒険。通学路から逸れた道に、いつもとは違う別の世界がありました。やがて駄菓子屋から飲み屋へと場所を移し、罪悪感こそないものの、大人になっても「寄り道」がなくならないのは、そうすることで現実の嫌なことを忘れ、あるいはそれをスパイスに変えることができるからかもしれません。だから人生には必要なのですが、ここでいう「寄り道」とは会社や学校帰りのことではありません。もちろんそれらも大事ですが、すべての、おもに「情報の寄り道」を指します。
 言葉を調べるとき、電子辞書よりも分厚い辞書のほうがいいと言われます。電子辞書が調べたい単語にすぐたどり着いてしまうのに対し、分厚い辞書はたどり着くまでにほかの単語をいくつも目にします。その積み重ねによって得られる膨大な量の単語はボタン操作で瞬時に切り替わる電子辞書のそれに比べたら相当なもの。またページをめくって自分で探す分、印象に残る度合いも大きいのに対し、電子辞書は、分厚い辞書で生まれる一発で開く喜びもないまま、頭の中を一瞬にして通過していきます。わずらわしいことも感動もありません。デジタル化というのは簡単に言えばこういうことで、寄り道だと思われるものは排除されます。現代社会はやたらと無駄が敬遠されがちですが、それが無駄におわるかどうかはその後の使い方次第。人や時代の価値観次第でそれが意味のある寄り道にもなります。無駄に思えるものから新しい世界が生まれることだってあるのです。
 デジタル化、そしてネット社会は僕たちの暮らしに大きな変化をもたらしました。アルバムを買っていた頃は、いつのまにかほかの曲も好きになったりしたものなのに、好きな曲だけをダウンロードしていたらもしかしたら好きになっていたかもしれない曲に遭遇する機会が減ってしまいました。自分の欲しい情報を入手することが容易になった反面、受信ボックスの中がとても偏ってしまったのです。ネット上のコミュニティーなどもそのひとつですが、クリックで築き上げた世界はよくも悪くもこじんまりしてしまい、視野が狭くなってしまうのです。視野の狭さは考え方の狭さであって、つまり心の狭さ。自分の頭にないものを排除しようとしてしまいます。視野が広いとそれだけ受け入れられる量も多く、たとえ自分のイメージと違うことが起きても腹を立てずにそれを率先して受け入れようとするのに対し、視野が狭いとそれらを排除することばかり考えてしまいます。運転するスピードがはやければ速いほど視界が狭くなるように、無駄を排除し、効率の良さばかりを追求していると、人としての視野が狭くなり自分の世界で生きてしまうのです。デジタルやネットがもたらした人間性の変化は、そういった自己完結世界の乱立であり、他者の世界を受け入れにくい社会なのです。
 だからネットやデジタルがダメだということでは決してありません。目的地にすぐにたどり着いてしまう分、寄り道する機会が減ってしまったということで、なんでも食べ過ぎるとよくないというだけの話です。ネットも現実もアナログもデジタルも、バランスよく食べなければ通風になってしまいます。頭や心の通風。ネットでのつながりは本当のつながりではありません。いわばサプリメントのようなもの。それが栄養の補助であるようにネットはコミュニケーションや情報を補助するものです。わずらわしいことを排除して生きているとやがて具合悪くなってしまいます。もちろん情報だけではなく、実感することも必要です。そのほうが数百倍もの価値があります。昨今の散歩ブームはそんな寄り道を排除した現代社会における人々の潜在的な欲求から生まれたものかもしれません。ただ散歩はどこに向かうかよりもどこで足をとめるかのほうが重要なのですが。
 いかに本来の目的地とは違う場所に訪れることができるか。ひとつの山の頂上を知ることも大切だけどいろんな山を知ることも大切。もしかしたら道草にはものすごく栄養があるかもしれません。その広さは心の広さ。人生の幅が狭くならないように視野を広く持つべきでしょう。心が狭いと人を許すことができません。無駄を排除してばかりいるとどんどん殺伐とした空気が流れます。そうならないためにも、人生には寄り道力が必要なのです。

2010年01月17日 06:35

コメント

こんにちは。
『道草にはものすごく栄養があるかもしれません。』人生の道草しちゃったのかなと思う時もあったので、考えさせられました。そうなると、世の中の面倒な事も捉え方次第なのかなぁ。(ちょっと捉え方間違っていたらごめんなさい(>_<)。)

投稿者: 絢子♪ | 2010年01月17日 16:59

昨夜のロケットマンショーでも強く感じましたが
ふかわさんの心は 
広くてやわらかくてあったかい!
その内面も「澄んだ瞳&少年ぽさ」の秘訣かな?
私もそうなりたいです。

投稿者: 咲子 | 2010年01月17日 17:37

確かにそうだと思いました。
私のお母さんは電子辞書よりも分厚い辞書が大好きで、ついでに覚えた事もいっぱいあると思います。

投稿者: オレンジブーツ | 2010年01月18日 14:11

寄り道力、大切ですね。
寄り道できる 心と時間の余裕を持って、
日々生活していきたいなと思わされました。

投稿者: ごぎょうはこべら | 2010年01月18日 21:32

視野の広い人は憧れます。
明日からいつもよりゆっくり運転してみようと思います。寄り道力つくといいなー。

投稿者: ずんずん | 2010年01月18日 21:47

視野の狭さは考え方の、心の狭さ。
視野が広いとそれだけ受け入れられる量も多く、たとえ自分のイメージと違うことが起きても腹を立てずにそれを率先して受け入れようとする。


ふかわさんてやっぱりスゴすぎ〜!!!


成人式でヤンチャする新成人についても「いかにも人間らしい行動」だから
全然、許容しちゃうってロケショーでもお話してましたよね〜♪


悟って♪悟られ〜て♪
悟って♪悟られ〜て♪


ふかわさんてきっと上記の境地におわしまする(*^_^*)お方ですね♯♪★

わたしもがんばりたいっっ!!!


通勤の身動きとれないメチャメチャ満員電車の中で、
自分のスペースを取ろうと、やたら小刻みに、周りの人にこずくように圧力をかけるように動く人。

体勢がキツクテ苦しい思いしてるの、あなただけじゃなくて、み〜んな、我慢してるの〜〜!!!ってカチッ(怒)ときている心の狭さ、大、大、大反省です((+_+))

もしかしたら、その人妊娠中で、お腹の子を守ろうと、必死に体をかばってるのかも。。。。


などなど、視点を変えて、現象に対して違う見方をして、広い心を育みます。

投稿者: モモハル | 2010年01月19日 12:43

いつも思いますが
ふかわさんの文章は
わかりやすいですね。

いろんな本や映画や音楽などを
読んだり観たり聴いたり
しているからなのかなぁ
と思いました。

寄り道力。

投稿者: おくすり | 2010年01月20日 21:43

いま、英語と中国語を習得してますが、
寄り道は確かに大切だと思いました。
英語習得するのにカナダに住んだりバックパッカーで色々な国を旅行して様々な国籍の人と交流してたくさんのことを教えてもらいました。電子辞書は確かに便利だけど、一つの情報しか入らない。。ふかわさんの言うとおりだと思います。
人生寄り道力→自分の教訓のひとつにします(^@^)y
ふかわさ〜ん、座談会かブログ返信する人たちとの懇談会とか開いてくださ〜い!ふかわさんの教訓、ナマで聞きたいです。ふかわさん素敵です☆

投稿者: Amy | 2010年01月21日 23:14

good!

投稿者: まぐみ | 2010年01月23日 05:15

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