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2006年10月08日

第240回「物欲のない僕が」

まさに仏の域に達しているかと思えるほどに、僕には物欲がありません。そんなこと言う人に限ってどうせと思うかもしれませんが、ほんとに自分でも困ってしまうほど物欲がないのです。だから誕生日などに欲しいものはと訊かれると、特別思いあたるものがないので、ベビースターとかナボナという食べ物になってしまうのです。でもこれは物欲というよりも、満たしているのは食欲であって、「何かが欲しくてたまらない!」という状態ではありません。そういう意味で、僕には物欲がないのです。いや、なかったのです。過去形にしたのはつまり、それだけ物に対する欲求がなかった僕にも、ようやく欲しくてたまらないものが現れたからです。

僕がそれに興味を抱きはじめたのは、実のところ最近ではなく、一年程前のことでした。ずっと心の中で気になっていたのだけど、ここで好きになったら厄介なことになると思い、あえてその気持ちに気づかないふりをしていたのでした。
その気持ちが急浮上したのは、アルバム製作後のことでした。アルバムの製作がひと段落したときに、「自分にご褒美をあげるべきだ!」と思ったのです。通常のご褒美は、基本的に男の欲求を満たすDVDになるのですが、やはりここは6年ぶりのアルバムということで、もっと豪華なものにするべきだと思ったのです。すると、気づかないふりをしていたものが心の中で急激に膨張し、僕の心の中をすっかり占領してしまったのです。まるで、ファミコンが欲しいのに買ってもらえない子供のように、それなしでは心が満たされなくなってしまったのです。
それほどまでに僕を魅了するもの、それほどまでに心を奪うもの、それはまさしく車でした。男性で車にまったく興味がないという人はあまりいないと思います。男にとって車は、その住まい以上にこだわるところです。あるときは家のようで、あるときは友達で、あるときは彼女のような存在なのです。つまり男というのは自分の欲望を車に反映させるのです。そしてその渦中の車は、アメリカの車、つまりアメ車です。アメ車というと、やたら角張ってでかい印象を持つかもしれません。しかしそういうタイプではなく、大きさこそあるもののとてもかわいらしい感じの車なのです。その車が物欲を忘れていた僕の心を燃やしてくれたのです。
「えっ、黄色い車持ってるじゃない?」と思う人も少なくないと思いますが、決してあの「黄色い車」を手放したりはしません。あの黄色い車を残したまま、もう1台欲しいのです。つまり、車を2台持ちたい、ということなのです。平成も18年、小泉さんから安倍さんにかわった現在、ひとつの家庭で車を2台所有することは決して珍しいことではありません。しかしながら、芸人、それも若手から中堅になろうとしているくらいの独身芸人の場合、もしかするとまだいないかもしれません。やはり、僕も昭和の男です。戦後から久しくとも「もったいない」とか「贅沢」という言葉に過剰に反応してしまう世代です。そんな僕が車を2台所有するのはあまりにも贅沢という気がしてなりません。でも、でも、欲しいのです。贅沢をしてはいけないと頭の中で理解していても、心は納得しないのです。もう1台欲しいのに、2台所有する勇気がない。もう1台欲しいのに、もう1台を売りたくない。そんな32歳の葛藤を、とある某有名多趣味系車愛好家の方に尋ねてみると、「ふかわくんね、そりゃ買うべきだよ!」と即答されました。某有名多趣味系車愛好家の方曰く、「芸能人はさぁ、プライベートで満たされないとやってられないでしょ」とのことでした。
たしかに、プライベートも身を削る思いだとしたら、仕事する上で精神的に持たないかもしれません。普段が満たされているから心地よく仕事ができる、ということです。まぁ、芸能人にかぎらないことなのでしょうが。しかし、その理論にはうなずけるものの、やはり車を2台所有するというのは、一抹の罪悪感こそ抱いてしまうのです。ローラースケートを2台持っていても、自転車を2台持っていてもそんな風に思いません。ケータイを2台は少し抵抗があるけどパソコン2台は問題ないです。バイクだって2台持っていても罪悪感なんてありません。なのに車2台となると急激に罪悪感が生じてしまうのです。果たして自分は車2台を所有するに値する人間なのだろうか、なんて考えてしまうのです。
ここは聞き流していいですが、そう考えると1が2になるってすごいことです。10が11になるのは十分の一の量が加えられただけだけど、1が2になるのは、1が倍になってるわけですから。1から数えてそんな劇的な増え方することは、2以降はもう永遠に訪れないのです。そんなこと言ったら、0が1になるってもっとすごいことです。
ちなみに、某多趣味系車愛好家の方は、2台どころか十数台所有しているそうです。でも、そんなことを聞いても、決して嫌味ではなく、むしろ好感さえ持ってしまうほどです。では車を2台所有できる資格はなんなのでしょうか。冠番組を持ったらいいのでしょうか。それとも納税額なのでしょうか。もしかしたら、そんな資格なんてないのかもしれません。でももしそれがあるとしたらきっと、それをどれだけ愛しているか、ということなのでしょう。自分の立場がどうであれ、本当に愛していたら、それがたとえ高額なものであっても、それが2台目であっても、決してそれは「贅沢」でも「もったいない」ものでもないのかもしれません。だから、現在の僕がそのアメ車を所有してもいいのです。あとは、勢いなのです。果たして、僕が車を2台所有する日は訪れるのでしょうか。

1.週刊ふかわ |2006年10月08日 10:30