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2008年06月08日

第318回「シリーズ人生に必要な力その3ジャケ買い力」

 僕がはじめてそれを経験したのはいつ頃でしょう。ビートルズとか特定のアーティストではなく、いわゆるコンピレーションCDを買うようになった頃。ボサ・ノヴァとか、なんとなく日常のBGMとしての音楽を聴き始めた頃。それは、大学生のときだったかもしれません。いい感じの曲がはいっているのではないかとおしゃれなジャケットを手にレジに向かった日、僕ははじめて「ジャケ買い」をしました。
 なんだかよく知らないアーティストばかりでも、ついついそのジャケットのデザインから、きっと音楽もセンスのいい曲なのだろうというポジティブな想像が働き、つい手が伸びてしまう。期待に胸を膨らませながら家に帰り、スピーカーから流れてくるその音に、まるで合格発表を待つかのように、耳を傾ける。ドキドキしながらトラックを進め、僕の場合、その中に一曲でも名曲に出会えれば「ジャケ買い」は成功とみなされます。ほんとに一曲でもあればいいほうで、中には「箸にも棒にも掛からない」ものもあり、見事に二度とケースを開けることなくラックの最下段に雑に収納されるか、部屋のインテリアと化してしまうか、いずれかの運命を辿ることになります。とはいうものの、ラックを見渡してみると、どちらかというと成功したものが多く、わりと「ジャケ買い」の打率は高いほうなのかもしれません。そんな、ジャケットを見て中身を判断する力、これが人生に必要な力なのです。
 ただ、この「ジャケ買い」という行為は音楽のみにあてはまることではありません。ラーメン屋さんの暖簾を見てその味をイメージしたり、AVのパーケージを見てクオリティーの高さ・内容の濃さを想像したりと、僕たちは無意識に「ジャケ買い」をしているのです。だから「ジャケ買い力」を高めることは、私たちの人生においてとても重要なことで、いってみれば、人生は「ジャケ買い」で決まる、といっても過言ではありません。それだけ様々な局面で求められるのです。ではこれらのほかにどういった場面で「ジャケ買い力」が試されるのでしょうか。
 急に映画が見たくなってツタヤを訪れ、ありきたりの作品でなくほんのちょっと感動するくらいの映画が観たいとき。特に有名でないDVDを借りる際、裏面の文字情報で本当に面白いのかどうかを判断しなくてはなりません。監督も俳優もタイトルもすべて無名でも、もしかしたら「知られざる名作」に出会うこともあります。飲み会のときの女の子選びもある意味ではジャケ買いです。飲みの席という「ジャケット」で実際どういう人間であるかを想像しなくてはなりません。それこそ女性はメイクという強力なスポンサーがいます。飲み会でなにを求めるかにもよりますが、男性はとくにアルコールに負けない「ジャケ買い力」を持っていないと、のちのち痛い目に遭ってしまうのです。はじめての病院にかかる際も、はじめての美容院に行く際も「ジャケ買い力」は必要です。旅館を予約するときも、新人グラビアアイドルや若手芸人が長持ちするかどうかを見極めることも、ひとつのジャケ買いです。もはや、「ジャケ買い」をせずに人生を歩むことはできないのです。
 では、ジャケ買いに成功するにはどうしたらいいのでしょう。答えは恐ろしいほど簡単です。それは失敗しないことです。
 ジャケ買いというのは、特別大きななにかを成し遂げることではありません。失敗しないこと、ミスのないことが大成功なのです。たかが失敗といっても、CDひとつ失敗しようと数千円の痛手ですが、病院などでジャケ買いに失敗してしまえば取り返しのつかないことにもなります。ジャケ買いを笑うものはジャケ買いに泣くのです。
 では、失敗しないためにはどうしたらいいのか。それは、表面上の甘い言葉に踊らされないようにすること。「羊頭狗肉」という言葉があるように、看板にだまされてはいけないのです。昔の人のいうことは真実です。ラーメン屋さんの「おいしいよ!」という看板の言葉をそのまま鵜呑みにして「え、ほんとに?」とすぐさま暖簾をくぐる人はいません。「おいしいよ」と謳わないほうが味に自信があるのだという背景を想像すると思います。だからといって、頑固な雰囲気だけの「ジャケ負け」しているラーメン屋さんも少なくありません。そういう意味では、現代社会は非常にジャケ買いが困難な時代になってきているということなのです。だからこそ、ジャケットという表面でなく、その奥に潜む真実をいかに汲み取れるかが常に求められるのです。もしかするとそれは、どこか匂う、といった人間の鼻で感じる部分、嗅覚のようなものなのかもしれません。
 実際にどうすれば「ジャケ買い力」を高めることができるのでしょう。やはりそれは、経験が一番です。つまり、体で覚えていくしかないのです。失敗は成功のもと。ジャケ買いの成功のためにはある程度の失敗経験が必要なのです。そうしているうちに、自然とジャケ買い力は高まるでしょう。
 僕たちの日常生活でそれは欠かせないものであり、ないよりあるにこしたことはありません。そしてなにより、僕たちの顔もいってみれば、ジャケットのようなものです。このジャケットに集約された顔から、その人となりを判断することも人生には必要です。それと同時に、ジャケ負けしない人間でいたいものです。

P.S.
先週は風邪をひいてしまい、文章を書く集中力がありませんでした。

1.週刊ふかわ |2008年06月08日 09:31