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2007年09月02日
第283回「distance(姪との)」
それは、ある夏の日のことでした。
「いまから家出るから、お昼すぎには着くと思うよ」
「かなり道混んでるから気をつけなさいね。横浜からは5時間かかったから」
昔から母は大袈裟に表現します。
「そんなにかかるんだ。で、今はなにしてるの?」
「省吾くんがバイオパークみたいっていうから、みんなで来てるのよ」
電話の向こうで子供たちの騒ぐ声が聞こえてきました。
仕事のため2日目から合流することになっていた僕は、35度を越える暑さの中、家族の待つ東伊豆は熱川のホテルに向かいました。お盆前ではあるものの、夏休み真っ只中ということもあり、相当の渋滞に巻き込まれることを覚悟の上で。
子供の頃は夏休みに必ず家族5人でおばあちゃんの家に行っていました。当時は高速道路が整備されてなく、途中カーフェリーに乗ったりして、その道中を楽しみにしていました。ちなみに、この帰省中の車の中でいつもオフコースが流れていたわけです。しかし、息子の成長とともに家族5人で旅行する機会も減ってしまいました。やがて3人の息子たちは社会人になり、それぞれが両親と一緒に旅行に行くことはあっても、家族5人揃ってというのはそれこそ十数年ぶりになるかもしれません。久しぶりに家族旅行が開催された現在は、それぞれ所帯持ちで、長男の子供が3人、次男の子供が2人います。だから今回は、合計12人の家族旅行になったわけです。
「ったく大袈裟なんだよな、いつも」
スタバのドライブスルーで購入したグランデサイズのカフェオレを横に、音楽をガンガン流しながら高速道路をひたすら走ると、やがて海が見えてきました。海岸線は思ったよりも渋滞してなく、カフェオレを買い足す必要もなさそうでした。ただ、道は空いているものの、僕の中で、ひとつ気になることがありました。それは、果たして兄の子供たち、つまり僕にとっての甥や姪たちと仲良くできるだろうか、ということです。小さい頃、おばあちゃんの家で母の妹、つまり僕のおばたちと遊んだことがすごく楽しかっただけに、不安になってきたのです。
「あんな風にできるだろうか...」
これまで何度か顔を合わしてことがあるものの、まだ小さすぎて会話という会話をしたことありませんでした。だから、どういう子なのかもわからないし、ましてや何を話したらいいかなんて見当つきませんでした。答えも見つからないまま、車は目的地にたどり着きました。
「あら!もう着いたの!早かったわね!」
部屋に着くと、両親が畳の上で横になっていました。
「言うほど混んでなかったよ。みんなは?」
「省吾くんは海で、優梨香ちゃんはプールで、あとは部屋でお昼寝かしら」
「あ、そう。じゃぁ海いってこようかな」
ホテルの真ん前に、まるで専用ビーチかのように海が広がっていました。ほとんど若者の姿はなく、家族連ればかりが目立ちます。その中に、小学校2年生の省吾くんと妹の舞子ちゃんがいました。ふたりは黙々と砂遊びをしていて、叔父がきたことに気付いていないようでした。僕はホテルのロビーで買った浮き輪に乗り、ずっと海に浮かんでいました。
「ほら、にいにい来たよ」
夕食の時間になると、府川家全員がひとつの部屋に集まりました。義姉のさおりさんが子供たちに言います。
「ほら、優梨香、にいにいきたよ、写真撮ってもらいたいんでしょ」
小学校一年生の彼女は、聞こえてないのか照れているのか、遊びに夢中になって反応しません。甥や姪たちは年が近いからクラスメイトのように仲良く、そこに30オーバーのおじさんが入り込む隙はありませんでした。
「あとで写真とってもらいなさいね...にいにいいつ来るのってきいてたのよ」
走り回って僕の横を通り過ぎる彼女たちに、なんて声を掛けたらいいのかわからずにいました。姪や甥とのdistanceがそこにありました。
「トランプでも持ってくればよかった...」
遊び道具なしで彼女たちとの距離を縮めることが困難な気がしました。
「じゃぁみんなでお散歩しましょうか」
夕食を終え、家族全員でホテルをでると、海から心地よい風が流れてきます。風にうたれながら砂浜を散歩していると、続々とほかの家族も砂浜に降りてきました。
「花火は昨日やったからいいでしょ」
周囲の家族連れがやっている花火が、砂遊びをしている子供たちを照らしていました。
結局、姪たちとのdistanceを縮められないまま、朝を迎えました。その日も猛暑が予想されるほど、朝から太陽がぎらぎらと輝いています。僕は、まだ人の少ない海で、浮き輪に乗ってぼんやりと空を眺めていました。
「あれ、みんなは?」
海からあがり、集合時間にロビーに戻ると、両親だけがソファに座っていました。
「省吾くんがオルゴール見たいっていうからみんな先にいって見てるわ」
「そうなんだ」
「もう少ししたら出発して、合流したらみんなでお昼たべましょう。きっと省吾くんのことだから1時間くらいは見てるでしょうから」
兄の家族は先にチェックアウトを済ませ、ホテルから車で20分くらいのところにあるオルゴール記念館にいっていました。ちなみに省吾くんはなんにでも好奇心旺盛で、父のバイオリンに影響を受け、3歳でバイオリンを始めたほどです。
「あれ、省吾くんは?」
オルゴール記念館に迎えに行くと、ちょうど兄たちが見学を終えて出てきました。ただ一人見当たりません。省吾くんの強い好奇心は、ほかの11人を20分ほど待たせました。
「じゃぁ行きましょうか」
ようやく全員が揃い、それぞれの車で昼食のレストランに向かうことになりました。僕もひとり車に乗ろうとした、そのときです。
「にいにい車のせて」
女の子の声がしました。
「車のせて」
振り返ると、姪の優梨香ちゃんと、その後ろに省吾くんと妹の舞子ちゃんもいました。
「あ、のる?いいよ、ちょっと待ってね」
反対側にまわってドアを開けると、3人の子供たちが一斉に僕の車に乗り込みました。
「では問題です」
後ろでなぞなぞを出しているのを背中で感じながら、子供ができるとこんな感じなのかなぁと想像しました。
「ねぇ、いまの問題もういっかい教えて」
タイミングを見計らって、子供たちのなぞなぞ大会に参加しました。レストランに着くまでの短い時間ではあったものの、少しだけ、姪とのdistanceが縮まった気がしました。
「やっぱりパエリアで正解だったわね」
海の幸の和食ばかりが続いているからそろそろ違うものにしようという提案が功を奏し、母も満足気でした。家族12人が一つのテーブルを囲んだ、夏の日のことでした。
P.S.:
アルバムページにフィンランド旅行記が。
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1.週刊ふかわ |2007年09月02日 09:30
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