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2005年05月01日
第167回「看板に偽りなし?」
一月くらい前のことです。ロケの移動中、とある繁華街を歩いていると、
奇妙な看板を見つけました。一度は普通に通り過ぎたものの、なんか気に
なってあらためて見ると、やはりそこには、どこかおかしな文字が並んで
いました。なんとなく辺りを見渡しながら歩いていた僕の目に、「探偵バ
ー」という文字が飛び込んできたのです。つい二度見してしまうほどに僕
を惹きつけたその看板は、同時に、いったいどういうお店なのかと、想像
をかきたてました。
「ここかぁ、、、」
雑居ビルの薄汚れたエレベーターで9階にまであがると、そのお店はあり
ました。アンティーク調の木製の扉を開けると、中から静かな音楽がこぼ
れてきました。
「いらっしゃいませ」
店内に入るとすぐに紳士が穏やかに声を掛けてきました。
「あの、下の看板に探偵バーって、、、」
「そうです、探偵バーです」
「すみません、はじめてなんですけど、どういったお店なんですか?」
「はい、ご説明いたします。こちらのバーは、現役の探偵が経営しており
まして、従業員も普段は探偵として働いているのです」
「そうなんですか、じゃぁアナタも?」
「はい、そうです」
紳士は照れくさそうにうなずきました。
ストレートに想像すればこのような感じのバーになります。しかし、店員
さんが皆探偵だからといって、そこにどんな特典があるのでしょう。そん
なにうれしいものでもなく、さほどテンションもあがりません。お店をで
たあとに尾行されたりしそうだし。
「いらっしゃいませ」
「あの、下の看板に、、、」
「そうです、探偵バーです」
「じゃぁアナタ、探偵さん?」
「そうですが、お客様は?」
「いえ、違いますけど、、、」
「申し訳ありません、うちのお店は探偵のためのバーでして、、、」
という状況も考えられます。探偵による、探偵のための、探偵バー。どう
でもいいけど、この「探偵」という文字をずっとみてるとなんだか「ほん
とにこの字だっけ?」みたくなってきました。
「いらっしゃいませ」
「あの、下の看板に、、、」
「そうです、探偵バーです。当店のご利用は?」
「はじめてですけど、、、」
「では、まずこちらの衣装の中からお好きなのをお選びください」
「え、衣装ですか?だれの?」
「お客様のです」
「僕が?着替えるんですか?」
「そうです。当店ではお客様のみなさんに探偵になっていただくので」
というように、そこに来たお客さんが探偵に扮装し、いわゆる「探偵ごっ
こ」をするバー。シャーロック・ホームズだとか、松田優作だとか。でも
はたしてそんなことをして楽しいものだろうか。いずれにせよ、一度はいっ
てみないと真相はつかめません。だからといって、普通のバーにさえ行き
もしないのに、ましてや「探偵バー」と掲げるお店になんて入れるわけあ
りません。それこそ、探偵を雇って調査してほしいくらいです。こういう
表現は結構勇気いります。それから数日後、僕の中でまだ「探偵バー」の
もやもやがとれてないうちに、新たに奇妙な看板を目にすることになりま
した。その分も今回に詰め込もうと思いましたが、前回が若干ヘビーな文
章だったので、今回は少し軽めにしました。よいゴールデンウィークを。
1.週刊ふかわ |2005年05月01日 11:00