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2005年11月20日
第196回「ピーナッツ」
「ただいまから、映画ピーナッツの試写会を行いたいと思います。ごゆっくりお楽しみください」
スタッフの人がそう挨拶すると間もなく、試写室とはいえもはや映画館と変わらない設備の整った会場はゆっくり暗くなりました。
「遂に始まりますね...」
「いやぁ、緊張するなぁ...」
隣に座っている監督と言葉を交わすと、じゃぁあとでな、という風にスクリーンのほうに向きなおしました。暗がりではあるものの、頭をさわったりするしぐさに監督の緊張がひしひしと伝わってきました。監督にとって初の監督作品であり、それの試写会ということは、ある意味、客観的な反応を始めて体感するわけで、どんなに自信があっても緊張しないわけはなく、もはや唾をのんで見守るしかないわけです。
その監督の右隣には三村さん、大竹さんらが座り、僕は逆の隣に座っていました。それぞれに期待と不安を抱えながら座っていたと思います。単純に作品として楽しみではあるものの、果たして自分は与えられた役をしっかり演じきれているだろうか、空気をこわしていないだろうか、笑いはうまれるだろうか、そんな責任感がのしかかってくるわけです。だから、監督ほどではないものの、緊張せずにはいられないわけです。ただ、僕には出演者としてでなく、もうひとつの役割がありました。
「音楽を担当してくれないか」
監督の口からそんな言葉が飛び出したのは、今年の初めの頃でした。
突然そんな話があったとき、正直、戸惑わずにはいられませんでした。というのも、映画にとって音楽は、世界を盛り上げることも壊すこともできてしまうとても大切な要素です。だから、いくらやりたいことであっても自分の好奇心だけで軽率に受けてしまってはいけないと思ったからです。
「是非、やらせてください!」
頭の中のもうひとりの自分が、引き受けちゃって大丈夫なの?しらないよ?と冷静に見ていました。でも僕は、監督が僕に声を掛けてくれたことの重大さ、意味を考え、絶対にそれに応えなくてはならないと思い、引き受ける事を決めました。監督は、僕にチャンスを与えてくれたわけです。そうして僕は、「ふかわりょう」としての役割と「ロケットマン」としての役割を担うことになったのです。
もともと家にいるときはこの原稿を書いているか、曲をいじっているかという地味な生活なので、その日から生活が忙しくてわけわからなくなるということではありませんでした。しかし、曲を作る上でいままでと大きく違うことは、「状況にあった音楽を作る」ということでした。
僕のパソコンのハードディスクの中には、膨大な量の曲がたまっています。完成された曲もあれば、未完成のままの状態のものも多いのですが、その数は今でも増えていく一方で、まるで地上で羽ばたくことを夢見る蝉の幼虫のように、何年も地中に眠っているのでした。でも、そういった曲のほとんどが、仕事から帰ってきてなんとなくピアノを弾いていたら、「あ、この感じいいな」という部分を見つけ、そこから広げていった曲ばかりで、美化して言えば、体内から湧き出てきた曲ばかりでした。しかし、今回の場合、映画のサウンドドラックになるわけで、あくまで映画のための音楽なのです。ということは、そのシーンにあった曲、例えば悲しい状況だとか、不安な状況だとか、そういった状況に合わせた曲を作る作業になるので、それまでのような作り方では追いつかないのです。さらに、主張が強すぎても駄目だし、なさすぎても駄目なわけで、それに加えて監督のイメージもあります。だから僕は思ったのです。
「とにかく作るしかない!」
作るだけ作って、「これはこのシーンに使える。これはもうちょっとこうすればあのシーンに使える」と、多少効率は悪くても、監督のイメージにはまるまで作るだけ作ろうと思ったのです。そんなことを何度も繰り返し、アレンジャーの方のバックアップもあり、ようやく音楽を必要とするシーンの曲をすべて完成させるにいたったわけです。
「ロケットマン」という文字がスクリーンを上昇していくのを見ると、なんともいえない感動が押し寄せてきました。作品としてできあがったいま、あのときに断らなくてよかったと痛感しています。支えていただいたスタッフの皆さん、そして、ロケットマンとしてDJはしているものの曲制作においてはあまりに未知数の多い僕に、音楽という重要な役を与えてくれた内村監督に、感謝の気持ちでいっぱいです。いままでバラエティーでお世話になったお返しの一部になれば嬉しいです。そして、この作品が公開されるのは来年1月下旬の予定です。まるで、番組の卒業制作のようなタイミングになりましたが、実際、あの時だから作れた映画だったんじゃないかと、僕は思います。これは見ないわけにはいかないです。
1.週刊ふかわ |2005年11月20日 10:30