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2009年04月05日
第355回「さよなら親切の国〜step into the sunshine〜」
第一話 色褪せた街
そのときの僕はどこか憂鬱な気分でした、というと大袈裟かもしれないけどたしかに胸は弾んでいませんでした。それは乗り継ぎを含め20時間もかかったことや持ち前の荷物の多さからくるものではありません。まさにいま乗っているバスのせいです。なにを急いでいるのかやたらと飛ばすし公共の乗り物とは思えない荒い運転。手すりに掴まって両足に力をいれていないと立ってられないし掴まってもぶんぶん振り回されます。窓を流れる風景も、古い建物を残しているというよりは風化した建物ばかり。街灯も少ないからなんだか荒廃したスラム街にでも来てしまったかのよう。それでもこの国に対する期待が大きければすべてプラスに解釈できるのだけどまだ好きにもなっていない未知数の段階では期待よりも不安が勝ってしまいます。急停車するたびリュックに体を持っていかれ不安定な気持ちがさらに揺さぶられます。いったいどこを走っているのかこのバスであっているのかもわからないままアコーディオンのあそこみたいなもので強引に2台のバスをくっつけた巨大なバスは色褪せた街の中をものすごい勢いで進んでいきました。
なんとなく直感で降りた場所は決して的外れではない気がしたのは目の前の広場の中心に背の高い塔が立っていてここが中心部でないわけがないという雰囲気が漂っていたから。軽いバス酔いをしてしまった僕は再び地図を広げてホテルの位置を確認します。
「コカインどう?」
それがこの国での最初の会話。はじめはなんといっているかわからなかったけどすぐにそれだとわかりました。地図にスーツケースという絵に描いたような観光客は彼らにとって格好のターゲットなのでしょう。夜遅いせいもあり歩いていると何人も近づいてきます。本当に治安はいいのだろうかとガイドブックの言葉が信用できなくなってきたとき、赤いネオンで光るホテルの文字が見えました。
「朝食は朝7時から1階のレストランです」
ほかに誰もいないフロントで一言も現地の言葉を使わずにチェックインを済ませると0階から2階へとエレベータはあがり薄暗い廊下を抜けて部屋の扉を開けました。ルームカードを差すと蛍光灯の音とともに固そうなベッドが現れます。綺麗ではあるもののどこか20年前のような内装。シャンプーはあってもリンスはなく日本のホテルでは捨てているであろう段階のタオル。なんだかヨーロッパにいると言うよりもどこか南米っぽい感じ。この色褪せた世界は僕の気分を重くさせました。まったく弾まないベッドで仰向けになる僕の口から深い息がこぼれ天井のあたりで雲のようにぷかぷかと浮いています。この国を選んで正解だったのだろうか、いい旅ができるだろうか、そんな自問自答を頭の中で繰り広げる日本人の部屋からまもなく明かりが消えます。こうして、ポルトガルでの最初の夜は過ぎていきました。
2009年04月05日 06:14
コメント
無責任ですが、荒廃したスラム街のような町を歩くのは好きです!それさえ羨ましい!
色んな国の写真を見ても名所や綺麗な建物ばかり。足で出掛けないと見れないものですし。
感じる物悲しさもそこに住んでないゆえの、うすっぺらい感傷ですが。
で、硬いベッドは、飛行機の座席で弱った腰や背骨の回復に良いそうですよ!
ポーチュゲ・・白い石畳とコバルトブルーの海・・のイメージです・・これから三ヶ月!?の間に出てくるのかな?
投稿者: 咲子 | 2009年04月05日 16:26
無事に帰国できたようで何よりです。
ポルトガルに行かれたのですか……言われてみると確かにそれなりに有名な国であるにもかかわらず、イメージが湧かないです。
戦国時代にポルトガル人の手で鉄砲が伝えられたことをはじめとした、南蛮貿易の主要相手国の一つであり、その名残りでポルトガル語を起源とした日本語(お菓子のコンペイトウなど)も意外に多いといったことくらいしか思い当たらないです・・・・。
投稿者: 明けの明星 | 2009年04月05日 17:03
お帰りなさい\(^o^)/
今回はポルトガルに行ったんですね。乗り継ぎも含め日本からポルトガルまで、20時間もかかるとはビックリですッ!外国のホテルは日本に比べるとチョット汚かったり、設備が粗末な所多いですよね↓ やはり泊まっている時は嫌だなぁと思うけど、後には思い出の一つになりますよね★ 早くポルトガル一人旅 - 第二話読みたいです!早く日曜日にならないかなぁ♪
投稿者: 莉瑛 | 2009年04月06日 11:12
どこかタイムスリップしたみたい。イメージがすごく伝わってきます(・ω・) 続き読むのが楽しみ!
私実家がアメリカなんですけど、4年半前日本に来た時渋谷で怪しいおじさんに小さな袋に入った粉類を進められました。。(TOT)めちゃくちゃ怖かったです!
投稿者: かなり | 2009年04月06日 19:50
ブログを見るのは結構楽しみです
なんか親近感がわきますね
これからもおじゃましたいです
投稿者: マイドッグ | 2009年04月06日 22:22
最初、ブログで小説を連載し始めたのかと思いながら読んでいましたが、旅行記を小説風に書いているんですね。
ポルトガルは一度行ったことがあるのですが、確かに南米に近い雰囲気というのはありますね。
次回を楽しみにしています。
投稿者: 人間関係 | 2009年04月07日 17:00
読んでいてドキドキしてきました。
ラジオで話されていたのとは、全然印象が違うんですが…
これからの展開がとても楽しみです。
投稿者: アンコロン | 2009年04月07日 22:01
春は色々なことがありますね
無理して体調崩したりしないよう
気を付けてください
投稿者: マイドッグ | 2009年04月10日 01:06