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2008年04月13日
第312回「アースデイはういろうの味」
4月22日は何の日かご存知でしょうか。そうです、タイトルのとおりアースデイです。地球に感謝し、美しい地球を守る意識を共有する日。1970年にアメリカでうまれたアースデイは、現在世界184の国と地域、約5000ケ所で行われ、国境・民族・信条・政党・宗派を越えて多くの市民が参加する、世界最大の環境フェスティバルに成長しました。個人的には、いっそ日本はアースデイを休日にして、ゴールデンウィークとくっつけて、アースウィークにしてしまえばいいのにと思いますが。
テレビでも新聞でも、なにかと地球環境問題が取り沙汰され、地球を大切にするということがもはや世界共通の価値観になったいま、この日本においても、アースデイに限らず、様々な場所で環境イベントが開かれるようになりました。このアースデイにおいても各地で開催される中、22日に先立って、19日20日の土日に、名古屋でアースデイ愛知が開催されます。学生さんが主となって運営されるこのイベントは、今回「地球と踊る」というコンセプトのもと、いくつかのステージでトークやライブが展開されます。
「ダンスミュージックと環境問題を掛け合わしたらロケットマンしかいないんです!」
この言葉を出されてしまったら、どうにも断るわけにはいきません。19日の土曜日、一番大きなステージで日本一地球のことを考えているDJ、ロケットマンが登場することになりました。
「ここら辺にしようか」
歩き疲れたふたりは、テレビ塔が見える公園のベンチに座りました。
僕と彼女が出会ったのは、もう10年以上も前のこと。たまたま仕事で名古屋を訪れたときです。当時はまだケータイもメールもない時代。かろうじてポケベルがあったかもしれません。時折連絡をとりあっているうちにお互い惹かれあったのか、それから一ヶ月とたたないうちに、また名古屋で会うことになりました。いわゆる遠距離恋愛が始まろうとしていたのです。
「そうだ、今日ね、渡したいものがあるの」
しばらく話をしたあと、彼女は思い出したかのように言いました。
「渡したいもの?」
「うん…」
そう言って、彼女は鞄の中をごそごそやると、中から大きな包みを取り出しました。
「なに?」
「好きって言ってたから、作ってきたの。」
手渡されると、結構な重さがありました。
「なんだろ?食べ物?」
袋から、プラスチックの容器がでてきました。
「どうしよう、なんか恥ずかしくなってきた…」
フタを開けると、中には容器いっぱいにゼリーのようなものがぷるぷると揺れています。
「え、もしかして?」
「うん、作ったの」
「全部?」
「そう。ちょっと多かったかな」
それは、容器いっぱいに広がる真っ白なういろうでした。
「帰りの新幹線で食べて。多かったら捨てちゃっていいから」
「ううん、全部たべるよ、ありがとう」
辺りはいつのまにか暗くなり、ういろうの表面にテレビ塔の灯りが反射していました。
「そろそろ、行かなきゃ」
「そっか、もう時間だね」
そして僕は、新幹線の中で、大きなういろうをひとり、食べて帰りました。
それから何度か会ったものの、距離に負けてしまったのか、遠距離恋愛といえるまでもなく、連絡が途絶えてしまいました。あの頃は若かったから。
いまでも仕事で名古屋を訪れることはありますが、時折彼女が頭をかすめます。ただ、いま思い出せることは、とにかく大きなういろうを作ってきてくれたこと。冬にマフラーを編んできてくれたこと。あとはスピッツをよく聴いていたということくらい。彼女がいまどこでなにをしているのかもわからないし、知るすべもありません。あれから十数年。あのとき二人で話した公園でDJをするのは、ちょっとだけ胸がキュンとするのです。
P.S.:
19日の19時頃の出演予定です。
1.週刊ふかわ |2008年04月13日 08:32