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2009年11月08日

第381回「風とマシュマロの国〜アイスランド一人旅2009〜」

はじめに
今回は書かないと心に決めていました。それはいまにはじまったことではなく、いつもそう思います。書くために訪れると書くための旅になってしまうから。でも結局書かずにいられないのは、伝えたいというより、忘れたくないという想いのせい。だからあくまで、他人の日記をのぞき見る感覚で読み進めてもらえたら、それでいつのまにか一緒に旅をしている気分になってもらえたら。すべてを読み終えたとき、あなたの中にもマシュマロがいることを願って。

第一話 おいしい朝食
冷たい風が吹いていました。頬を突き刺すように、風が、吐く息の白さも周囲の音もすべてかき消していきます。例年より遅い時期であることがそれをより冷たく感じさせるのかもしれませんが、それにしても僕を迎えてくれるのはいつも風。この島にあるすべての中で一番最初に僕に触れるのがこの激しい風。大陸育ちのわがままな風が十数時間も機内で温められた僕の体を包むのです。
冬のフライトスケジュールのおかげでいつもより数時間早くレイキャヴィクに到着した僕は、いつものように前に停まっている大きな鉄の箱にはいると、何語かわからないラジオの音をなんとなく感じながら自分の顔と近くの人が反射する窓を眺めていました。
市内へはだいたい40分。途中のバスターミナルで小さい箱に乗り換える数十秒間の風も体が覚えているようで、どこか懐かしく感じます。昨年も宿泊した街の真ん中にあるホテルにチェックインすると、まるで同じじゃないかと思わせるほど印象の似た部屋が、どこか戻ってきたという安心感を与えてくれました。数時間早いとはいえ日本でいう朝6時。白いカップに注がれたコーヒーの香りが部屋に充満する頃には、風の音に夜のレイキャヴィク散策を断念した旅人を、小さなベッドがやさしく包み込んでいました。
朝5時。アラームをセットしなくても時差ぼけがほどよい時間に起こしてくれます。日に日に起こす時間が早くなるのですが。夜はまだ明けてなく、窓の外は寝る前と変わらない様子。シャワーを浴びたり荷物を整理したり、コーヒーを飲んだりしていたら朝食の時間。一番乗りで手にした白いお皿の上にハムやベーコン、サーモンなどが乗せられ、トースターからは香ばしいパンの匂いが漂ってきます。とりわけパンへの期待は例年高く、よりおいしく味わうために旅の前の一週間は断パンするほど。小麦色のパンや茶色のパンたちはとてもシンプルなのにバターを付けるだけでもつけなくても何枚でも食べられそう。白いカップにこげ茶色のコーヒーが注がれればもうこのうえない幸せ。こんなごく普通の朝食のひとときが旅の楽しみのひとつで、むしろおいしい朝食を食べるために旅をしていると言ってもいいほどなのです。
朝食を終えてさっそくチェックアウトした僕はタクシーで5分くらいの国内線の空港に向かいました。フライトではなくレンタカーを借りるため。今回はレイキャヴィクから車で移動する予定だったのです。
「それじゃぁ気をつけて」
3年目ということで気持ちスムーズにキーを受け取った僕はいつもと違う感触のアクセルを踏みました。本来ならこのままリングロードとよばれるアイスランドを一周する道に向かうところですが、なんとなくこのまま行くことがひっかかります。
「無事に戻って来られますように」
丘の上には街のシンボルであるハトルグリムスキルキャ教会、その前には新大陸を発見したエリクソン像、そして彼の前で宗教の壁を越えて手を合わせる日本人がいました。旅のはじめはなんとなくここからはじめたかったのです。高い建物のないおもちゃのような町並みの上にはいまにも雨を落としてきそうな空が広がっていました。レイキャヴィクの町はどんよりした空も似合います。ここから長い旅のはじまり。高鳴る気持ちを穏やかにして、リングロードに向かいます。雲がゆっくりと流れていました。

2009年11月08日 11:19

コメント

「断パン!」アハハ!。アイスランドには
地熱で焼いた茶色いパンもあるそうですね。

昨夜のDVDイヴェント!楽しい時間を有難うございました。
事前に購入、拝見しふかわさんの生歌が素敵で、
弾き語りを披露してくれるのでは?と歌詞を覚え会場に向いました♪
メロディーがスウェディッシュポップだ!と思いましたが
アイスランドポップかな?

投稿者: 咲子 | 2009年11月08日 13:19

アイスランド旅行紀大好きです!
ふかわさんの文章はいつも五感が研ぎ澄まされます!
これから続く旅の模様、楽しみに拝見させていただきますね!★★★★★

投稿者: 堀口ひとみ | 2009年11月08日 13:43

前書きから旅行記は内容に入りだし…

「他人の日記を覗き見」と言うより私はなんだか、私の特別な人からのラブレターを読んでいるような気持ちにさせられました。

書くための旅行ではないと言うことは自然と心にしみて、「続きの手紙も楽しみにしています。どうぞご安全に。」って思わず手紙を書きたくなりました。

投稿者: 凛 | 2009年11月08日 18:04

 「書くために訪れると書くための旅になってしまう」、というのは何となく解ります(究極的には、“旅を愉しむことができなくなってしまう”、ということかと推察いたします)。

 
 「心の充電」にアイスランドに行かれたようですね・・・。
 アイスランドというと、高校の時に地学を勉強した際の乏しい知識――大西洋中央海嶺が陸上に露出した所がアイスランド東部にあって、時としてその“地殻の裂け目”のあちこちから噴火して溶岩台地を形成する――ぐらいしかないので、「エリクソンって誰??」という感じです(苦笑)。そこでちょっと調べてみたところ、「なるほど、そういう業績のある人だったのか・・・」という具合です。間接的にですが勉強になりました。

投稿者: 明けの明星 | 2009年11月08日 19:32

よっ!!!待ってました。
アイスランド日記。

どうか、
事戻って来られますように…

投稿者: KINGKAZU | 2009年11月10日 12:19

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