« 第315回「白い石の少年」 | TOP | 第317回「シリーズ人生に必要な力その2旅力」 »

2008年05月18日

第316回「シリーズ人生に必要な力その1ごはんとおかずのバランス力」

 ときに人生は、旅に例えられることがあります。いまでこそ旅というと快適さが当たり前ですが、昔の人にとってのそれは山あり谷ありの苦難の連続で、それこそまさに人生の縮図のように思えたのかもしれません。
 学生の頃、遠足や修学旅行などの際、きまって「旅のしおり」なるものを渡されたものでした。そこには、旅の工程や注意事項、用意するものが記され、それを参考に、わくわくしながらリュックに荷物を詰めたものでした。大人になってからも、海外に行く際はやはりガイドブックがないとどうしていいかわかりません。なにも知らずに海外にいくのも楽しいでしょうが、事故のない旅にするにはやはり「しおり」や「ガイドブック」のような、ある程度役に立つ情報が必要なのでしょう。
 では、「人生」という旅にはガイドブックはあるのでしょうか。もしかすると、明確なそれはまだ存在していないかもしれません。もし、「人生」という旅のしおりを作成したならそれはどのようになるのでしょう。なにをリュックに詰めたらいいのでしょうか。この「旅」に必要な物を挙げだしたらきりがありません。無駄なものはない、という考えもできます。しかし、「必要な力」は挙げることができるのではないでしょうか。人生という長い旅を歩む上で求められる力は、人生を長年経験した者のみがわかることです。それらを提示することによって、これから歩き続ける人たちの旅をより有意義にすることができるのです。このシリーズは、そういった目的で作成されました。今後、さまざまな「力」が登場しますが、今回挙げる「人生に必要な力」は、「ごはんとおかずのバランス力」です。
 読んで字のごとく、ごはんとおかずのバランスのことをいいます。ただ、栄養面でのバランスではありません。もちろんそれも大事なことですが、ここでいうのは空間的、物理的にバランスよく食べる力です。もっともその力が問われるのはやはりカレーライスでしょう。
 最初からルーがライスにかかっているものにしても、そうでないタイプにしても、このルーとライスをバランスよく食べられるかどうかが、人生を歩む上で非常に重要になってきます。ルーが余ったり、ライスだけが残るような食べ方をしていては、幸福な人生は遠のいてしまいます。ライスとルーのバランスを保ちながら最後の一口をおいしく無事に終えらる力こそが人生には必要なのです。まさに、カレーライスを制する者が人生を制すると言っても過言ではありません。
 では、どのようにしてそのバランス力を培うのか。そのためには、現状把握と未来予測のふたつの要素が必要になってきます。常にライスに対するルーの量を認識しておくこと。だからといって、ルーが先になくなってしまうんじゃないかと不安に駆られ、びくびくしながらちびちびライスにのせているようでは、器の小さな人間に思われてしまいます。親戚にそんなおじさんがいたら嫌です。一方で、ただその場の快楽だけを追求した結果、半分くらいルーなしでカレーを食べて終わるようではあまりに悲しいです。親戚にこんなおばさんがいても嫌です。常に、いまどれくらい残っているか、残りがこれくらいだと少し比率を変えたほうがいいかもと、常に未来を予測しながら、ペース配分をしなくてはならないのです。それもカレーがあたたかいうちに。
 これができてはじめて、満足度の高い「カレーライス」に辿りつくことができるのです。だから、人によっては「カレーライスはスポーツだ」という者もいます。たしかに汗もかくし、スポーツ的要素は多少あるかもしれませんが、個人的には「カレーライスはスポーツではない」と思っています。スポーツでなく、むしろ会社です。あなたは「カレーライスコーポレーション」の社長で、駅前のカレー屋さんはあなたの会社なのです。食券は持ち株で、カウンターに取り付けられた丸イスこそが社長のイスなのです。カウンター越しにいるおばちゃんは秘書です。目の前に出されたカレーライスが自分のために働いてくれるかはあなたしだい。ここでうまく采配することをあなたは期待されているのです。場合によっては、福神漬けやらっきょうが加わる場合もあります。でもそんなときも焦らずに、現状把握と未来予測をしっかりしてのぞめば、決して失敗はしないはずです。たとえカツやコロッケがのっていたとしても。
 スポーツにせよ会社にせよ、真剣にカレーライスと向き合うことが大切なのです。そこで培ったごはんとおかずのバランス力さえあれば、幕の内弁当やとんかつ定食、ハンバーグランチ、今後どういった定食や膳に対しても物怖じすることはなくなります。そして食事だけでなく、「勉強と遊びのバランス」や「仕事と趣味のバランス」、「奥さんと愛人バランス」など、人生のあらゆる局面でその力を発揮できることでしょう。「ごはんとおかずのバランス力」、この力が人生には必要なのです。

1.週刊ふかわ |2008年05月18日 08:52