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2007年07月15日

第276回「太陽が沈まない街」

「あっついなぁ…」
 一連の手続きを終え、小さなスーツケースにリュックを背負った男を迎えたのは、まぶしいくらいの太陽でした。夏とは言え北欧、暑いとはいえ北欧、一応してきた防寒対策を後悔させるほどに日差しは強く、すぐにパーカーを脱いでTシャツ一枚になりました。
 一般的に北欧は、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドそしてデンマークの4ヶ国を指し、フィンランドはスカンジナビア半島の右端、スウェーデンの東側に位置します。北欧というと、ヨーロッパの北側なわけだから遠いイメージがあるかもしれませんが、日本からフィンランドはおよそ9時間半、ちなみにパリだとおよそ12時間、実は日本から一番近いヨーロッパなのです。現在は関西からも直行便がでているので、実はとてもカンタンにいける国なのです。
 最近ではIKEAなる大型北欧家具店が日本でも話題になりましたが、その独特な風合いを持つ北欧デザインは世界的に注目されています。実際このヘルシンキ空港も、玄関口にしてはこじんまりとしているものの、やはりどことなく北欧らしい洗練されたデザインを感じさせます。音楽においても、僕のコレクションの中で北欧アーティストのアルバムはその多くを占めています。アバからロイ・クソップにいたるまで、それらの独特なサウンドには北欧らしさが反映されている気がします。だから、音楽にしてもデザインにしても、アートを語る上でもはや北欧は欠かすことのできない存在になっていることは、周知のことでしょう。
「あのバスに乗ればいいかな…」
 僕は、ガイドブックを片手にバスに乗り込みました。海外旅行中は、なにをするにも期待と不安が隣り合わせになっています。バスに揺られながらも、旅をしている期待感と、本当に行きたいところに行ってくれるのだろうかという不安とがほどよく絡みあっています。そんなことを考えているうちに、バスは30分ほどで目的地のヘルシンキ中央駅に到着しました。
 これまでのヨーロッパ旅行で学んだことは、「ホテルは中央駅に近いにこしたことはない」ということです。たいていヨーロッパの主要都市には中央駅と呼ばれる駅がありますが、言うなれば新幹線のとまる新宿駅、みたいなことでしょうか。どこにいくにしてもこの中央駅を通り、かつ街の中心部に位置しているので、のちのちの移動や観光のことを考えると、この中央駅から歩いて移動できるところに拠点を構えておくのが一番都合がいいのです。
 その理論どおり、中央駅から2、3分のホテルでチェックインを済ませた僕は、一休みすることもなくすぐにホテルを出て街を散策することにしました。体がいてもたってもいられなかったのです。すると街中には観光客用の自転車が置いてあって、硬貨をいれればだれでも乗れるシステムになっています(硬貨は乗り終わったら戻ってくる)。僕はさっそくその自転車を借りて、ヘルシンキの街を巡ることにしました。
「平和だなぁ…」
 一言で言うと、そんな印象でした。いたるところにオープンカフェや公園があり、人々はテラスで食事をしたり、芝生でのんびりしたりしています。また、フィンランドの人たちはアイスが好きなようで、かわいらしいアイスクリーム屋さんを多く目にします。若者だけでなくみんながアイスを食べているので、ついついつられて食べてしまうのです。港のマーケット広場には露店が立ち並び、お祭りムードが倍増します。また、日本でも「かもめ食堂」というオールフィンランドロケの映画が公開されましたが、その名のとおり、かもめがたくさんいます。ぼーっとしているとかもめもアイスを食べにやってきます。街はいつも、かもめたちの声で溢れているのです。
 それは日曜日の午後を満喫しているようで、夏を満喫しているようでもあり、人生を楽しんでいるようにも見えました。冬の季節が長い北欧の人たちにとっては、短い夏を存分に楽しもうという気持ちがあるのでしょう。海辺の街ヘルシンキは、のどかでのんびりとした、平和な雰囲気に包まれていました。
 それにしても、なかなか太陽が沈みません。いつまでたっても青い空にさんさんと輝いています。海岸沿いを自転車で走っては途中のアイスやさんで休憩していた僕は、時計を見て驚きました。日本ならもうとっくに日が暮れて暗くなっていいはずの時間なのに、まったくその気配がありません。気配どころか、まるで「まだ帰りたくない」というかのように、彼はなかなか下に降りようとしませんでした。太陽も夏を満喫したいのでしょう。実際、テラスでお酒を飲んでいる人たちを見て、「まったく昼間っから」と思うものの、時間を見れば夜9時だったりするのです。
「さぁ、初日のディナーをどうしようか」
 やはり、異国の地に足を踏み入れたなら、現地の味を堪能するべきです。たとえそれが日本人の口にあわなくっても、それこそが旅の醍醐味ってものです。しかし、どこのレストランやカフェをみても現地の人たちで溢れています。
「まぁ、初日だ。あせることはないさ」
 悩んだ挙句、男は日本でもおなじみのマクドナルドでテイクアウトすることに決めました。部屋でなんとなくテレビを眺めながらのディナー中も、外からは午後の日差しのような光が差し込んでいます。時差ぼけと太陽ボケとの二重ボケで、もうわけがわからなくなりそうでした。結局、夜11時くらいに薄暗くなり始めた頃、旅の疲れでもう眠りにつき、はっと目が覚めたときにはもう太陽は元気に外で遊んでいました。一旦家に荷物を置いて、また出かけてきたという感じです。まるで夜など訪れなかったかのようでした。
 ちなみにこの時期のヘルシンキは23時過ぎに日が暮れて、2時半くらいにまた日が昇りはじめます。だから僕は、この旅行中に一度も夜空を見ませんでした。太陽が沈む前に就寝し、太陽が昇ってから起きていたので、結局ずっと明るかったのです。
「さぁ、今日は周れるだけ周るぞ」
 朝食を済ませた男は、部屋に戻るやリュックを背負い、ホテルを出ました。自分がヒッチハイクをやることになるとは知らずに。

P.S.:
7月16日(月)13時〜名古屋・星野書店近鉄パッセ店にてサイン会あります。
お近くの方はぜひきてください。

コチラに、現段階で決定しているクラブイベントやサイン会などの情報が載っているので、よかったらみてください。

1.週刊ふかわ |2007年07月15日 09:30

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