« 第192回「愛しのあいつ」 | TOP | 第194回「言葉の力」 »

2005年10月30日

第193回「前兆」

 テレビ局の楽屋というのは、どれも同じようでいて、部屋によって微妙な違いがあります。畳が敷かれた和室タイプもあればカーペットの洋室タイプもあります。その中でもホテルの一室のようなゴージャスなものもあれば、スタジオによっては「えっ?」という感じのところもあります。また、トイレ、シャワーなどが完備されているところもあります。芸歴11年の僕は、シャワーなどは特別必要とせず、顔を洗う洗面台さえあれば事足ります。まぁ、ほとんどの楽屋にあるものですが。その洗面台が真っ赤に染まったのは、某番組の収録前のことでした。
 洗面台で顔をばしゃばしゃとやっていると、目の前の世界が真っ赤になりました。
「うわっ、なんだこれは?!」
目の周りのしずくを指でぬぐってゆっくり目を開けると、洗面台のシンクにたまった水が赤く染まっていました。マネージャーは到着してなく、衣装に着替えていたので、それがなんなのか判明するまでは、体勢を起こしてタオルを取りにいくことができませんでした。少しすると赤い液体は排水溝に吸い込まれ、また透明の水だけになりました。そして再びバシャバシャやると、同じように目の前が赤く染まりました。赤いしぶきが、周囲に飛び散っていました。
「これは、もしかして...」
シンクのまわりに飛び散った色は、まさしく血であろうと思わせる赤色をしていました。しかし、顔に傷があったわけでもなく、当然痛みなどもありません。となると考えられるのはひとつしかありませんでした。
「鼻血だ...」
鏡に映る僕の鼻から、どろっとした濃い赤色の液体が流れていました。
 もう30年以上も生きていると、「あ、そろそろ風邪ひくな」という「風邪の前兆」みたいなものがわかってくるものです。僕の場合そういったサインみたいなのがやたら多く、年中風邪ひきそうだと騒いでいる感じです。もっともスタンダードな前兆として、「体が熱くなる」というのがあります。これはほんとにしょっちゅうなのですが、疲れやすい体質なのか、ちょっと動いただけですぐに体が熱くなってしまうのです。なんというか、火照っちゃうのです。すると、身の回りの貴金属の冷たさに過剰に反応するようになります。ちょっとしたチャックとか、イスのパイプだとか、それらにちょっと触れただけで氷をさわったかのように反応してしまうのです。温度だけでなく、ちょっと触れられただけでも痛みをともなってしまうほど、スーパー繊細な体になるのです。しかも厄介なのは、体温計に繁栄されない熱なのです。体が燃えるように熱いのに、いざ体温を測ってみると35度7分みたいな判定が出るのです。だから、それを理由に仕事などを休みづらいわけです。異様に熱くて病院に行っても数値に反映せず、気まずくなったりするのです。しかしながら、この「体が火照る」という前兆を無視して行動していると、案の定、翌日ダウンしてしまうのです。
 もうひとつスタンダードなものを挙げると、「のどが痛くなる」というのもあります。これは風邪の前兆としてポピュラーなものだと思いますが、僕の場合、扁桃腺が腫れやすく、小さい頃から病院に行くたびに「扁桃腺まっかだよ」と言われ続けてきました。現在では、外から手でさわってわかるほどに扁桃腺がはれるほどで、それは「もうこれ以上働くとやばいよ」というサインなのです。ときどき「扁桃腺」を病院で取り除くことができると聞いたこともあるけれど、手術の後に尋常じゃない痛みに襲われるらしいし、今はむしろ疲れのバロメーターとして利用している感じなのです。
 もうひとつの風邪の前兆は、おそらく他の人はなさそうだけど、「耳のうらのあたりがズキンッとする」のです。これも昔からあるのですが、これがはじまると、1分に一度くらいの割合で耳の裏の辺りがズキンッっとするのです。このズキンッが恐ろしい威力を持っているのです。どんなにテンションあげていてもこの一撃でいっきにダメージをくらうのです。だから、この「耳うらのズキンッ」がはじまったらルルを飲むようにしているのです。
そして最近になって頭角を現してきた「風邪の前兆」が、今回の「鼻血」です。過度に疲れがたまると「鼻血」が顔をだし、「もう休養しなさい」と忠告してくれるのです。以前、朝礼のときに鼻血を出して倒れる生徒がいましたが、そんな奴らを貧弱な奴だと心の中で思っていた自分が30を過ぎて、実際に鼻血を出すようになるとは思いもよりませんでした。今年だけでもう5回くらい鼻血を噴出させています。前々から思っていたのだけど、鼻血ってどうしてあんなに格好付かないのでしょう。血の中で一番格好悪い気がします。事態は深刻なのに、どこか間抜けな印象を与えてしまいます。もしかすると「鼻」がいけないのかもしれません。鼻からでてくると、どこかコミカルな空気になってしまうからです。だから今後は、「いかに格好良く鼻血をだすか」が人類の課題となるでしょう。とにかく、「鼻血」がでたらダウンの直前というわけです。
 細かい現象をあげればまだまだあるのだけど、これらの「風邪の前兆」とうまく向き合って、なんとか今年の年末を乗り越えたいものです。みなさんも風邪をひかないように気をつけてくださいね。

1.週刊ふかわ |2005年10月30日 10:30