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2005年07月24日
第179回「犬が好きなだけなんだけど」
なにも今日言わなくていいことなのですが、僕は犬が好きです。まったく珍しいことでもわざわざ発表することでもないですが、本当に犬が好きなのです。現在は飼っていないけれど、実家にいた頃は「チビ太」という雑種の犬を飼っていました。小学校3年生のときに学校に捨てられていて、そのまま持ち帰り、その後20年近く飼いました。とくにこれといった芸もなく、言う事をきく犬ではなかったけど、もうかわいくて仕方ありませんでした。なんなんでしょうね、あのかわいさって。もう見ているだけでぎゅーっと抱きしめたくなりますよね。僕はそういう、犬のようなキュートさを女性に求めてしまうきらいがあります。僕の理想のタイプというのは、「犬のような女性」と思っていたのですが、最近になってわかりました。「犬のような女性」じゃなくて、まさに「犬」なのです。「犬」が僕の理想のタイプなのです。もう僕の欲求を満たしてくれるのは「犬」しかいないのです。そんなばかげたことを真剣に思ってしまうほどに、犬が好きなのです。
だから、昨今のペットブームは少し不安になります。これだけブームになるとかならず悲しい思いをするペットが増えるからです。犬を生き物として扱わない人や、軽い気持ちで飼ってしまう人もいるでしょう。ペット産業が過熱すればそれだけ商業的になり、悲劇を生みかねないのです。そういった、人間のエゴでペットを悲しませるのはよくないことです。ブームの犠牲を犬に払わせてはいけないのです。
僕自身、犬を飼いたいのだけれど、一人暮らしで留守番ばかりさせていたらかわいそうだし、ペットを現場につれてくる女優さんはいても、犬を連れてくる芸人さんは見たことはありません。よほど大御所じゃないと「あいつ何しにきとんねん!」みたいになってしまうので、飼いたい気持ちを抑えているのです。だから、道端でかわいい犬を散歩しているひとを見るととてもうらやましくなるのです。「犬好きに悪い人はいない」なんて言葉を以前聞いたことがありますが、たしかに犬を飼っている人同士は共通点がはっきりしているから打ち解けやすいのかもしれません。生き物を飼うという感覚はたしかにどこかで思いやりの気持ちがないとだめなのでしょう。しかし、です。「悪い人」はいないはずの犬好きの中でも、「それはだめでしょ」って人がいるのです。同じ犬好きだけど、どうも許せない人たちがいるのです。散歩してフンを始末しない人なんかはまったく話にならないのであえて触れませんが、僕が気になっているのは「犬を放して散歩している飼い主」です。そういう人たちは決して悪人ではないのだけど、僕は、よくないと思うのです。たまに、こんなことがあります。
「こら、ラッキーちゃん、だめよ、こらぁ」
よほど飼いならされているのか、中型犬のラッキーちゃんはいつもリードなしで散歩しています。ラッキーちゃんは「絶対に人を噛んだりしない」のだけれど、好奇心旺盛なので気になったものに向って走ってしまいます。そのときも、男の人を発見し、喜んで走ってしまいました。すると飼い主のおばちゃんが少し離れたところからいうのです。
「こらラッキーちゃん、だめでしょ!ごめんなさいねぇ」って。そしてなにごともなかったかのように、去っていくのです。僕はそんな光景に遭遇すると、こう思うのです。
「ちょっと待ちなさいよ。ラッキーちゃんだめでしょじゃねぇだろうが。アンタは優雅に犬の散歩してるのかもしんねえけど、ここはアンタひとりの場所じゃねえんだよっ!放し飼いはおかしいんとちゃうんか」
要するに、大丈夫だからという自分の納得だけで、犬を放し飼いしているおばちゃんは、だめだと思うのです。「ラッキーちゃんが噛まない」ということは飼い主だけの常識であって、世の中の人が知っているわけじゃないのです。渋谷の女子高生も丸の内のOLさんも、霞ヶ関のサラリーマンも、みんな知らないのです。それなのに、おばちゃんは自分の価値観で「ラッキーちゃんはリードなくてもへいき」と決めてしまっているのです。しかしそれは、おばちゃんの中でしか成立しないことなのです。「噛む、噛まない」はあくまで結果論であって、周囲に「あ、犬が向ってきた、もしかしたら噛むかも!!」と思わせたらそれは立派な迷惑なのです。相手に恐怖心を与えているのだから、極端に言えば、暴走族と同じようなものなのです。リードなしで散歩する資格はないのです。これが仮に、犬が苦手な人だったらもっとその影響は大きいはずです。国民にアンケートをとった結果、100%の人が「ラッキーちゃんは絶対に噛まないし、人なつっこくって安全だよ」と口をそろえて言うようになるくらいじゃないと、おばちゃんはリードなしで散歩してはいけないのです。
「自分の価値観を当たり前だと思ってはいけない」ということは、おそらくどの世界でも言えることで、社会で生きてきくうえでとても大切なことです。自分の尺度と他人の尺度なんて違うのが当然で、食い違わないほうがおかしいのです。みんなが違うものさしを使っているからこそ、「こことここだけはあわせよう」という「ルール」があるのです。だから飼う人は、自分の価値観で物事を進めてはだめなのです。世の中には犬を飼わない人、犬に興味を持っていない人、犬が苦手な人がいるということを常に感じていなければならないのです。
僕たちも、自分の価値観だけで物事を進めてはだめなのです。世の中には、自分と別の価値観で生きている人のほうが多いのです。だから、自分の価値観を押し付けるのではなく、人の価値観を認めなくちゃならないのです。そうしないことには、永遠に平和なんて訪れやしないのです。犬が好きだと言いたいだけだったのですが。
1.週刊ふかわ |2005年07月24日 10:30