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2008年11月23日
第338回「NORTHERN LIGHTS〜アイスランド一人旅2008〜第十一話 オレンジ色の理由」
第338回「NORTHERN LIGHTS〜アイスランド一人旅2008〜第十一話 オレンジ色の理由」
「え、もうでかけるの?」
「そうだよ」
「飛行機お昼の便って言ってなかった?」
「そう。だから出発時刻までに戻るから」
最後の夜を迎える今日、アークレイリからレイキャビクに12時の飛行機で戻ることになっていましたが、その前に行きたいところがありました。
「どうしてこの色にしたんだろ」
写真にオレンジ色の小さな建物が映っていました。シグルフィヨルズルにあるソイザネースの灯台です。右手のひらの中指の先、それが今日の目的地です。でも、僕にとっては目的地はそれほど重要ではなくて、ただ、いろんな景色を見たい、残りわずかとなった時間をぎりぎりまで楽しみたい、その口実として選ばれたのがこの灯台だったのです。
「しかし、なかなかでてこないねぇ」
予想では1時間ほどで着くものだと思っていましたが、いけどもいけどもオレンジ色があらわれません。あまり到着まで時間かかると飛行機の時間に間に合わなくなってしまいます。
「あのカーブをまがったら...」
ひたすら続く美しい海岸線に感動するものの、なかなか見つからない状況に焦らずにもいられません。こうなったら飛行機に間に合わなくってもなにがなんでも見てやる、そう心に決めたときでした。
「もしかして、あれ...」
小さくオレンジ色の建物が遠くの崖の上にポツンとたたずんでいます。銀色の車はカップに近づくゴルフボールのように、その建物に吸い寄せられていきました。
「いまも使われているのかな」
それは写真のとおり、なんともかわいらしい灯台でした。緑色の牧草地帯、茶色の山肌、青い海に白い羊たち。ここにいると、なぜこの色になったかわかる気もします。一見、使用されていないように思えるこの灯台も、夜になると明かりがともるのでしょうか。その光景もいつかは見てみたいものです。
「どうにか間に合いそうかな...」
灯台を折り返し地点に、車はUターンします。結局、最後のレンタカードライブは往復4時間の旅となりました。
「これで、本当にお別れだね」
「そんなあらたまらないでよ」
「本当にありがとう。君のおかげで楽しい旅ができたよ」
「そういわれると長距離頑張った甲斐があったな。でも、CDの件、ごめんね」
「いいんだってそんなの。それもいい思い出だよ。こっちこそごめんね、本当はここじゃないのに」
「大丈夫、慣れてるから」
僕は運転席を降りました。
「また、いつか会えるといいね」
「うん、また、いつか」
二人の笑顔がカメラに収められました。
「また、来れるかな」
銀色の車が、そしてアークレイリの街がぐんぐん遠ざかっていきます。すっかり国内線の小さい飛行機にも慣れたものです。窓からぼーっと内陸部を眺めていると、ところどころに水溜りが見えました。本来凍っていなければいけないところが融けてしまっているのかもしれません。実際目の当たりにすると、深刻さを実感します。
レイキャヴィクに戻った僕を、夏のような強い日差しが待っていました。アイスランド最終日は昨年と同じく、最大の露天風呂ブルーラグーンにはいって旅の疲れを落とすことになっています。もう何度も温泉にはいっていますが。空港から目と鼻の先にあるバスターミナルでチケットを購入し、お菓子を片手にブルーラグーン行きのバスを待ちます。ここのラウンジも映画に登場する場所で、多少リニューアルしているものの、当時の雰囲気はまだ残っていました。
「最終日か...」
定刻どおり、日本人の旅人と数名を乗せたバスはゆっくりとターミナルを出発しました。改装中の教会も見えなくなり、心の中のカウントダウンももはや時間刻みになります。45分ほどで、温泉の白い煙がみえてきました。まずは、すぐ近くにあるホテルにチェックインをします。
「昨年もここに泊まったんです」
その間に増築されたらしく、一階建てのホテルは横に広がっていて、まだ新しい匂いのする部屋に案内されました。荷物をおき、さっそくホテルの人の車でブルーラグーンへ向かいます。
「すごい賑わってるな」
ミーヴァトンのそれと違って、あいかわらず多くの観光客であふれています。それでも露天風呂はあまりに広いので、まったく気になりません。マッドと呼ばれる名物の白い泥パックを顔に塗り、端っこのほうでのんびり浸かっていました。
「日本にもあったらいいのに...」
せっかく同じ温泉大国なのだから、日本にもこのような場所があってもいいものです。ブルーラグーンジャパンです。当然、日本の和を感じる温泉も好きですが、それとはまた違ったよさがここにあります。いわゆる温泉の概念を覆すことも大事です。プールのように水着で男女混浴できる温泉。館内にはエステとかおしゃれなカフェやラウンジもあって、岩盤浴やホットヨガ、禁煙のダンスフロアもあったりする。いわば、リラクゼーション施設。近いものでスーパー銭湯のようなものもありますが、いわばそれの北欧バージョン。その鍵を握るのが、水色の温泉です。
「IKEAの隣とかにあったらどうだろう...」
日本人は北欧という言葉に弱いですから。
「もう明日帰るのかぁ...」
もうすぐすべてのプログラムが終了してしまう、そう思うとなかなか腰があがりません。ここからあがるとまたひとつ、ゴールまでのマス目が減ってしまうのです。
「アイスランド語でありがとうってなんて言うんですか?」
帰りの車内で、アイスランド語の挨拶を教えてもらいました。アイスランドの人は、当然のように母国語と英語の2ヶ国語を話します。だからほとんど英語が通じるので、前回は一度もアイスランド語を使うことはありませんでした。
「せめて最後の晩餐は豪華にいこう」
明日の出発がはやいので、まだ夕日が窓から差し込んでいるうちに夕食をとることにしました。プログラムも残りわずかとなったいま、その思いはすべて夕食に向けられます。ここのホテルの食事はとても美味しいと評判で、昨年もそんな印象を持ちました。アイスランド語と英語で書かれたメニューを眺めると、ある文字が目に留まります。
「ラムかぁ...」
アイスランドといったらやはりラムです。
「ラムの○○ソース...」
おいしそうなお肉が頭に浮かびました。いいかんじに骨がついて、こんがり焼けています。そして、最後の晩餐のメニューが決まりそうになったとき、別の映像が頭に浮上してきました。これまで遊んできた羊たち、川辺で地面にお腹をつけていた羊たち、そして道路に倒れていた羊。これまでたくさん見てきた羊たちの表情が頭のなかを巡ります。
「だめだ!今の僕には羊を食べることはできない!」
もはや、僕にとってラムを食べることは、大好きな犬を食べるようなものでした。
「いやぁ、おいしかった」
結局最後の晩餐は、パスタとパンとオレンジジュース。そういえば、海外にいくと必ず体感した和食恋しい病にも最近は悩まされることもなくなりました。部屋に戻ってコーヒーを飲んでいると、お腹いっぱいで眠くなり、寝る前にやろうとしていた荷物の整理は明日の朝に延期になりました。明日は4時半から朝食で、5時半に出発です。
「これですべてのプログラムが終了した...」
目覚ましをセットした男の唇のあいだから、深い息が漏れていきました。そして、その息はそのまま寝息にかわりました。
「電話?!」
目を覚ますと部屋の電話が鳴っています。誰かのかけ間違いだろうか、でもなかなか鳴り止みません。
「もしかして、寝坊?!」
一瞬、そんなことが頭をよぎりました。
「リョウ起きて!まだ寝てるの?!もう出発の時間よ!!」
しかし、時計をみると深夜1時半。どうやら寝坊ではなさそうです。
「もしもし...」
おそるおそる受話器を持ちあげました。すると向こうから、耳を疑うような衝撃的な言葉がでてきました。
1.週刊ふかわ |, 3.NORTHERN LIGHTS |2008年11月23日 09:01