« 第251回「心の中で乾杯」 | TOP | 第253回「ミッキーのいないディズニーランド〜後編〜」 »

2007年01月14日

第252回「ミッキーのいないディズニーランド〜前編〜」

 30歳になってから恒例にしている、お正月の海外旅行も今回で3回目を迎えることになりました。芸能界の先輩方に相談してみんなが南国を薦めたにもかかわらずフランスに行ったのが2年前のこと。それで味をしめてカウントダウンをウィーンで過ごし、さらにプラハにまで足をのばし黄金の街に魅了されたのが去年でした。そして今回も、いままで我慢していた反動からか、当然のようにお正月に海外に行く気でいたので、11月あたりから心のどこかでドラフト会議が開かれていました。

 流れからすると今回もヨーロッパになりそうだったのだけど、やはりここは地球規模で選択しようと思いました。寒い冬に寒い国にいくことはないじゃないか。やはり寒い冬こそ、あたたかくてのんびりできる国に行こうじゃないか、そう何度も自分に言い聞かせましたが、どうしても気持ちがヨーロッパに向いてしまいました。前世がヨーロッパの人だったんじゃないかと思うほど、勝手に意識が向いてしまうのです。

「お正月にシチリア島にいきたいんですけど・・・」

 ゴッドファーザーや、僕の最愛の映画「ニューシネマパラダイス」のロケ地ともなった、イタリアのつま先にある大きな島、シチリア島。そこに行って、あの名シーンを体で感じたい、そんな気分になったのです。地球の歩き方を筆頭に、あらゆる本やネットで情報をかき集め、お正月は海を見ながらパスタで過ごすのだろうと思っていました。旅行会社にも、印鑑とパスポートを持って予約金も入れ、それまでパスタ禁止を開始しようとしたところでした。

「いや!ちがう!シチリア島じゃない!っていうか、イタリアじゃない!!」

 僕の体内で違和感が急発生しはじめました。あれだけ散々調べたのに、ネットでいろいろ写真も見たのに、それらを知れば知るほど微妙なズレを感じ始めたのです。ほんとはそばが食べたかったのにうどんにしてしまった、みたいな。だから、いまさらキャンセルなんて、と思ったものの、イタリアというパスタの国で、うどん食べたかったのにそば食べちゃったよ、みたいな気分になったらそれこそわけがわからなくなってしまうので、僕は勇気を出して旅行会社にきっぱりと言ったのです。

「あのぉ、先日予約金を入れさせてもらいました府川という者なんですけど・・・すみません・・・ほんと申し訳ないんですけど、やっぱり自分に嘘をつきたくないって言うか、自分に素直でいたいっていうか・・・」

 と、世界一まわりくどいスタイルで、キャンセルをいれたのです。

「そうなんだよ、なんかイタリアじゃないんだよ!ベルギーなんだよ!」

 なぜか突如浮上してきたのが今回の海外旅行の舞台となったベルギーでした。実際は、もう少し心の動きがありましたが、自然と吸い寄せられるように落ち着いたのです。そばを食べたいときにそばを食べたなって感じのフィット感が、ベルギーにあったのです。この例えが余計ややこしくしていることはわかっています。

「え、どこですか?」

「ベルギーだよ、ベルギー」

 年末になると必ず海外どこに行くといった関係の話になります。南国・アメリカ系は、

「ハワイ?いいなぁ」

「ベガス?いいなぁ」

 みたいなことなのですが、「ベルギー」は必ず二度聞きされます。しかも、急なベルギーに対する情報はほとんどないので、

「あ、そうなんだ・・・」

 で終わるか、やさしい人で、

「ベルギーって、ワッフルの・・・?」

 と聞き返してくれる程度です。ただ、全員に共通しているのは、

「ベルギーになにしにいくの?」

 ということでした。僕もそのことを聞かれるまではそんな風に考えてはいなかったのだけど、あらためて訊かれると、返答に困りました。第一回目が「カフェオレを飲みに」、第二回目が「モーツァルトの生誕250周年を祝いに」、という名目上の目的があったものの、それはあくまで名目上のことで、実際は単に石畳の街を歩きたい、というくらいだったのです。だから、なにをしに?と訊かれても「ゴルフ」だとか「ショッピング」という具体的なワードじゃ説明できないのです。

「きみねぇ、その質問は非常にナンセンスだよ。それは、デイズニーランドに行く人になにしに行くのってきくようなもので、まったくロマンがない。そこに行くこと自体が目的なんだよ。そこにロマンがあるんだよ」

 そんなことを言ったら自然に友達がいなくなってしまうので、心の中にしまっておいて、

「まぁ、ワッフルとか?まだあんま考えてないんだけどね、あはは」

 みたいな感じでやり過ごしていました。とはいうものの、ベルギーだけだとコミュニケーション上あまりにパンチがないことを痛感したので、隣のオランダにも訪れることにしました。ベルギーだけよりも、オランダを加えた方が、「風車」や「ゴッホ」などの観光地としてのメジャーな印象を与えるのです。オランダには申し訳ないけれど、コミュニケーションを円滑に行うためには、オランダが必要だったのです。

 そうして、おせち料理も食べずに向かったベルギーはブリュッセル。そこはまさにディズニーランドのような街でした。それこそ、ミッキーのいないディズニーランドでした。詳しくは次週お伝えします。

1.週刊ふかわ |2007年01月14日 10:00