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2005年12月18日

第200回「悲鳴〜後編〜」

「あなただったんですね...」
新之助は、部屋で聞こえていた悲鳴が地球によるものだとわかると、それほど驚くこともなく、おもむろに立ち上がりました。
「ずっと泣いていたんですか?」
返事らしきものはありません。
「どうして泣いているんですか?なにが悲しいのですか?」
新之助は問いかけましたが、何を聞いても特別変化はなく、ただ波の音と泣き声が響いていました。空はどんよりとして、薄暗い雲がゆっくりと月の前を通過していきます。しばらくして、新之助は静かに言いました。
「人間のことを憎んでいるのですね...」
泣き声が一瞬やんだかのように思えました。
「人間があなたを泣かせたのですね...」
波の動きも一瞬とまったかのようでした。
「人間がそんなに憎いんですか?そんなに人間が悪いんですか?」
すると波はうねり、じわじわと悲鳴も大きくなってきました。
「たしかに人間は地球を破壊してきました。人類の欲望を満たすために、自然を破壊し、環境を変えてきました。でもそれは決して悪いことではないです。人類の進歩のためには避けられないことであって、それが文明なのです。地球に手をつけず進化するなんて不可能だったんです」
新之助は、まるで泣かせてしまった地球に弁解するように言いました。
「それに、近年ではエコロジーという言葉も生まれたように、地球を大事にしよう、地球を守ろう、という風潮になってきているのです。人間も環境のことを考えるようになたのです。だから、いままでのように好き放題に破壊するなんてことはないんです」
それでも波はおさまりませんでした。それどころかさらに上昇し、悲鳴は真夏の蝉のように、響いていました。
「わかってる。もしかしたらもう手遅れかもしれない。でもこうなってしまった以上、できるかぎりのことで修復していくしかないんです。あらゆる手段を使って、負わせてしまった傷を治療していくしかないんです。僕たちだって、地球の悲鳴は聞きたくないのです」
波はすこし穏やかになってきました。子供が泣きやむように、悲鳴も聞こえなくなりました。
「...じゃぁ、僕は行きます。もう寝るから泣いたりしないでくださいね...」
そう言って、新之助は海に背中を向けて歩いていきました。すると、どこからともなく、異様な低い音が響いてきました。「ゴォー」という地響きとともに地面が揺れ始め、新之助は立っていられなくなりました。
「なんだ、これは...」
背後から何かが迫ってくる気配を感じ、振り向くと、物凄い音を立てて波がうねりながら上昇していました。しかし新之助は、逃げようとはしませんでした。むしろ、迫り来る大きな波の進路をさまたげるように両手を広げ、立っていました。
「飲み込むがいいさ。人類を飲み込んでまた元の体に戻るがいいさ」
巨大な波の引力で、地面が引っ張られ、両足が掬い取られるような感覚でした。新之助を巨大な波が飲み込もうとしていました。
「人間に、もう一度チャンスをください...」
すると、まるでリモコンで消されたテレビ画面のように、目の前の世界がプチンッと消えてなくなりました。辺りは暗やみに包まれました。なにが起こったのか、夢の中だったのか、現実がどうかもわからなくなりました。少しして、ポケットにマッチが入っていることに気付いた新之助は、顔の前で火をつけました。
「あれは...」
火のむこうで何かが光っているのが見えました。新之助はゆっくり近付いてみると、水溜りのような、池のようなものがあるのがわかりました。おそるおそるその液体のなかに手を突っ込んでみると、それが思ったよりも温かいことに驚きました。片手を入れただけで、冷えきっていた全身の隅々にまで、その温もりが伝わってくるようでした。
「もしかしてこれは...」
次第に目が暗さに慣れてくると、辺りが森林に囲まれているのがわかりました。それどころか、向こうの方ではなにやら人の気配がしました。新之助はもう一度マッチに火をつけると、たくさんの人がその中にはいっているのがわかりました。緑に囲まれた温泉で疲れを癒しているように見えました。新之助はすぐに寝巻きを脱ぎ捨て、勢いよく飛び込みました。
「あぁ、生き返ったぁ...」
新之助は体が芯からあたたまっていくと、あまりに気持ちよすぎて深いため息をもらしました。それが、地球の涙であることも知らずに。
ということで、200回記念は温泉にいきましょうか。どこにいくとか、日帰りなのか、何泊にするとか、人数とか、そういったことはまだぜんぜん決まっていないけど、とにかく温泉にいきましょう。詳細は年が明けてからお伝えします。あっあと、前にも言いましたが、僕はミクシィとかそういうの、一切やらないのできをつけてくださいね。

1.週刊ふかわ |2005年12月18日 10:30