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2006年05月28日

第222回「雨上がりの旅路〜後編の前編〜」

「さぁそれでは談合坂に着きましたので、降りる際にアメリカンドックを受け取ってくださいね」
自己紹介が半分も済んでないまま、僕たちを乗せたバスは談合坂サービスエリアに到着しました。西へ進むごとに雨は少なくなり、緑に囲まれた談合坂はすっかり晴れて、上着を脱ぎたくなるほどでした。今回のバスツアーは、名目上サービスエリアの旅なので、ここでアメリカンドックを食べることが一番の目的となります。
「いや、サービスエリアを単なる休憩場所として捉えられては困るんです!」
1ヶ月ほど前にした旅行会社の人との打ち合わせで、僕はサービスエリアの大切さを強調しました。
「ここでただ休憩するのではなく、アメリカンドックを持って記念撮影とかをしたいんです!」
「全員で、ですか?」
「そうです。だから前もって50本ほど予約しておいて、当日みんなに配るんです!」
「ちょっと可能かどうか確認します...」
旅行会社の女性は少し困惑していました、しかし、サービスエリア同好会代表の僕としては譲れない部分でありました。
「では受け取ったらガイドさんに着いて行ってくださいねー!」
打ち合わせで熱弁した甲斐あって、50本のアメリカンドックがはいったダンボールが届けられると参加者全員に配られました。
「みなさんこちらでーす!」
旗をもったガイドさんのあとを大の大人たちがアメリカンドックを持って並んで歩いていく光景は、まさにデモ行進を髣髴させるほどの迫力と怪しさがありました。いま思うと、ガイドさんも旗でなくアメリカンドックを持って先導してもらえばよかったと演出に悔いが残ります。
「それではいきますよー!アメリカーン!」
「ドーック!!」
昭和のバラエティーを思わせる掛け声に合わせシャッターが切られました。こげ茶色の衣が雨上がりの空に映えていました。その後、なぜかみんなその場を動かず、サービスエリアの片隅で50人がアメリカンドックをかじっていました。
「それではこのあとフルーツ公園に向かいますので、引き続き、自己紹介をしていきたいと思います」
途中でとまっていたマイクが再び動き始めました。
「私は、ふかわさんが髪を切ったときに、この人かっこいいなぁと思いまして...」
「え、なんていいました?」
「髪を切ったときに...」
「いや、そのあと」
「かっこいいなぁと...」
「あ、そうなんですかぁ!」
基本的に自己紹介は僕の気分をよくするためのコーナーでした。ちなみに、この週刊ふかわでお気に入りをあらためて訊いてみると、
「群青色に染まる前」、「いつものように」、「デリートマン」、「ふかわの愛した数式」、「music takes me everywhere!」、「大切な場所」などが票を集めていました。僕としても、読者の生の声は、どこに共感しているのかがわかるので、とても貴重でした。なんのことだかよくわからない人は、ハッピーノートをチェックしてね!
「あ、そうですか、そこで感動しましたかぁ!」
悪魔が忍び寄っていることも知らずに僕はみんなの言葉をきいて気分よくなっていました。
「さぁ、高速を降りましたよ!」
料金所を境に、僕のコンディションは急降下していきます。
「ガイドさん、あとどれくらいで...」
嫌な汗が出ているのがわかりました。高速道路を走っているときは後ろ向きで話していても問題なかったのですが、一般道に降り、しかも山道にさしかかると、世界一繊細な僕の体はすぐに異常を来たし、体中の毛穴から妙な液体が出はじめていました。
「ガ、ガイドさん、あ、あと、どれくらいで...」
「えー、もうすぐ着きますよ!あと10分くらいです!」
車窓からはきれいな富士山が見えていました。
「みなさん、富士山が見えますよ!」
富士の頂をみているとき、僕の体は気持ち悪さのピークに達していました。(別にうまいことを言おうとしているわけではありません)
「ガ、ガ、ガ、ガイドさん...あ、あ、あ、あと、ど、ど、ど...」
「はい、もう着きますよ!あと5分くらいです!」
こういうときの5分は異様に長く感じます。ともあれ、どうにか自然に逆らわずに第2の目的地、フルーツ公園に到着しました。バスを降りると山の中腹にある公園からは、富士山や広大な甲府盆地を望むことができました。そしてここでは、まるでデートできたかのような富士山バックのツーショット写真を全員と撮りました。
「大丈夫ですか?なんか気分悪そうでしたけど...」
「うん、全然だいじょうぶ!」
きっと、山道をあと10分も走っていたら、ビニール袋に手を伸ばしていたことでしょう。
「さぁ、みなさん、全員いますかー?」
バスに戻るたびにちゃんと全員いるかを確認するこのフレーズはまさに小学生の頃によく耳にした言葉でした。
「では、これから名湯ほったらかし温泉に向かいまーす!」
フルーツ公園から、フルーツの実がなっているようなデザインの街灯が並ぶ坂道を抜けると、山の頂上で、名湯「ほったらかし温泉」が待っていました。日曜日と言うこともあり、多くの観光客で賑わうそこは、まるで天空の楽園ようでした。ここから先はまた来週。
PS:最近見始めた人のために言っておくと、先日5月14日に行われた「200回記念日帰りバスツアー」の模様を2週にわたってお送りするつもりだったのですが、3週になってしまいました。次回でどうにか完結する予定です。あと、それとは全く関係ないのですが、来る8月2日にロケットマンの約6年ぶりサードアルバムが発売されることとなりました。みんなのおかげです。もう少ししたら詳しくお伝えします。

1.週刊ふかわ |2006年05月28日 10:00