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2005年10月23日
第192回「愛しのあいつ」
おかげさまで、僕が黄色のニュービートルに乗っているということは世間的にもだいぶ認知されてきたようで、街で僕本人を見かけて「ふかわかなぁ?」という疑惑も、車に乗り込む姿を見て確信に変わるケースも多くなりました。数々の番組に出演しているうえ、個性的なフォルムが僕のヘアースタイルにあっているからか、視聴者的に印象に残りやすいのでしょう。「ふかわといえば黄色い車」「ビートルといえばふかわ」といっても過言ではない状態になりつつあり、そろそろフォルクスワーゲンから礼状か宣伝料10万円的なものを頂いてもよさそうなものです。いや、もしかするとフォルクスワーゲン的には「これ以上ふかわのイメージをつけたくない!」と思っているのかもしれません。いずれにせよ、あの車からイメージする人物としてかなり上位にいることは確かでしょう。
その黄色のニュービートルがいなくなってから一週間がたちました。わけあって体調を崩し、入院してしまったのです。毎日行動を共にしていただけに、あいつがいなくなったとたん、急激にさみしくなってしまいました。面会謝絶状態なので会いにいくこともできません。退院を待つしかないのです。
「あいつのいないあいだ、このさみしさをどう紛らそう...」
だからといって僕は、入院中にほかのもので代用するつもりはありませんでした。あいつのかわりになんて誰もなれやしない、そう思っていました。しかし、気付くと僕は、レンタカー屋さんにいました。
「ごめんよ、これは浮気じゃないんだ、しょうがないことなんだ!」
心の中で何度も叫びました。仕事のことなどを考えると、どうしても代用が必要だったのです。こうして僕は、あいつが入院している間、トヨ子との新たな生活をはじめたのです。
トヨ子はある意味で完璧でした。ナビゲーションもしてくれるしシートベルトをしないとすぐに指摘してくれる。スタイルだって若者っぽいし。
「もしかしたら、このままトヨ子と...」
そんな気さえしました。あいつが入院していることを忘れることさえありました。
「ちょっと、どういうことよ!」
「あ、ごめん!」
「あなたの席は右側なのに、どうして左側にすわったのよ!」
「いや、その...」
「どうせ前カノでしょ!前カノが外人だったんでしょ!」
「いや、別にそういうわけじゃ...」
僕はあいつとの習慣のせいで、ついつい左側の席に乗ってしまったのです。
「もういいわ!私気付いてたの、いつも左側に乗ろうとしてるの。ウインカーとワイパーだってよく間違えるじゃない!音楽聴くときだってなんかおぼつかないし。全部き気付いてたのよ!」
「いや、それは...」
僕は、トヨ子に返す言葉が見つかりませんでした。トヨ子の言うとおり、あいつとの習慣が抜けきれず、あいつと違う部分に合わせることで、正直、疲れを感じ始めていました。
「だいたい私を選んだのも、前カノと似てるからでしょ!」
「そういうわけじゃ...」
トヨ子には完全に見抜かれていました。
「もう別れましょう...」
「おい、なに言ってんだよ、トヨ子...」
「誰かの代わりなんて嫌よ、別れましょう!」
「ちょっと待ってくれよ!」
「いやよ!あんな傷だらけのどこがいいのよ!」
「...もうわかったよ、事情を話すよ」
僕は、あいつが入院していて、その間の浮気だったこと、すべて話しました。
「わかったわ、じゃぁその子が戻ってくるまで、そばにいてあげる」
意外にもトヨ子は、僕のことを受け入れてくれました。
「そのかわり...」
「そのかわり?」
「私のこと、本気になっても知らないから...」
レンタカーで借りた車が、そんな風に言っているような気がしたのです。レンタカー生活が、まるで奥さんの妊娠中に浮気でもするような、どこかうしろめたい気分になったのです。男性が車に求めることは、女性に対するそれと同じだというのを以前きいたことがありますが、確かに僕自身も、女性にかわいらしさを求めているという点ではあながち間違いではない気もします。ただひとつ言えるのは、車も女性も、好きになるのは見た目の美しさでも、愛するのは欠点だということでしょうか。はやく退院してほしいものです。
1.週刊ふかわ |2005年10月23日 10:30