« 第326回「ちょっと一息コーヒーブレイクその1ロックな生き方」 | TOP | 第328回「NORTHERN LIGHTS〜アイスランド一人旅2008〜第一話 ワスレモノ」 »

2008年08月24日

第327回「シリーズ人生に必要な力その11レジ力」

 僕が幼少の頃はまだ、スーパーのレジでも商品ごとに値段を打っていた記憶があります。それがバーコードの出現によってピッとかざせば済むようになり、いまではかざすことすらせず上を通過すればいいだけのレジも珍しくありません。レジは時代とともに進化し、もしかするとおじいちゃんおばあちゃんがそろばんをはじいている駄菓子屋さんからも、いつしかピッピッという音が聞こえてくる日が訪れるのかもしれません。
 以前に比べたら各駅と特急くらいの差があるのに、すっかり特急のスピードに慣れてしまった僕たちは、特に急いでいるわけではないのに、レジでもたもたされるとつい手を貸してしまいたくなるほどじれったくなってしまいます。これだけ機械が進化したのだから誰がやっても同じように思えるのですが、競馬の騎手と同じ様に、担当の店員さんによってお客さんの流れの速度に少なからず差が生じるのです。カゴからカゴへと商品を手際よく扱う光景は、まるでテニスのラリーを見ているかのようで心地よく、それだけリズムが途切れると待ちきれなくなってしまいます。そんな、レジでの手際の良さ、レジを素早く打つ力が今回の人生に必要な力、というわけではありません。今回のレジ力は、素早く打つプロのレジ打ちを見つける力、どのレジが早いかを見極める力なのです。
 どこに並んでも同じだろうと思って最後尾についたものの、途中から進まなくなり、ほかの列の人にどんどん追い越される。見ると、なにやら機械のトラブルがあったらしい。そこでほかに移ろうとしたものの、いま移動したらまた一から並び直しになってしまい、これまでの自分の努力が無駄になってしまう。そんな葛藤をしながら買い物カゴをさげて途方に暮れていたことはないでしょうか。それではせっかくの楽しいお買い物も嫌な気分で店をあとにし、食卓にも影響がでてしまいます。たかが数分の差と思うかもしれませんが、人生というスパンで考えると数年の差に値するといわれています。毎日通うスーパーだからこそ、気持ちよくスムーズにレジを通過したいもの。そのためには、しっかりとしたレジ力を身に付けなければならないのです。
 レジ力は、大きく二つの力で構成されます。まず一つ目は状況認識能力です。
 並んでいる人が少ないからといってそこに並べばいいというほど単純な競技ではありません。一人で大量の食材を購入している者もいれば、カゴを持たずに買い忘れたしょうゆだけを手にしている人もいます。なので、並ぶ際にまずチェックしなければならないことは、ひとつのレジにおける全体の総購入量(グロスパーチェイス)と、並んでいる人の数です。総購入量を人数で割り、これによってでた数値がパーチェイス・パー・パーソン(一人あたりの購入量)になります。これが低ければ低いほどレジを抜けるスピードは速い、ということになります。
 しかし、これだけですべてが決まるわけでは当然ありません。いくらパーチェイス・パー・パーソン(一人あたりの購入量)が少なくても、レジを打つ人(レジスト)がもたもたしていたらどんどん周囲に抜かされてしまいます。機械こそ同じですが、さきほども言いましたが競馬の旗手と同じ様に、操作する人によってそのスピードは大きく異なるのです。研修中と書かれたプレートの人がいくら頑張っても、なかなかパート歴20年の大橋さんに追いつくことは容易ではありません。かといって「研修中」のように「名人」とプレートに書かれているものでもありません。では、いかにしてプロのレジ打ち名人を見つけるのか。その答えは、並んでいる人の表情にあります。
 名人の称号は、プレートではなく、並んでいる人たちの顔に表れるのです。名人に並ぶ人たちはみな満足気な表情をし、逆にそうでない場合は、「ほかのレジにすればよかった」という後悔の表情でいっぱいなのです。つまり、並ぶ人の顔を見れば、どこに名人がいるかわかる、ということなのです。ただ、名人だけに常に行列ができることが多く、あくまでパーチェイス・パー・パーソン(一人あたりの購入量)と照らし合わせながら判断しなければなりません。カゴの中身と、並ぶ客の表情、この二つのチェックを怠ってはいけないのです。
 余談ですが、なぜか異様に空いているレジをたまに見かけることがありますが、あまりオススメはしません。そこはおそらくなんらかの理由があるから空いているわけで、いわゆるいわく付き物件である可能性が高いのです。その場所で自殺した人がいた、そのレジで殺人事件があったなど。なので、並ぶ前に一度、店員に聞いたほうがいいかもしれません。
 もう一つの力は、危険予測能力です。どんなときも、近い将来起こりうる危険を意識しておかなければ大惨事になりかねません。
 レジに潜む危険とはいくつかありますが、多くの危険は「領収書おねがいします」といった、イレギュラーの事態です。最近は、簡単に領収書が出力される機械が増えましたが、それでも「お宛名は?」「大阪府の府に...」「えっとこうでしたっけ?」「いや、そうじゃなくて...」というやりとりによって、突然流れがストップするのです。
 また、「ママ、これもお願い!」と突然子供が飛び出してくることもあります。これによって、「お菓子はだめでしょ!戻してきなさい!」「やだ!これだけ!」と、プチ親子喧嘩がはじまることもあります。
 しかし、これらの危険を予測することはなかなか困難です。領収書は顔に出ませんし、カゴの中身から「これは領収書を要求するな」と推測しかねます。また、「このお母さん、さっきまで子供といたぞ」と覚えておくのも容易ではないのです。なので、大事なのは、常に危険が潜んでいることを意識することなのです。「領収書を要求しないだろう」「子供が飛び出してこないだろう」という「だろう並び」ではなく、「要求するかもしれない」「飛び出してくるかもしれない」という「かもしれない並び」が危険の早期発見、迅速な対応につながるのです。
 加えて、レジは団体競技である、ということも忘れないでください。例えば、なかなかバーコードを読み取らず手動で入力しようとしたものの値段がわからず手間取っている、そんな事故のときは、「もう、やめちゃえば?」とさりげなくつぶやくことで買おうとした人を迅速に辞退に追い込むこともできますし、「はやくしてよ」とプレッシャーをかけることも可能ですが、同じ列の人はある意味チームメイトです。その間に「私たちで挽回しましょう!」とチーム内で結束を固め、カゴの中の商品をすべてバーコード面を上にして待機するくらいの気持ちがあれば、思わぬアクシデントにも冷静に対処できるのです。
 最後に、ラッキーレジというのをきいたことはありますでしょうか。あまりの混雑に、「こちらのレジもどうぞ!」と、急遽レジの数を増設することを言います。これによって、最後尾だった人が一気にトップに躍り出ることがあるのですが、このラッキーレジに関しても、危険予測能力で「あ、あの店員さんレジを開設するかもしれない」と予測していれば、新しく開設されたそのレジはあなたのものになります。ここでも「かもしれない並び」が重要になってくるのです。
 以上のことをマスターすれば、レジを見極める目、アナタはもう立派なレジ眼の持ち主と呼ぶことができます。人は生まれながらにしてレジ眼を持っているといわれていますが、それを使いこなせるかどうかはその後の訓練次第で、放っておいてはただ退化するだけなのです。レジ眼を鍛えるために、競馬・競艇、スポーツ選手やアイドルのスカウトなどをして、日々見極める力をトレーニングすることをおすすめします。
 レジを見極める力、レジ力を持っていれば、どんなに買い物客であふれていても心配する必要はありません。どんなに渋滞していても、自然とあなたが並んだ列は一番早くレジを抜け、スムーズに会計を済ませることができるでしょう。そこで勝ち取った時間こそが、あなたの日常のゆとりにつながります。だからこそ、人生にはレジ力が必要なのです。

P.S.:
 本日24日、15時より名古屋・星野書店近鉄パッセ店にて「ジャパニーズ・スタンダード」のサイン会を行います。最寄りの方は是非いらしてください。

1.週刊ふかわ |2008年08月24日 09:30