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2008年03月16日

第309回「考えなくていいことをわざわざ考えてみようシリーズその2人はなぜ知ろうとするのか(後編)」

 とはいえ、本当に「知りたい欲求」なんてあるのだろうか、やがて僕はその疑問にぶちあたるので覚悟しておいてください。
 「知りたい欲求」はデヴィッド・リンチの映画だけでなく、様々な所で利用されています。身近な所で言うと、最近のクイズ番組過多な状況はまさに、人間の「知りたい欲求」の賜物といえるでしょう。知ることへの欲望がなければこんなにも存在しないのです。だから「知りたい欲求」というのは、もしかすると人間の三大欲求である「食欲」「睡眠欲」そして「性欲」と同じ様な、本能的に備わっているものなのかもしれません。
 たとえば「性欲」というのがありますが、普段からそれに振り回されている人はいません(たまにいますが)。でも、目の前を露出度の高いセクシーな女性にウロウロされたらそれまで眠っていた「性欲」が目覚め、欲求不満状態になります。「性欲」が「空腹」になるのです。これを「知りたい欲求」に置き換えてみます。
 「知りたい欲求」が眠りから覚めるのはどんなときでしょうか。それは、「わからないもの」に遭遇したときです。人は、「わからないもの」に直面すると、知りたい欲求が目覚め、それをどうにか理解しようとします。その代表的な例が「クイズ」です。クイズを出題するというのは、「わからないもの」を提示することなのです。そうすることで、「知りたい欲求」を刺激し、引き付けます。しかも、「あなたがわからないことを、私は知っていますよ」という、生物としてものすごく劣等感を感じさせるシステムになっているのです。
 「では問題です。急がば回れ、という諺がありますが、これは日本のある場所でうまれたと言われています。さて、それはどこでしょう」
 突然こんなクイズが出題されるとします。するとどうでしょう。普段はそんなこと気にしていないのに、ほんの少しだけ知りたくなってしまいます。わからないことを解明したいという欲求と、他者よりも劣っていたくないというふたつの欲望がかけ合わさって、答えが欲しくてたまらなくなるのです。この空腹な状態のときに、「答え」というごちそうを与えられるのです。そうすると人は満足感と安心感が得られるわけです。これに人は「面白い」と感じるのです(面白いの定義はおいておきます)。だからクイズ番組は、その方法とデザートの違いはありますが、基本的には、「空腹」にしては「満腹」にするという、「知りたい欲求をくすぐり続ける番組」なのです。
 少し本線から逸れるかもしれませんが、最近の人間の行動に完全に組み込まれた「検索」という行為もまさに「知りたい欲求」によるものです。数年前まで、ほとんどの人類は検索なんてしていなかったのに、現代社会では、なにをするにしても必ず検索がついてきます。検索をしてから行動するようになったのです。企業は車を買って欲しいからテレビでCMを流します。でも現代の消費者はCMのあと、検索をしてから車を購入します。だから最近のCMは、検索したいと思わせるところまで伝えられればいいケースが多くなりました。「続きはwebで」的な。とはいえ、同じCMを見ても、検索する人としない人とに別れます。それは「自分と関係があるかどうか」の違いによるもので、簡単にいうと、「興味があるかどうか」です。だから、CMはいかに興味を持たせるか、そして自分と関係があると思わせるかが重要なのです。それがないと、「知りたい欲求」は動いてくれないのです。クイズにしても同様のことが言えますが。
 ただ、予告していた通り、ここへきて僕はある疑問にぶちあたります。それは、果たして本当に知りたい欲求というのは存在するのだろうか、ということです。前述の三大欲求に関しては生き物として必然的な欲求と考えられます。生きるため、そして人類が生存し続けるために欠かせないものです。しかし、「知りたい欲求」というのは、生命の生存には直接は関係ないように思われます。別に知らなくても、ある程度の情報さえあれば、わざわざ情報を入手しなくても生きてはいけるはずなのです。じゃぁ人間にとって「知る」とはなんなのでしょう。「知りたい」の水面下にはなにが起きているのでしょう。
 というのも、この世には、「知りたくない人間」も存在します。なにを隠そう、僕自身がそうなのです。「知る」についてはこんなにも知りたがっている僕も、知りたくないときがあるのです。別に、結果が怖くて、ということではありません。これ以上、情報がはいってくるのを食い止めたい、という状態です。その思いは海外にいくと顕著になります。 
 旅行先でケータイがつながらないと、最初は気になってしまうものの、次第に慣れてきて、むしろケータイからの情報が遮断されることによって、どこか体が軽くなった気分になります。体内にはいってくる情報量が少なくなったときに、ものすごく開放的な気分を味わえるのです。普段の生活が、いかに情報過多であるか気づくのです。
 「情報」というとそこに害はないように思われますが、実は、いくら有益であっても、情報が過多になっていては、有益どころか人間にはストレスを与えるものなのです。つまり、いつでもどこでも情報がはいり、情報に満たされていることは、必ずしもいいことではないのです。実は、これはとても深刻な問題だと思うのです。
 情報にあふれる社会で、大人たちはまだいいものの、子どもたちはストレスのはけぐちも知らずに生活しています。無意識に膨大な情報というストレスを抱えていては、凶悪犯罪も必然と考えられます。情報にあふれた現代社会は、生きているだけで疲れるものなのです。だから、いまとなっては、情報を得ることよりも、情報を選択したり、遮断することのほうが、もはや難しいわけです。情報のない生活のほうが、むしろ贅沢な生活とも考えられるのです。
 情報のない世界、たとえばあなたがもしも1ヶ月無人島で暮らしたらどのようになるでしょう。おそらく最初はいろんなことが気になるはずです。ホームシックにもなるでしょう。でも次第に心が潤ってくるはずです。情報と言うストレスから開放され、心に余裕ができるのです。心に余裕ができて、自分にとってなにが大切かがわかるのです。頭の中も整理されるのです。日常の情報過多な生活では、頭の中を整理するまもなく、どんどん情報が増えてしまうから大変なのです。
 だからといって、いまさら無人島で暮らすわけにはいきません。たとえ頭の中が整理されても、食料も不自由だし、人恋しくもなります。なので、無人島に行かないまでも、毎日とめどなくはいってくる情報を調節するのはどうでしょうか。情報の更新を週一のペースにするのです。それだけでも7分の一です。テレビも週に一回、ケータイのメールチェックも週に一回。そんな生活ありえないと思うかも知れませんが、そうやって脳を休めることによって、ストレスもなくなるのです。ここまで脳が疲れている現代、わざわざトレーニングなんて必要ないのです。
 人は、ラクをしたい生き物なのに、なぜ情報に関しては詰めたくなるのでしょうか。こんなに膨大な情報を背負うことは社会で生きていくうえでの義務のようにさえ感じてしまいます。知ることはたしかに大事だけど、なんでもかんでも詰め込む必要はないのです。情報が多ければいいというのは絶対に誤りであることに、人々はまだ気づいていないのです。僕たちに必要なのは、情報を遮断する勇気と、遮断する習慣、そして、必要な情報を選ぶことなのです。
 結局、情報というのは「刺激」なのです。「知りたい」というのは、脳が刺激を求めていることなのです。ではなぜ「刺激」を求めるのでしょうか。それは、「変化」です。人は「変化を求めている」のです。自分自身があらたな自分に変わる事を望んでいるから、刺激という変化を求めてしまうのです。毎年変わる流行は、それを反映しているかもしれません。だから、満たされないのは、「知りたい欲求」というよりも、その根底にある、生物的な「変化に対する欲求」というほうが適切なのかもしれません。
 ではなぜ僕は、刺激を求めないのか、変化を望まないのか。変化を求めないというと誤解を招きそうですが、もしかすると、考えすぎな体質だから、脳が疲れていて、刺激や変化を望まないのかもしれません。もしくは、音楽による刺激(激しい音楽という意味ではなく)でもう満たされているから、ほかの刺激が不要なのかもしれません。
 単純に「知る」ということだけでよくもここまで考えたなぁと自分でも思いますが、「与えられて知ること」ことと、「追求して知ること」とは、根本的に違う気がします。そして、「知る」ということに関して僕の考えが正しいということでは決してありません。あくまでひとつの考え方であり、予測です。ただひとつ断言できることがあります。それは、人間が不思議な生き物である、ということです。結局行き当たるのはそこなのです。33年生きてきて、33年間人間をやってきて、結局自分自身のことなんてほとんどわかっていないのです。なにがどうなっているのかわからないまま、自分で操縦してきたのです。世界には、こんなにも「人間」でいる人たちはたくさんいるのに、それを理解している人はほとんどいないでしょう。だからこの世には人間の取り扱い説明書は存在しないのです。まぁ、そんなものは必要ないのでしょうが。

P.S.:
考えすぎたので、来週、休みます。ちなみに正解は、琵琶湖です。

1.週刊ふかわ |2008年03月16日 09:21

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