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2008年06月15日

第319回「シリーズ人生に必要な力その4ポイントカード離れ力」

 世界中どこへいっても家族を大切にしないところはないでしょう。ただ、ひとえに大切にするといっても、その仕方は様々かもしれません。たとえば欧米ではクリスマスなどの長期休暇を家族で過ごしたり、家族同士でハグしたりする習慣があるのに対し、日本ではどちらかというとイベント時は友人や恋人と過ごしたり、家族でハグしたりすることも多くありません。当然それは日本が家族を大切にしていないということではなく、昔からスキンシップというカルチャーがなく、いつも一緒でいることよりもむしろ離れていることの「美」、家族の絆という心のつながりを大切にしているからかもしれません。英語ではあまり馴染みのない「親離れ」や「子離れ」という言葉も、そういった日本人の家族観を象徴しているのでしょう。
 僕自身、それができていると胸を張って言えるわけではないし、将来的に子供ができたら、子離れできる確信もありません。しかし、いつまでも親のすねをかじっていたり子供を過保護にしていては、人間として成長しているとは言い難く、かわいい子には旅をさせよというように、子供は親から、そして親は子から、いつしか離れないといけないのです。一人暮らしという物理的なものではなく、精神的な自立。ただ、人間の成長過程で離れなくてはならないものはこれだけではありません。実はもうひとつあるのです。それは、ポイントカードです。
 かつては僕の財布の中にも何枚かはいっていました。人によってはそれで財布がパンパンという人もいるかもしれません。お店からしてみれば、今後リピーターになってもらうためには欠かせないアイテムで、客側としても買い物をした結果特典がつくのであれば申し分ないのです。つまり、カードを持っていて損はないのです。しかし、僕は以前からそのことに疑問を感じていました。それは、
 「果たして本当にポイントカードは得なのだろうか」
 ということなのです。
 たしかに買い物だけで考えれば、1000円ごとにひとつもらえるスタンプが50個たまったとき、なにももらえないのと1000円がもらえるなら、もらえたほうがいいでしょう。だから、得といえば得です。しかしながら、1000円の得のために費やしたエネルギーのことを考えると、果たしてそれを得と捉えるかは微妙なところなのです。そのことを強く感じるのが、飛行機に乗る際のポイントカード、いわゆるマイレージカードです。僕は、このカードに出会い、ポイントカードに対する考え方が大きく変わりました。
 どんなに急いでいても、どんなに時間がなくても「ちょっとマイルの登録だけさせて!」と、慌ててマイルレコーダーに駆け寄る人がいます。特に目標が決まっているわけではないけれど、なにがあってもマイルの登録は欠かさない。なぜなら、これを万が一忘れると、ものすごく損をした気分になるからです。登録を忘れると、機内のキャビンアテンダントに「マイル登録し忘れたんですけどどうしたらいいですか!」と、泣きそうな顔で話しかけ、事後登録で半券を郵送したりします。ましてやマイレージなんて貯まったところで特典に交換するのを忘れてしまったり、気づいたら期限切れになっていたりと、せっかく苦労してためたマイレージをどぶに捨ててしまうこともあります。そこでまた損をした気分を味わうのです。
 月に一度送付される郵便物にも年内で失効するマイル数が表示されているのですが、その通告を受けることで、どうにか有効にしなくてはという焦燥感に見舞われ、無理に飛行機を利用するなど、日常生活にも支障をきたすようになります。貯めたものを無駄にしたくないという気持ちと、なにかしらで得をしたいという二重の欲求が、僕をマイルレコーダーへと向わせました。そんなある日、僕は気づいたのです。
 「僕がためているのはマイルではない!ストレスだ!」
 結局の所、僕がためているのは、マイルという名のストレスだったのです。ストレスをためるために、わざわざ急いで機械に向かい、わざわざ友人を待たせていたのです。僕がマイレージカードを作ったとき、悲劇は始まっていたのです。
 これと同じ様なことがお店のポイントカードでも起こりうるのです。それを忘れてしまうことでとても損をした気分になったり、貯め始めた以上ポイント増やさなきゃと、ここでもポイントに対するストレスが蓄積するのです。それだけでなく、本当に必要でないものも購入してしまったり、判断力も鈍ってしまいます。だから人生には、ポイントカードに振り回されない力、ポイントカード離れ力が必要なのです。
 一番理想的なのは、ストレスをためずにポイントを増やすことです。なにもしていないのに「え?俺、1000ポイントたまったの?」という風に。ケータイで買い物をするとそのままポイントが加算されるというケースが多くなるでしょう。そうしたら、ポイントカードによるストレスは大きく軽減されるはずです。もしくは、すでに貯まっているポイントカードを道で拾う、というのもストレスをためずに得できる良い例でしょう。ただ、これには相当の人生経験が必要ですが、心の片隅にでも覚えておくといいかもしれません。
 人生を歩む上で、人間が離れなくてはならないものがあります。親離れ、子離れ、そしてポイントカード離れ。この3つが人間の3大離れです。パンパンでもいい、振り回されずに育って欲しい。ポイントカード離れ力は、人生には必要なのです。

1.週刊ふかわ |2008年06月15日 09:34