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2005年11月13日
第195回「言葉の力2」
言葉には計り知れない力がある、ということは前回でわかってもらえたことでしょう。むしろ、言われなくてもわかってたよ、なんて人も少なくないと思います。さて今回は、僕がかねてから苦悩していた、「言葉の力でなにができるだろうか」「言葉の力を世の中のためにもっと活用できないだろうか」ということについて言及したいと思います。
たとえば、コンビニのトイレの張り紙に、こんな言葉をよく見かけます。
「いつも清潔にお使いいただきありがとうございます」
これはまさに言葉の力を利用したもので、「トイレは清潔に!!」なんていうのよりも抜群に心に響くのです。これを見た人は、「あ、そうだね、きれいに使おう!」という気になるのです。頭ごなしに言われるよりも、感謝の気持ちのほうが受け入れやすいわけです。
「ほんとみんな綺麗好きだからやることなくってまいっちゃいます!」
ちょっと嫌味なくらいまで言ってもいいかもしれません。つまり、人に何かを伝えるとき、同じことを意図していても、言葉の選び方、並べ方次第で、その伝わり方は全然違ってくるということなのです。特に、人に何かをしてもらおうというときは、いくら言葉を投げてもそれが力のないものだと人は動かないものです。人の心を動かすには、力のある、生きた言葉が必要なのです。どんなに強い信念をもった政治家でも、生きた言葉を使えなければ、世の中に伝わらないということです。
「シートベルトをしめましょう」
車を運転しない人でもよく目にする言葉だと思いますが、これなんかはほんとにクソみたいな言葉を使ってるなぁと思うのです。たしかに意図はそうだとしてもあまりに無機質で、センスも知恵も一切感じられません。ただ並べているだけで、ほんとにシートベルトをしてほしいんだ、という情熱が感じられないのです。こんなんじゃ、人の心は動かないのです。あってもなくっても同じようなものなのです。もっと心に響く、生きた言葉を使うべきなのです。
「いつもシートベルトしてもらってありがとうございます。今後もひとつよろしくおねがいします」
トイレの張り紙風に表現するとこうなります。さらに「お願いします」を「お願いしやす」にするだけでも、腰の低さが伝わり、じわじわ効いてくるでしょう。
「大変お手数かけて申し訳ありませんが、シートベルトのほうを少し...すみません、いつもわがままばかり言っちゃって...」
これくらいへりくだって言われるとさすがにしないわけにもいかないでしょう。とても謙虚なお願いです。スペースに余裕があれば、「...あと、この前もごちそうになっちゃってすみません...」などのオプションフレーズを足すことで、器のでかい人間だという自覚がうまれ、率先してベルトを着用するでしょう。
「あいつ...あの時シートベルトさえしてれば今頃...」
情に弱い日本人向けの表現です。やはり情に訴える言葉は心に響きます。オプションフレーズとして、「今頃グラウンドで...」などのワードを足すと、何らかの選手だったんだという具体性が増し、よりイメージしやすくなります。
「よぉ久しぶりー!元気?シートベルトは?しないの?!」
まるで旧友かのよう感じをだしちゃうのもいいでしょう。フレンドリーな空気は相手をリラックスさせ警戒心を解いてくれます。オプションとしては、「葉書とどいた?田所結婚するんだってな!」という、共通の友人の話題なども有効でしょう。
「陽介、変わっちゃったね...だって、前の陽介はシートベルトしてたもん...変わっちゃったね...」
このように、恋愛タッチに表現されるとまたグッとくるものです。なにがそうさせてしまったのか、東京が陽介を変えてしまったのか。昔の彼女の言葉にはっとさせられるのです。オプションとして、「わたし、東京って好きになれないな...」などがおすすめです。
「シートベルトがあなたの人生をバラ色に変えます!」
これくらい大げさなのも結構いいと思います。英語的な表現ですね。
「しないと死ぬわよ! 数子」
「殴られたくなきゃシートベルトくらいしろよ! 力也」
「シートベルト、しめとくもんだなぁ...みつを」
「このカチッっていう音、素敵だよね! 修造」
「え、なに?シートベルト?いいよしなくて! ウエンツ」
このように、著名人の力を借りると、言葉がより生きてくる場合もあります。標語のポスターなどに有名人が使用されるのもやはり、普通のおっさんが言うよりも伝わりやすいからでしょう。キャラクターによってはウエンツ氏のように、あえて逆のことを言わせて反面教師的な扱いにするのもいいかもしれません。他に考えられるシートベルトの標語をいくつか見てみましょう。
「ねぇ、そろそろシートベルトしてくれない?もう57回くらい言ってるけど...」
「シートベルトしろよ、バイトのクセに!」
「あの、シートベルト...ちっ!誰も聞いてねぇや!」
「ねぇパパ、どうしてママはシートベルトしてなかったの?ねぇ、どうして?!」
「いま時間ないから簡単にいうけど、シートベルトだけしめといてくれない?」
「俺もさぁ、立場上しなくていいよとは言えないのよ、だからシートベルトだけたのむよ...」
「ほら!シートベルトしないから三田さん怒っちゃったじゃないか!」
「そんないやらしいことばっかり考えてないでシートベルトしなさいよ!」
「みんな、おまえがシートベルトするの、待ってるぞ」
「村中のみんなが、お前がシートベルトするの、待ってるぞ」
「おじいちゃんが最期にこう言ったの、シートベルトだけはしなさいって...」
「今週の第3位、TOKIOで、しなくちゃ!シートベルト!」
大切なのは、伝えること、表現することを甘んじてはいけない、ということですね。どんなに自分の頭の中にしっかりとしたビジョンがあったとしても、それと同じ形、同じ温度を相手に伝えることは決して容易なことではなく、ましてや人の心を動かしたいときは、言葉の中に情熱がこめられてないとだめだということですね。言葉は、発する人の熱意や知恵によって、そこに力が宿るものなのです。だから、日本語ブームと言われる昨今、正しい言葉を使うことも大事ですが、温度のある言葉を使うことも大切ですね。
1.週刊ふかわ |2005年11月13日 10:30