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2008年07月20日

第324回「シリーズ人生に必要な力その9締め切り力」

 これまでいろいろな力を紹介してきましたが、今回は少しタイプが異なります。というのも、これまでのそれは自分の中にある力でしたが、今回はそうではなく、自分の外にある力です。岩を持ち上げるテコのような、外部から働きかける力なのです。
 一般的に、「締め切り」という言葉はあまりいい印象を受けません。原稿の締め切り、応募の締め切り、どの「締め切り」もどこか自分を追い込むような、窮屈な印象を与えます。「私、締め切り大好き!」と言っている人も見かけたことありません。しかし、僕たちは気付かないといけないのです。この「締め切り」のおかげでこれまでやってこれたということを。この「締め切り」があるからこそ、数々の偉業を成し遂げたということを。
 たとえば夏休みの宿題にしても、人によっては7月のうちにすべて終わらせられる人もいますが、ほとんどの人が最後の3日で全部の日記を書いたり、3日間で40日分の朝顔の観察を書くものです。それこそまさに、新学期がはじまる9月1日という締め切りがあるからこそ、物凄い集中力を発揮できたわけで、これぞまさに「締め切り力」のおかげなのです。
 もし夏休みの宿題に締め切りがなかったらどうなっていたでしょう。提出日は特に決まってなく、「原則として9月1日ですが、最悪年末でもいいです」くらいの宿題だとしたら。おそらくほとんどの生徒が年末までなにもやらないでしょう。遊びすぎてDS焼けした子供たちは、結局宿題に一切手をつけずに新学期を迎えることになるでしょう。締め切りないと、力を発揮できないのです。そういう意味で夏休みというのは、なによりこの「締め切り力」を実感することが一番大切なのです。そのためにあるといっても過言ではありません。毎年締め切りの力を実感することによって、大人になってからの「締め切りライフ」につながるのです。
 胸を張っていうことではありませんが、このシリーズをここで発表するようになったのもまさにこの「締め切り力」を利用するためです。もともと自分の中でなんとなく書き溜めたおいたものの、どれも未完成ばかりで、「このままでは一生未完成に終わるな」と判断し、毎週配信という締め切りの力を借りることを決意したのです。すると、どうでしょう。パソコンの中でずっと中途半端だった原稿が、毎週こうして一つ一つがカタチになっているではありませんか。夏休みの最期の3日で発揮する集中力を僕は、毎週土曜日の朝に発揮しているのです。これこそ、小学校の夏休みに味わったあの実感が効いてきているのです。この週刊ふかわこそ、締め切り力の賜物なのです。(だから、僕はいわゆるブログには向いていないのでしょう。)
 ただひとつ気をつけなくてはならないことがあります。というのも皮肉なことに、もっとも「締め切り力」が必要とされる大人には肝心の「締め切り」があまりないのです。いや、あるにはあるのですが、どこか曖昧でぼやけていたり、締め切りを迫られる機会が減少してしまうのです。それは決して、やるべきことがなくなったのではありません。単に学校のように、誰かが「締め切り」を与えてくれなくなっただけなのです。だから大人になったら自分で責任をもって締め切りをつくる、「締め切りを設定する力」が必要になるのです。
 それは決して難しいことではありません。自分の能力を把握した上でそれに見合った締め切りを設定するのです。うまくそれが釣り合えば自分の能力を最大限に活かすことができますし、無理や見栄が生じては効果は生まれません。締め切りは未来の担保であって、締め切りを設定することは、未来の自分との約束なのです。
 ただ、ここで勘違いしてはいけないのですが、「締め切り力」を利用したところで、自分がラクになるわけではない、といことです。あくまでテコの原理によって自分の能力を引き出されるわけで、ある程度のエネルギーをかけなければ岩は動いてくれません。また、ときに痛みや疲労は伴います。しかしそれは、達成感という心地よい疲労なのです。
 どうもやる気が起きないとき、なかなか前に進めないとき、この「締め切り力」を利用すれば、おのずと前に進んでいくものです。締め切りを意識したとき、人間は最大限の能力を発揮するのです。締め切りがあるおかげで、本当に必要なものに気付くからかもしれません。だから人生にも締め切りがあるのです。締め切りのない人生なんて、味気なくてなんの魅力もありません。締め切りがあるからこそ、人は精一杯生きるのです。そういう意味で人間は、最も締め切り力を利用した生き物なのです。人生の締め切りは、夏休みの宿題のようにいつなのかはわかりません。でも、8月の最後の週に少年が物凄い力を発揮するように、人生の締め切りを意識したとき人は、人としての真の力を発揮し、本当に大切なもの、生きることの素晴らしさに気付くのかもしれません。
 締め切り、それは未来の自分との約束です。約束を果たすためにも、「締め切り力」を利用して、日々、精一杯生きていくしかないのです。

P.S.:
本日15時より、吉祥寺ブックス・ルーエにて「ジャパニーズ・スタンダード」サイン会を行います。
 また、8月24日15時〜名古屋星野書店・近鉄パッセ店でのサイン会も決定しました。お近くの方はぜひ来てください。

1.週刊ふかわ |2008年07月20日 09:04