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2009年04月12日
第356回「さよなら親切の国〜step into the sunshine〜」
第二話 リスボンの街
目が覚めるとカーテンの隙間から光が差し込んでいます。日本との時差は9時間なのでポルトガルの朝7時は日本の夕方4時。いつもなら時差ボケと興奮で夜中の3時くらいに目を覚ますのにいろいろな疲れからかちょうどいい時間の起床となりました。
旅行中は欠かさないホテルの朝食は案外期待に応えてくれて、ハムとかベーコンとかソーセージとかいわゆるアメリカンブレックファーストな朝は僕の気分を穏やかにしてくれました。意外だったのは大抵このタイミングで日本人が数組登場したりするのだけどまったく見かけなかったこと。この国があまり日本では注目されていないからかもしれません。ちなみに日本からの直行便はなく、ヨーロッパのどこかで乗り継ぐことになります。僕はドイツのミュンヘンでしたが。また、仕事で世界中を飛び回っていた父は過去にこの街を訪れたことがあるそうで、僕はそのDNAに動かされているのかもしれません。
そもそもポルトガルというとどんなイメージでしょうか。鉄砲伝来とかヴァスコ・ダ・ガマだとか歴史の教科書にもその名は登場しましたが、場所すらわからない人も少なくないでしょう。ヨーロッパ大陸の南西端イベリア半島のスペインの西。ミュンヘンを基点としたら右からドイツ・フランス・スペイン・ポルトガルという風に並んでいるわけです。国土はとても小さく日本の四分の一、人口は10分の一程度。たしかにエッフェル塔やヴェルサイユ宮殿のようなわかりやすい観光名所もないため、日本でそのことを口にしたりポルトガル行ってきたよという人には滅多に出会いません。そもそも観光名所を基準に旅をしないのでそれは別にかまわないのですが、今回この国を選んだ理由のひとつに、意外な発見があったのです。
「え、こんなに?」
数年前のこと、例によってお正月を海外で過ごそうといろいろな国のガイドブックを見ていると、他の国に比べそれほど分厚くないポルトガルのガイドブックの最初のほうにある折れ線グラフが東京のそれや他のヨーロッパ諸国のそれよりも高い位置にあったのです。ヨーロッパの冬はどこも寒いという印象が強かったのだけど、ポルトガルに関してはとても温暖で一年中穏やかな気候なのです。日本にとっての沖縄のようなものでしょうか。だからなんとなく目星をつけていたのです。でもそれだけではわざわざ休みをとって行く決め手にはなりません。温暖な気候ともうひとつの要素、それはまた旅の途中にでも話しましょうか。いずれにしてもどうしても行きたいという場所ではなく、もし行くならここかなくらいだったので行く直前まであまり気が進まずアイスランドのように足取りも軽くありませんでした。そんな感じで訪れるとやはり視点もネガティヴになってしまいます。なんか違うなぁと。そんな僕の心境に変化が訪れたのは、ホテルをチェックアウトする時でした。
アイスランドで味を占めた僕は海外で車を運転することが当たり前になり、レンタカーを事前に予約していました。営業所の場所がまったくわからなかったものの、ホテルの人に訊けばいいかと高を括っていたのです。
「ん?レンタカー?」
しかし、フロントのメガネを浅くかけたおじさんはどうやらピンとこないらしくなにやらぶつぶつ言って奥へ行ってしまいました。面倒くさいことを訊いてしまったと申し訳ない気持ちでいると彼が戻ってきました。
「住所がこれだから場所はおそらくこの通りの・・・」
パソコンでプリントアウトしたレンタカー会社の資料と営業所までの地図、大事なところには蛍光ペンでマークがされています。電車で行く場合、タクシーで行く場合、歩くと結構あることなど、丁寧に説明してくれました。この程度のことは日本のホテルでも珍しくないかもしれません。でもなんか違うのです。「うちのホテルはサービスが行き届いているでしょ?」じゃなくたまたま遭遇した街のおじさんに教えてもらうような印象。サービスという感じではないのです。
「オブリガード」
はじめてポルトガル語を実践した瞬間です。そういえば日本語の「ありがとう」と少し似ています。ちなみに「どうもありがとう」と言いたいときは「ムイトオブリガード」。今回の旅でどれだけこの言葉を発することになるか、このときの僕はまだ知らずにいますが。
「親切な人だったなぁ」
ホテルの外観がいつものデジカメに収められるとオレンジ色のスーツケースが石畳の上をガタガタと音を鳴らしていきます。時間には余裕があったので散策がてら歩いて向かうことにした僕の目の前でいきなり車がとまりました。タクシーではなく普通のクルマです。一瞬運転手と目が合ったもののわけがわからず視線を逸らすと車は僕の前を通過していきました。
「もしかして、いまの…」
歩道にいる僕を見かけて彼は横断させようと車を停めたのでしょう。車の通過を待ってから渡るのがあたりまえだった僕にとってわざわざスピードを緩めて横断させる運転はとても新鮮に映りました。ポルトガルの人はもしかするといつも人のことを考えているのでしょうか。自分のことでいっぱいではなく、人のことを気にする余裕があるようです。
「こっちでいいのかな」
不安な顔をした日本人がリスボンの街を彷徨っていました。いくら住所と地図があっても、やはりはじめての地では距離感がつかめず思うようにいきません。僕は覚えたてのボルトガル語「ボンディア」と「オブリガード」を武器にいろんな人に道を尋ねました。まだ都会なので英語が通じる確率も高く、挨拶だけポルトガル語であとは英語に切り替わってなんだか3ヶ国語を操っているかのような錯覚にもなります。なにを言っているかわからないのにわかったフリをしたり、数十メートルおきに声をかけたり。見覚えのある場所がないから実際にその場所にたどり着くまで安心できません。たかがレンタカーに着くまでにどれくらいの人にお世話になったことでしょう。でも、どの人も面倒くさがることはなく親身になって教えてくれます。やはり心に余裕があるのでしょうか。人の親切に触れられることが嬉しくて道を尋ねることが楽しくなってきます。世界は旅人にやさしい、旅をすると人のやさしさに触れることができる。海外にいくといつもそう感じます。困っている人がいたら助けてあげる、こんな当たり前な人間関係も日本では希薄になっているかもしれません。ホテルを出てから45分。レンタカーにたどり着いた青年は、ポルトガルという国、そしてポルトガルの人たちを好きになりはじめていました。
「じゃぁゆっくり話しますね」
カウンターの女性は僕のためにゆっくりと英語を話してくれます。ちなみにポルトガルではあまり日本車はなく、またなにも言わないとマニュアル車になってしまいます。異国の地で慣れないマニュアルよりは値段に差がでますがオートマを選びました。そして、日本ではあまり見かけない車に乗った僕は、やや緊張した面持ちでリスボンの街へと繰り出します。
路面電車やケーブルカー、坂道や港、石畳、そこにはイメージどおりの光景がありました。でも、そんなリスボンの街に僕はまったく興味を抱きません、というと語弊があるかもしれないし結構写真も撮りましたが、僕が行きたいのはこの観光客であふれるリスボンの街ではなかったのです。車はハイウェイに吸い込まれていきました。
2009年04月12日 06:41
コメント
ポルトガルがどの辺にあるかは知っていたけど、人口などの事は全く知らなかったので勉強になりました★ 私はイギリスに長年住んでいるのにも関わらず、1回もフランスやドイツ、イタリアなどの近い国に行った事がありません。(勿論ポルトガルにも)。旅行は好きなんですけど、ヨーロッパに興味がなくて↓ イギリス在住者が言うのも変なんですが。(笑) でも、ふかわサンのBlogを読んでいたらポルトガルは暖かいみたいだし、中々ぃぃかもと思い始めました\(^o^)/ イギリスでも歩道に人がいたら、殆どの車はスピードを緩めて横断せてくれます♥ そして渡る時はドライバーの方にsmile(●•v•●) やっぱりヨーロッパ内では似てる風習って多いみたいですね。無事にレンタカーにたどり着けて良かったですね☆ ふかわサンはドコに行きたかったのか気になります。第三話楽しみにしてます♪
投稿者: 莉瑛 | 2009年04月12日 08:34
こんにちゎ!
はじめてコメントさせていただきます♪♪ふかわサンゎ おもしろいしかっこいいし ホントに大好きデス(●^o^●)
ふかわサンのブログも楽しんで見ています!!
ポルトガルと聞いて場所すら正直よく分かりません^_^;でもメジャーなところよりイメージにとらわれることなく楽しめそうなんて思いました。
私ゎまだ19歳で海外旅行なんて行った事ありませんが。時間も忘れて何にも縛られず 自由に異国を歩いてみたいな(^−^)
人のあたたかさって普段は意外と感じることができませんよね。それをしっかりと感じることができたふかわサン自身があたたかい気持ちで接していたんだと思いますよ!そしてその体験ゎ素敵な宝物だと思います。
ふかわサンのことずっと応援しています!!でわでわヽ(^o^)丿
投稿者: にゃ | 2009年04月12日 19:06
早く続きが読みたい〜〜っっ!!!!www
投稿者: 凛 | 2009年04月12日 21:35
小さい頃、ポルトガルは時間の無い国だ、だから町に時計も見当たらない、と大人の人が言いました
そんな訳は無いですが、想像するとしっくりきてしまいます
投稿者: 咲子 | 2009年04月13日 02:10
ふかわさんのブログ読もうと思ったら字がいっぱいだったので今度読みます
投稿者: ぴのこ | 2009年04月13日 11:43
ふかわさんのブログ、今日はじめて読みました!
びっくりするほど素敵な文章をかかれるのですね!
これから毎週楽しみに読ませていただきます!!
投稿者: のりこ | 2009年04月13日 16:53
ふかわさん、本当行動派!
自分昨日フランスから戻りました。英語も単語くらいしか分からず、旅行も数年ぶり、バスにのりつつ、みんなの運転の仕方や石畳を見て、車運転できないなぁと思いながら眺めてましたがレンタカー借りて旅行とは。多分自分なら高速料金どうやって払うんだろうとかいろいろ考えて面倒くさいからもう鉄道でいいやという考えになるのでしょうが、車ならどこでもいけるからもっと楽しめるのでしょうね。
メルシーとメルシーボクーを自分も使い分けてたような気がします。そして相手の笑顔で伝わった〜と。次に来るときはもっと言葉の勉強をして来るぞと心に誓うのです。
ふかわさんは無意識に会釈しませんでしたか?自分は有り難うの度に会釈したらとても不思議がられて。でも癖はすぐには治りませんでしたが。
ポルトガルでの出来事、次の日記楽しみにしてます。
投稿者: 鎌田 | 2009年04月16日 15:05
ブログを読んでるだけで
風景や人々が浮かんできそうです
楽しく拝見させていただきました
投稿者: 犬と家族 | 2009年04月17日 21:50
初めまして(^-^)v
応援してま〜す。
頑張ってくださぁい(^o^)/♪
投稿者: yui | 2009年04月18日 15:52