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2006年02月05日
第206回「私のお気に入り」
「この赤と黒のボーダーのやつ好きだなぁ」
テレビに映る僕を見て、そう感じている人も少なくないかと思います。赤と黒のでなくても、なにかしらボーダー系の服を目にしているのではと思います。番組によって、スタイリストさんが用意する場合と、私服で出演する場合があるのですが、僕は比較的、私服で出ちゃうことのほうが多いです。それ自体は別に珍しいことではなく、周囲にもいたりするのだけど、そういったタレントさんは服をたくさん持っているから他の番組で着ているのとかぶったりしないのです。でも僕は、服に対するこだわりこそあるものの、「服を着替えること」に対してのこだわりが年々減少してきたために、現在の様なヘビーローテーションになったのです。そればかりか、通常、家に帰って部屋着に着替え、翌日あらたな服に着替えて仕事に向うものですが、いつからか「家に帰って脱いだものを翌日も着る」というスタイルにシフトしてきたのです。よほど奥さんでもいれば否が応にも着替えさせられるのだろうけど、独身期間が長いとこうなってしまうのです。だからといって、僕が洋服をあまり持っていないわけでは決してありません。むしろ、結構持っているほうなのです。
「このニットいいね、いくら?」
「古着なんで安いですよ」
「えっ?2980円?じゃ、買うよ!」
という具合に、スタイリストさんが用意したもので気になったものは結構買ってしまうのです。なのに、着ないのです。買った段階で終了なのです。家に持って帰ったら既にピークを越えているのです。釣った魚にエサをやらないなんて言いますが、買った服に袖を通さない、のです。そして、中学生の頃のように、このジーンズにはこれをあわせて、みたいな鏡の前の時間が日常から消え去ってしまったのです。だから一度好きなスタイルが見つかると、それを学校の制服のように着倒してしまうわけです。こだわりと横着と独身が合わさって、赤と黒のボーダー率を上昇させているのです。でも、そんな僕のいま一番のお気に入りは、そのボーダーではありません。もっと幸せな気分になるものがあるのです。
「これだっ!!」
ファッション誌なんて普段は一切見ない僕が唯一見るのは、美容院で髪を切ってもらっているときです。それでもなんとなくパラパラめくっているだけで、特別なにかを見出そうとしているわけではありません。が、そのときページをめくる僕の手がとまりました。気になる写真が目に飛び込んできたのです。その写真にくいついてることを悟られたくなかったので、雑誌名だけインプットし、美容院をでてからすぐにコンビニで立ち読みしました。
「ポールスミスか。いいじゃない!」
それまでブランドなんて気にしたことなかったのですが、自分が気になったものがたまたま聞いたことのあるブランドだったことで少し嬉しくなりました。そしてすぐに朝の渋谷に赴き、写真と同じものを購入したのです。
2年前の冬に出合ったこのダッフルコートを着ると、なぜか気分がうきうきしてきます。近所のコンビニさえも原付で行く僕ですが、このダッフルコートを着ると、なぜか歩きたくなるのです。コンバースを履いて、河川敷を散歩したくなるのです。ポケットに手を突っ込んで、散歩したくなるのです。犬を連れていたらもっといいです。このダッフルコートを着ているだけで、物欲が満たされるとかそういう風なことでなく、なんともいえない幸福感に包まれるのです。
お気に入りのカバンひとつで日常が変わってくるように、人間ってちょっとしたことでとても幸せな気分になれたりするのですね。コンバースとボーダーと紺のダッフルコート。お気に入りに包まれると心が弾みます。こんな幸せな気分になれるから、冬が嫌いになれないのです。
1.週刊ふかわ |2006年02月05日 10:30