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2007年06月10日

第271回「考えない世界」

第271回「考えない世界」

 いま、陶芸をはじめようか迷っています。陶芸というと、どこか年配の人の趣味という印象があるし、自分の人生とは一切接点のないものだろうと思っていましたが、ここへきてなんだか無性に引き寄せられはじめたのです。
 といっても、陶器を作りたくなったのではありません。あそこに座ってみたいのです。こんなことを言うと、陶芸をものすごく真剣にやっている方たちから文句をいわれるかもしれませんが、パイロットやレーサーに憧れる子供たちが運転席に座りたがるように、僕は、あのろくろの前で粘土を操縦する陶芸家の座布団に座りたいのです。あの場所に魅力を感じてしまったのです。座布団の上に座る職業というと、落語家さんとか、あと落語家さんとか、まぁ、ちゃんと調べればいろいろあるはずなのに、なぜあの場所かというと、自分の求める世界がありそうな気がしたからなのです。
「もう、そんなに必要ないんだから半分おいていきなさい!」
旅行の前日になるとやたら荷物を詰め込んでカバンをパンパンにしていた少年を見ては、いつも母が注意をしていました。再三の注意にも関わらず少年は、成長とともにその性格に拍車をかけ、大人になったいまでは一泊の旅行で5足の靴下をカバンに詰めてしまうほどの人間になりました。3足目以降が何用の靴下なのかわかりませんが、それくらいはいってないと気が済まないのです。過去に、靴下が足りなくなってすごく困ったという経験があるわけでもありません。もしかすると、受験勉強の副作用だったのかもしれません。いずれにしても、これはちょっとした病なのです。考えすぎ症候群なのです。なにをやっていても、その先その先を気にしてしまい、余計なことばかり考えてしまうのです。一旦原稿のことから離れようと家を出てジョギングしていても、ほかの情報がはいったことで、むしろ発想が膨らんでしまうこともあります。これでは脳が休まらないのです。そればかりか、いつも難しい顔になって周囲から話しかけづらい雰囲気をだしてしまうのです。僕は、なにも考えないで行動できる人に、憧れを抱き始めました。
「別に、向こうに行けばなんとかなるでしょ!」
たいした荷物を持たずに旅行にいけてしまう人を、誰よりも尊敬するようになりました。男性であれば単に尊敬で済むのだけど、それが女性であると、尊敬と好きの感情が混同してしまいます。手ぶらでハワイに行ってきた、なんていわれたら、ハートを撃ちぬかれてしまうわけです。だから最近まで理想の結婚相手は、手ぶらで旅行に行ける人でした。カバンをパンパンにしてしまう人のパートナーはやはり手ぶらがいいだろうということです。でも、いちいちそんなこときけないし、その一側面だけで女性を判断するのもよくないので、これからは自分の荷物を減らす、つまり自分自身がそういう人間にならないとだめだと考えたのです。
「なにも考えず行動したい!手ぶらで旅行にいきたい!」
今後の目標をきかれたら、いまはそのように答えるでしょう。そのたくましさを身につけるために僕は、考えない場所を探しました。僧侶のように滝に打たれたらいいのだろうか、長時間座禅を組めばいいのだろうか。しかしながら、滝は冷たいし、座禅は足がしびれるます。じゃぁ一体どこに考えない場所があるのだろうか、そもそもそんな場所は存在するのだろうか、それでも僕は一生懸命考えました。そんなある日、僕の頭に、ある光景が浮かびました。
「あそこになら、あるかもしれない!」
それがまさに、陶芸でした。僕は、ろくろの前に座って粘土を操っている場所に、考えない世界があるような気がしたのです。誤解されないように言っておきますが、決して陶芸が考えないで作るものだ、ということではありません。ちょっとでも考えたらそれが粘土に歪みをきたしてしまうから、陶芸を追求することは、考えない世界を築きあげることのような気がしたのです。それはある意味、無の境地かもしれません。だから、陶芸をはじめて、考えないことの練習をしようと思ったのです。
「人間は、考える生き物である」
これは誰の言葉だったでしょうか。誰の強制でもないし、自発的に率先してやっているものでもありません。そういう意味では、たしかに人間は、考える生き物なのです。「考える」を意識しはじめるとほんとに迷宮にはいってしまいます。でもその混乱具合が心地よくもあります。考える世界が宇宙なら、考えない世界はきっと、宇宙のその先にあるもっと大きな世界なのでしょう。考えない練習をしたら、その世界が見えてくるのでしょうか。考えない世界はどこにあるか、それを日々考えているのです。

PS:本日、6月10日19時より、新宿タワーレコードでアルバムのインストアイベントを行いますので、お近くの方はぜひ遊びに来てください。

1.週刊ふかわ |2007年06月10日 09:30

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