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2007年07月08日
第275回「DEPARTURE」
「え?第1ターミナルじゃない?!」
あっさりした係りの人の言葉に僕は、耳を疑いました。
「だってこれ見てくださいよ!ここにほら、第1ターミナルって!」
「あ、これは前のだね。第1から第2に移動したんだよ」
「移動?!」
「そう。たしか3月くらいだったと思うけど...」
体中の力が抜け、僕はため息とともに、地面に座り込んでしまいそうでした。
「こ、これが間違ってるなんて...」
旅行会社から事前に渡された冊子を手にしていました。何度見てもそこには、フィンランド航空チェックインカウンターの場所として、成田空港第1ターミナルのところにしっかりと蛍光ペンでマークがされていました。しかもその表紙には大きく、「出発前に必ずお読みください」と書かれていました。羽田にしても成田にしても、空港を利用するときは第1か第2かを確認することは絶対に欠かせません。このミスで飛行機に乗り遅れてしまうことだってあります。だから、ミスター用意周到な僕だけに、自分がどっちのターミナルかを何度も確認して、成田に向かっているのです。「出発前に必ずお読みください」って言われたら、言われたとおりにしてしまうのです。なのになのに、「必ずお読みください」の中に間違った情報が載っているなんて...。
「ちょっとどういうことですか!え?なにがって?第1と第2をまちがえてるんですよ!おたくから頂いた資料には第1ってなってるんですけど、3月で移動になって、もういまは第2なんですよ!気をつけてくださいよ!旅行会社がこんなミスありえないでしょ!数ヶ月フィンランド航空使ってる人いないんですか?最近移動したのならまだしも、3月ですよ!もうこれで乗り遅れでもしたらどうするんですか!」
「はい、申し訳ありません...」
「申し訳ないで済まないんですよ!」
「はい、では、ご迷惑をおかけしましたので、半額返金いたしますので...」
「馬鹿にしないでください!そんなお金が欲しくて言ってるんじゃないんです!」
「いや、でも...」
「僕はただ、今後、同じような悲劇を生まないようにして欲しいだけであって!」
「わかりました...二度とこのようなことがないように肝に銘じますんで...」
「いいんだよ、それにキミのこれまでの仕事はとてもスマートだったし...」
「え?」
「入社してまだまもないんだろ?じゃぁ、これからも頑張って!」
「はい、ありがとうございます!」
瞬時にそんなイメージを描くと、僕は旅行会社に電話をしました。
「なんだよ!まだ開店前かよ!!」
苛立つ僕を、録音テープの無機質な声が待っていました。この温度差にかなりのダメージを受けました。
「まぁ、文句言っててもしょうがない!移動しよう!」
たしかにそうなのです。文句を言えたところで、なにが解決するわけではないのです。
「感情と事実を切り離せって、どこかのラジオパーソナリティーがいつも言ってるな」
強引に、事実から感情をべりっと引き剥がすと、気を取り直して第1と第2のターミナル間を往復するバスに乗り込みました。
「ちくしょー!おぼえてろ!あの旅行会社!」
一度はがしたものの、感情の汚れがまた浮き出てきました。
「ったく、このバスもモタモタしやがって!」
バスは通常通りの運行です。
「ふー、まぁ、結果オーライだ!」
ほんとはこんなこと言いませんが、もし何かをつぶやくのならこうつぶやいたでしょう。チェックインやら税関やら、一通りの関門をクリアした僕は、ようやく一息つくことができました。
「とりあえず、コーヒーでも飲むか」
国内線とちがって、国際線は、搭乗まで結構時間があります。僕にとって、このゆったりとした時間が至福のときなのです。その、空港のラウンジ好きが今回のアルバムのジャケットに反映されていますが、あの現実と非現実のはざまのような空間がすきなのです。
「さぁ、飛行機で一眠りしたら、もうそこは北欧、フィンランドだ」
苦味の利いたエスプレッソを数杯飲んだ僕は、期待に胸を膨らませ、飛行機に乗り込みました。まさか自分がヒッチハイクをやることになるとは知らずに。
P.S.:
コチラに、現段階で決定しているクラブイベントやサイン会などの情報が載っているので、よかったらみてください。
1.週刊ふかわ |2007年07月08日 10:00
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