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2006年03月19日
第212回「迷子〜後編〜」
それから数日後、男が再び交番を訪れると、思いもよらぬ言葉が返ってきました。
「えっ?やめた?!」
男は思わず声を上げました。
「そう。あとちょっとで定年退職だったのに突然やめるって言い出してね」
「そんなぁ...」
「もったいないよね、退職金もらえたのにね」
「そうなんですか...じゃぁ僕、帰ります...」
男はがっくりと肩を落とし去ろうとしました。
「おいおいちょっと待ってよ!それじゃ来た意味がないじゃない!」
「えっ、だって辞めちゃったって...」
「沢木さんが君との約束を忘れてると思う?」
「えっ?」
「約束はちゃんと守ったよ。ほら」
新見は一枚の紙を顔の横でひらひらと揺らしました。
「まさか...」
「君のホームグラウンドを見つけてくれたよ!」
「ほ、本当ですか!!」
「あぁ、本当さ!」
新見はまるで自分の手柄のように答えました。
「さぁ、座って座って!」
男は座るや、深呼吸を数回しました。
「あなたのホームグラウンドはこちらになります!」
新見が得意気に言うと、男は期待に満ち溢れた顔で目の前に置かれた一枚の紙を覗き込みました。
「まさか番組まで探しちゃうなんてねぇ。どう?最高の番組だろう?」
新見は男の表情を窺いました。
「そうですねぇ...いい番組ですね...」
満足気な新見に対し、男は先ほどの笑顔が消えていました。
「なに、なんか気にいらないことでもあった?」
「そうじゃなくって...あの、この番組って...」
「なに?」
「この番組って、テレビじゃなくって...」
「うん。ラジオだよ。なんかまずかった?」
「...いえ、まずくはないんですけど...」
「なに、なんか腑に落ちない感じだねぇ」
「いえ、うれしいです...ただ僕、テレビだと思ってたから...」
「あ...そう...」
少しの間、沈黙が流れました。
「じゃぁいいよ!返しなさいよ!沢木さん、この番組のためにどれだけ走り回ったと思ってんの!」
「いや、わかってます!ありがとうございます!」
とは言うものの、男の表情はすっきりしませんでした。彼は、テレビの中で自分のホームを探していたのです。
「ほんとに人の苦労も知らないで...あと、手紙預かってきたから」
「手紙?」
「あぁ。忘れずに渡してくれって」
男はすぐに封を開け、中を読み始めました。
「ラジオであることに少しテンションを下げてしまったかな。当初私も、君のホームグラウンドになりうる番組をテレビの中で探そうとした。しかし、なかなか君を受け入れるところがなかった。ただ、君のことを調べていくうちに気付いたことがあったんだ」
新見が横から覗いていました。
「君は以前深夜のラジオ番組をやり、それをものすごく大事にしていたそうだね。最終回では放送中に号泣し、すべての回の同録テープもずっと保存しているそうだね。それだけその番組を愛していたんだね。だから、君にはもう一度そういったラジオ番組が必要なんじゃないかと思い、企画してもらったんだ。ただ、忘れちゃいけないのは...」
2枚目の紙に移りました。
「忘れちゃいけないのは、レギュラー番組だからといって、それがすぐに自分のホームグラウンドになるわけではない、ということだ。そのフィールドを一生懸命耕さなければ、他人のグラウンド、つまりアウェイと同じなんだよ。自分のホームグラウンドは自分でつくる。そういう気持ちでいなければいつまでたっても自分のやりたいことなんてできない。逆にいえば、たとえ他の人の番組でも、しっかり耕していけばそこがホームの空気になる。温かい風が吹いてくる。つまり一番大事なのは、与えられた場所で精一杯やるってことだ。わかってくれたかな。自分のホームグラウンドになるように是非とも頑張ってくれ。ちなみに僕が定年前にこの会社を辞めたのは、特に意味はない。しいて言うなら、自分の意思で辞めたかっただけかな。もしなにかあったら、頼りないかもしれないが、新見くんに相談しなさい」
男の頬に涙の通った痕ができていました。
「で、どうする?」
「へ?なにがですか?」
「なにがって、タイトルだよ!」
「あっ、そうか、タイトルかぁ...」
「なんなら俺が考えようか?」
「なんでですか!関係ないじゃないですか!」
「関係ないことないでしょう。こういうの得意なんだから」
「いいですって!自分で考えますから」
「あっ、思いついちゃった!いいの思いついちゃった!」
「ちなみになんですか?」
「えっとね...」
新見は誰に聞かれてはまずいわけでもないのに、こっそり男に耳打ちしました。
「うーん、悪くはないけど...」
「そうかな、絶対いいと思うよ!もうこれしかないよ!」
「うーん...なんかそれでいい気がしてきた!」
「ほらね!俺センスあるんだから!」
新見がまた得意気な表情をしました。
「なんかいろいろとありがとうございました!」
そう言って、去って行きました。
「沢木さん、ありがとう!」
見上げると、青い空が広がっていました。
ということで4月からラジオ番組がスタートします。J-WAVEでやります。都合により詳細はまだ言えないのですが、正直、めちゃめちゃ嬉しいのです。以前東京FMで一人でやっていたのが終了して以来、ずっとやりたかったのです。ラジオが好きなのです。しかも、今回はロケットマンの番組です。ロケットマンの「ROCKETMAN SHOW」です。来週には時間などを発表できると思います。この番組が僕のホームグラウンドになるように頑張るので、みんなの力も貸してください。では、4月から始まる「ロケットマンショー」よろしくおねがいします。
1.週刊ふかわ |2006年03月19日 10:00