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2007年11月18日
第294回「地球は生きている10〜children of nature〜」
それは、ある映画との出会いでした。もう10年以上前の作品で、当時見たときは、なんとなく綺麗で悲しい映画だなぁくらいしか感じられなかったのだけど、大人になってあらためて観てみると、以前は気付くことがなかったそのおそろしいほど核心に迫るストーリーに、ぐいぐい引き込まれてしまったのです。
アイスランドを舞台としたその映画は、「春にして君を想う」という映画です。フリドリック・トール・フリドリクソンというダジャレみたいな監督の、1991年の作品です。ただこの「春にして君を想う」というのは邦題で、この作品には原題がありました。以前見たときはその邦題の陰に隠れて気付かなかったのですが、それを目にしたときに、深い霧のあとの快晴のように、世界を覆う薄い膜みたいなものがつるっと剥がれるような感覚になりました。それはまさに、いま世界中の人々が意識しなくてはならないことです。「children of nature」、これこそ僕たち人間が絶対に忘れてはならないことなのです。
僕たちはいうまでもなく、母親の体から生まれてきました。でも、イメージをそこで切り離してはいけません。もっと視野を広くもって眺めるのです、人類というものを。僕たちが生きていくためには、いろんなものを食べて栄養をとらなければなりません。いろんな生命を体の中に摂取してるから生きていけるのです。つまり、いろんな生命を犠牲にして、僕たちは生きているのです。ゆえに、人間は決して、人間だけでは生きていけません。ひとりでは生きていけないのです。物理的には切り離されていても、生きるうえでほかの生命と切り離すことはできないのです。すべてはつながっているのです。
時折「母なる自然」「母なる大地」などという言葉を耳にしますが、自然が母であると同時に、僕たち人間は自然の一部であることを意識しなくてはなりません。えてして人間対自然という構図をイメージしてしまいがちですが、自然という大きな世界の中で人間はその一部分を担っているにすぎず、対峙するものではないのです。だから自然を破壊することは、自分自身を破壊するようなもので、アイスランドの大地も、フィンランドの森や湖も、僕たちとつながっているのです。
そしてなにより、僕たちは大自然に囲まれるとなんだかとても落ち着きます。海を眺めていると心が和みます。僕たちが自然に囲まれて安心するのは、僕たちが自然の中から生まれてきた、自然の子供たちだからなのです。なのに僕たちは、そのことに気付かずにいたのです。いや、気付かないフリをしていたのです。
青森の六ヶ所村で稼動を始めたプルトニウム再処理工場は、万が一のことがあったら日本列島を、場合によっては地球をも壊滅させる威力を持っています。うまく稼動させたとしても、核廃棄物が沖合いの海に流されることは避けられません。海に流せば必ず生態系が狂います。すでにイギリスではそういった事例が見られています。いずれにせよ、そんな不安と隣りあわせで生活している人たちがたくさんいます。どうして唯一の被爆国である日本が、わざわざ列島に原子力発電所を54箇所も設置し、さらにはその数百倍もの威力を持った再処理工場を作るのでしょう。当然日本だけではなく、世界のいたるところで原子力発電所は増え続けています。原子力発電所は果たして正解なのでしょうか。これが本来あるべき姿なのでしょうか。そこまでしないと人間は暮らせないでしょうか。地球上に暮らすって、そんなに大変なことなのでしょうか。どうしてもっと早く、国民に教えてくれなかったのでしょうか。
節電を訴える会社も、オール電化を進める会社も同じです。くさいものにフタをするように、真実を国民に教えてくれません。でも今回フタの下に眠るものは、臭いどころの騒ぎではありません。何百年と熱を持つ史上最悪の燃料です。それが日本中をトラックで運ぶようになるのです。これだけ重要なことなのに、テレビでは扱いません。扱うことができないのです。
ちなみに、水と地熱が豊富なアイスランドでは、水力発電と地熱発電がほとんどで、原子力はもちろん、いまや火力発電には一切頼っていません。自然の力を利用し、クリーンエネルギーだけで電力をまかなっているのです。旅をしていると時々地熱を利用した発電所を見かけますが、そこから噴き上がる煙はまさに自然、そして地球を守ろうとする心の現われのように見えます。
だからといって、日本もアイスランドと同じようにしようということではありません。風土も人口も違います。それでも、意識を持つことはできるはずです。意識することはお金も場所もとりません。国民全体の意識が高まれば、日本独自のエネルギー供給を見出せるはずなのです。地球を滅ぼす危険性をもつ施設を稼動させなければ生活できない国になってしまったのは、その意識が欠如していたからなのです。
自然の中で生きるって、そんなにも難しいことなのでしょうか。僕は、そんなことはない気がします。うまく欲望をコントロールさえすれば、自然を破壊せずに済むはずなのです。お金を儲けるために頭をつかうのではなく、自然を守るために知恵をしぼるのです。人間のあるべき姿、人々の生活をもう一度考え直すときなのです。温暖化はつまり、そのきっかけにすぎないのです。決して古代の人のような生活をするのではありません。大事なのは、意識を変えることです。自然の力を信じ、地球が生きていること、そして僕たちが自然から生まれた子供たちであることを意識することが、すべての始まりなのです。「children of nature」この言葉が世界を変えるのです。
1.週刊ふかわ |, 2.地球は生きている |2007年11月18日 09:40
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コメント
地球と日本、日本と地球、それがふかわさんだと思いました。
投稿者: yoizo | 2009年05月17日 20:50
いつもテレビなどで、地球環境問題について熱心に発言されているふかわりょうさんに感動を覚えておりました。
遅まきながらこのブログにたどり着き、大変嬉しく思います!
どうぞよろしくお願い致します。
投稿者: アイリッシュ | 2009年07月31日 00:06