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2006年08月13日

第233回「雲は流れて」

「よし、これで完成だ!」
最終チェックが終わる頃、窓の外はまもなく朝を迎えようとしていました。
 以前番組でプロモーションビデオ(以下PV)を作ったことがありました。お題としてある楽曲が挙げられ、それに見合った映像を予算内で作成するというものです。いつかは映像の分野に踏み込みたいと思っていた僕は、小説と同じように「映像は35歳になってから」みたいな基準があったのだけど、その後何度か制作したことですっかり味をしめてしまい、「今回のアルバムのPVは自分で撮る!」と言っていたのでした。
「だからって、誰もついてこないなんて...」
撮影当日、僕は事務所に借りたデジカムを助手席に乗せ、家を出ました。たしかに自分で撮るとは言ったものの、本当に自分ひとりで撮りにいくとは思いませんでしたが、逆に自由にやらせてくれるレコード会社に感謝しました。なので、若干の不安はあったものの、とにかく撮れるだけ撮ってこようと思ったのです。
「で、なにを撮りにいこうか...」
今回のPVを作ることになったのは、「雲は流れて」という曲なのですが、これをPVサイズの4分程度にし、映像をつけるのです。登場人物がいるわけじゃないので、とにかく自由です。だから車を走らせたものの、特に目的地は決めず、とにかく目にはいってくるものをテープにおさめよう、という感じでした。ダッシュボードにカメラを置いて、流れる景色をずっと撮影していたのです。
PVの場合、ドラマなどと違って、頭の中での構想は当然必要ですが、イメージに縛られるよりも、目の前にある光景を撮るだけ撮ってしまったほうが、そのイメージを越えることが多いです。つまり、現実の映像の方が想像上のそれを越えるのです。だから移動中はもちろん、行く先々で海や空、流れる雲にレンズを向けていました。ひとたびカメラを手にすると、あらゆるものが魅力的に見えてしまい、撮らずにはいられなくなってしまうのです。モニター画面で切り取られると、すべてがいい感じに見えてしまうのです。
車から見える映像と音楽はとてもいい関係です。仕事に向かうときも、遠出をするときも、車の中はいつも音楽が流れています。家で聴くのも好きだけど、車の中で聴く音楽は、映像が飛び込んでくる分、より体全体で感じることができます。車だけでなく、新幹線や飛行機に乗っているときも、窓に映る景色を眺めるときはいつも、音楽が流れています。飛行機や新幹線は、運転という行為がない分、より一層映像と音楽に集中できます。僕が果汁グムが好きなのは、そういったときに食べていても「バリバリ」とか音がたたず、音楽の邪魔にならないからかもしれません。
「じゃぁ、とりあえず海に向かおう」
とりあえずで向かったものの、そこには魅力的な光景がたくさんあったので、気付くと、60分テープで5本分も撮っていました。これが、4分間のPVの素材となるのです。この映像素材を使って、ビデオクリップを作るのですが、つまりは組み合わせなのです。この音のときはこの映像、この音のときはこれ、みたいなことです。これがいい感じにはまると、とても心地よく、ある種の快感につながるのです。ただ、この映像を組み合わせる作業がまた根気を必要とするもので、あっというまに夜中になり、気付いたら朝になっているのです。編集室に入ったのが昼の12時で、終わったのが翌朝の5時です。一歩も外に出ずです。だから、完成したときは、なんともいえない達成感と脱力感と、じめっとした汗に包まれていました。自分の好きなことだと何時間でもできちゃうものなのでしょうか。好きになることは馬鹿になることであり、それこそがパワーになるのです。こうして4分半のPVができたわけです。
「今度のPVはタヒチで撮影してくるよ」
アルバムを作って、そのPV撮影のために海外に行って、いろんな海を撮影できたらどんなに幸せなことでしょう。アルバム制作を口実に、世界中の海に行けるのです。世界中のビーチでサンセットサウンドを堪能するのです。そんなことしたらもう帰ってこれなくなっちゃうかなぁ。あー、もう頭に浮かんでしまった以上、やるしかありません。曲のためのPVなのか、PVのための曲なのかって感じです。
波は人々の想いを運び、それらは空に舞って雲になる。雲は流れて空を駆けめぐり、やがて雨となって虹を作る。それはそれとして、やはり海はいいものです。

P.S.
みんなのおかげでアルバムの売れ行きも好調です。ありがとうございました。18日(金)は三宿でバースデーパーティーがあるのでよかったら遊びにきてください。欲しいものはベビースターです。
そして次週は、誠に勝手ながら、お盆休みとさせていただきます。

1.週刊ふかわ |2006年08月13日 10:00