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2005年07月17日

第178回「もうとまらない」

「ん?なんだこれ?」
ポストをあけると、いつもは不要な広告しかはいっていないのに、なにやら茶色の小包のようなものがはいっていました。
「めずらしいなぁ、こんな小包なんて...」
誰からだろうと差出人の欄を見ると、予期せぬ事態に僕は驚きました。
「ア、アマ...アマゾン?」
まさしくネット販売のアマゾンのことです。あまり宣伝ぽくなるのもなんなので、今後は「A」と表記します。
「なんで、なんで?!」
驚いたのは、注文していないのに届いたからではありません。
「えっ?なんでこんな早く届くの?!だってだって、注文したの昨日じゃなかった?」
あまりの配達の早さに驚いてしまったのです。ネット販売ってすくなくとも3、4日はかかるものだと思っていたのです。あまり詳細をみていなかったのもあるけど、まさか翌日手にするとは夢にも思っていなかったのです。
「ぜったい楽だからやってみたらいいよ!」
「いや、でもなんか僕ってネット販売とかって好きじゃないんですよねぇ。なんていうか、味気ないっていうか。人間社会に反するっていうか」
「まぁまぁ、やってみたら変わるよ」
近所のお気に入りのCDショップがなくなって、僕のCD購入意欲も減退していました。そんな矢先、知り合いの人が僕にネットで購入できる「A」を勧めてきたのです。当然、ラブ&ピースと人間愛を重んじる僕にとっては、ネット販売なんて人の温度を感じない冷酷な産業だと思っていました。しかし現実は、あらゆる面で僕の予測をはるかに上回っていたのです。
「しかし、昨日注文して今日届くとはなぁ...」
なかば興奮状態で茶色の小包を開けると、僕が注文したばかりのCDがちゃんとはいっていました。
「こんなに楽で便利なシステムだったら、みんなこっちに流れるよなぁ...」
ただ早いだけじゃないのです。品数もすごいのです。30年も生きていると、音楽の好みも多数派にならないことが多く、必然的にレアなCDを捜し求めることになります。しかし、大きいCDショップに行ってもなかなか見つからず、運がよければ取り寄せられるものの、輸入版だと取り寄せることすらできないこともあるのです。その点Aは、思った以上に品数が豊富なのです。通販だからといってなめてかかったらいけないのです。世界のレアグルーブが見つかったりするのです。そして、万が一なかったとしても、そうしようとしている姿勢が見られるのです。「なんとかしてアナタの欲しいもの見つけます」という熱意が伝わってくるのです。店員さんに面倒くさがられることもないのです。そしてもうひとつ、これが結構大事なのですが、音楽を開拓しやすい環境になっていることです。たとえば、ビートルズのアルバムを買おうとすると、「ビートルズ好きだったらきっとこういうのも好きかもよ」という具合に、他のCDもすすめてくるのです。これによって音楽の世界が広がっていくのです。商売上手といえばそうなのかもしれないけど、でもどこか良心的な匂いがするのです。ここらへんのことを既存のCDショップは怠っていたのです。そして最後に、これも発展の要素として重要ですが、「楽しさ」があるのです。「このコンピレーションに参加してるこの人って、ほかにCDだしてるのかなぁ?」なんて試しに検索してみると、「なになに、こんなにだしてんじゃないのー!」という具合に、そこには発見する喜びがあるのです。探していて「楽しい」のです。このペースだとAの宣伝だけで終わってしまいそうなので、あとはみなさんで体験してみてください。
もう、この流れは誰にもとめることはできません。ここでいくら「ネット販売は、人のふれあいが欠落している!」と叫んだところで、のれんに腕押しなのです。そんなの痛くもかゆくもないのです。なぜなら人類は、楽な方、便利なほうに流される生き物だからです。人類の歴史において、楽じゃない方向に進んだことはないでしょう。「人間は楽なほうに流される」それが自然の摂理なのです。この流れを食い止めるのは、ある意味、戦争をとめること以上に難しいことなのです。もしもネット販売をやめさせるには、それ以上に楽で便利な購入方法を発明しなければならないのです。
 では、今後どうなってしまうのでしょう。人々の買い物がすべてネットで購入するようになることだって考えられます。いくらそこに反発しても時代の流れをとめることはできません。大切なのは、状況を冷静に判断し、足りない部分を補うことです。ここでいう「人とのふれあい」がもしも欠如していたら、他の分野でそれをカバーしなくてはならなくなるのです。
音楽業界としては、ネット販売が主流になると、メジャーとインディーズの境は今以上になくなり、ダウンロードなども後押しして、現在のような「メジャーレーベルだからどうこう」といったことは軽減するはずです。悲しいことに、いくら時代はかわっても、金と権力で左右されることを皆無にはできないのです。しかし、ネット販売やダウンロードが主流になればきっと、ランキング番組なんかも減ることでしょう。個人的には、音楽をあの手のスタイルで世の中に伝えるのはおかしいと思っているので、あんなのはすぐにでもなくなったほうがいいのです。音楽は多数決じゃないのですから。
ということで、少しかたい話になってしまいましたが、簡単に言うと、「ネットで買うことにはまってます」ってことでなんです。いまさらですが。どこのお店でもみかけない(ビレッジバンガードをのぞく)僕の本やCDを、ここでは購入できるということも、「A」を支持する理由のひとつです。作者にとって、自分の作品がより多くの人の手に渡ることが幸せなのですから。

1.週刊ふかわ |2005年07月17日 11:00